第22話

「今日はいい天気だね」

「そうだな」


 今日は雲一つない快晴だ。さわやかな風も吹いていてとても気持ちがいい。今日は幸せな1日になりそうな気がする。軽やかな足取りで草原を歩いていると急に空から1匹のモンスターが現れた。全身の皮膚が真っ白で、目は金色、大きな耳が特徴的だ。


「お前らがテスをやってくれたアロルとサラか?」


 モンスターは俺達に問いかけた。


「そうだ、お前もギガンデノスの部下なのか?」


 俺は威嚇しながら聞いた。


「ギガンデノス様の右腕のタスラフだ。テスは俺の親友だった。親友の仇とらせてもらうぞ」

「王都を襲うから悪いんだろ!まぁいい、かかって来い!」


 そう言うと俺は構えた。タスラフは瞬間移動をしていきなり俺の目の前に現れ、キックを俺に打ち込んだ。俺は吹っ飛ばされた。起き上がり、辺りを見回すと今度はサラの目の前に瞬間移動していた。そして、サラの頭を両手でつかみ、思いっきりひねった。サラの頭は変な方向を向いている。サラの顔からはすでに生気が感じられない。


「サラーーー!!!」


 俺はかけより、サラの呼吸を確認した。サラは息をしていない。脈拍も確認したが動きはない。死んでいる。


「サラ!!!サラ!!!ちくしょう、ちくしょう…」


 その時突然目の前が真っ暗になった。俺も死んだのか?いや、人の声が聞こえる。どうやらまだ生きているようだ。


「アロル、アロル」


 サラの声だ!俺はバッと目をあけた。


「やっと目を覚ました。今日はずいぶん寝坊しちゃったね、アロル」


 ん?なんだ、俺は夢を見ていたのか。サラが死ぬ夢なんて縁起でもない。こんな夢もう二度と見たくない。それにしても恐ろしい夢だったなぁ、まだ体が少し震えている。夢を見て体が震えるなんて初めての体験だ。


「ねぇ知ってる?この町ってスケート場があるんだよ。魔法で池を凍らせてあるんだって!行ってみようよ」


 サラは無邪気に笑いながら語りかけてきた。


「いいね、行ってみよう」


 俺達はさっそくスケート場に向かった。泊まっていた宿からすぐ近くにあり、歩いて10分ぐらいで着いた。さっそく俺とサラはスケート靴を借りた。


「なんかこの靴すごいはきづらいね」


 サラはスケート靴をはくのに苦戦している。俺も無理矢理押し込んでなんとかスケート靴をはいた。


「よし、準備オッケー!さぁ滑ろう!私スケートって初めてだから興奮しちゃうな」

「俺も初めてだから熟練者の動きを研究しないと」


 サラはスケートリンクに立った。そしてその瞬間、こけた。


「キャア、なによこれー、超すべるー」


 人が転ぶのを見るのって面白いな、ぷぷぷ。

 俺は滑る前にじっくり観察をしている。うまい人達の動きをよく見てコツをつかもうとしているのだ。しかし、見ているだけではなかなかつかめない。やはり、こういうものは体験しながら学んだ方がいいのだろうか?

 俺もスケートリンクに立ってみた。するとサラと同様いきなり転んでしまった。


「きゃはは、アロルの転び方おかしいー」


 サラは俺を見て笑っている。なんだよ、自分だってさっき派手に転んでたくせに。しかし、俺が観察している間にサラはだいぶうまくなった。運動神経がいいから上達が早いようだな。俺も負けてはいられない。

 何度も転びながら、練習を続け、やっとそれなりに滑れるようになってきた。


「滑れるようになるとスケートって楽しいね、アロル」

「そうだな、苦労した分、喜びは大きいぜ」


 俺は調子に乗って後ろ向き滑りに挑戦してみた。たぶんうまくいかないだろうと予想していたが、予想に反して意外とうまく滑る事ができた。


「どうだサラ、すごいだろー?」

「あっ、危ない!」


 ドンっと人とぶつかってしまった。


「いってぇー、どこ見てすべってんだよ、間抜け!」


 ぶつかった相手は10才ぐらいの少年だった。ちょっと生意気だからイラっとしたが、今のは俺が悪いので仕方がない。


「すまん、すまん。けがはなかったかい?」


 俺は大人の対応をみせた。


「ふん、けがなんてねぇよ、へたくそのくせに変な滑り方すんなよな!今後は気をつけろよ」


 こいつ…やっぱりぶん殴ってやろうか?いや、落ち着け、こんな子供相手にむきになったら大人げないじゃないか。穏便に、穏便に。


「ああ、気を付けるよ」


 少年はまた滑り始めた。

 偉っそうな事言ってどうせこの少年も大した事ないんだろ?まったく弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったもんだぜ。

 少年が転んだら笑ってやろうと思い、しばらく少年の滑りを見ているとその技術の高さに俺は驚愕した。

 後ろ滑りを完璧にマスターしており、動きもすごいなめらかだ。氷上で高速回転をしたり、ジャンプして空中で何回転もして見ている人達を魅了した。

 こんなにすごい奴だったのか…ある程度傲慢になってもしょうがないな。俺がそのレベルに到達するまで何年かかるだろう。俺はしばらく少年の動きに見とれていた。

 おっといかんいかん、俺も練習せねば!

 俺とサラは何時間も滑り、2人共だいぶ上達した。


「もう足が痛くなっちゃった!そろそろ終わりにしようか?アロル」

「そうだな、充分楽しんだし、もう終わりにしよう」


 俺達はスケート靴を返却して、スケート場を出ると、目の前に温泉が見えた。


「なぁ、温泉入っていこうよ、サラ」

「いいね、行こう、行こう」


 俺達は入浴料を払い、入場した。

 おっ、この温泉にはサウナがあるのか。サウナは大好きだ!さっそく入ろう。俺はサウナの扉を開けた。ムワっと熱気が俺の体を取り巻いた。いいね、いいね、この感じ!やっぱりサウナは最高だぜ。俺はイスに座り、ジッとしていた。汗がジワジワ出てくる。良い気持ちだ。体中の悪い物が汗と共に排出されているようでとても気分がいい。じっくりサウナを楽しみ、サウナ部屋から出ると、隣りに用意されている水風呂に勢いよく飛び込んだ。

 ぷはー、さいっこう!この瞬間のために生きているようなもんだよなー。俺は頭の先まで水に浸かった。顔を水から出すと、水風呂の横に注意書きが書かれている事に気が付いた。「体を流してからゆっくり水に入りましょう。水に浸かるのは肩までにして下さい。決して飛び込んだりしないで下さい」と書かれていた。

 一つも守っていないが、そんな事は気にしない。俺はルールに縛られない人間なのだ!

 水風呂から出ると、露店風呂に入った。隣の女風呂とはとても薄い壁で仕切られているため、声が丸聞こえだ。


「いい気持ちですね」

「そうだねー、温泉に来て良かったよ」


 サラが客と話しているのが聞こえた。とても美しい声だ、きっと容姿も美しいに違いない。俺は声をもっとよく聞くため壁に近づいた。すると、なんという幸運だろう!壁に小さな穴があいているではないか!この穴から女湯がのぞき放題だ!

 いや待て、それはゲスのする事だ。俺のような紳士はのぞきなんてみっともない事ができるわけがない。俺は壁から去ろうとした。


「アリスさんってとっても胸大きいんですねー」

「あら、サラちゃんだって大きいじゃない」


 その会話を耳にした次の瞬間、俺は穴から女湯をのぞいていた。

 しかし、期待していた俺の女性像は見事に崩れさった。風呂に入っていたのはデブのおばさんとサラだけだった。しかも2人共タオルを巻いている。

 クソっ、見て損したぜ!


「ねぇ、あの壁に小さな穴があいてない?」


 おばさんが穴の存在に気づいた。

 やばい!のぞいている事がバレてしまう!俺は急いで壁から離れた。


「あっ、ほんとだ!よくこんな小さい穴見えましたね」


 ふー、危ない所だったぜ…なんとか助かった。

 俺は風呂からあがり、何食わぬ顔でサラと合流した。


「ねー聞いてよ、ここの露店風呂の壁に穴があいてるんだよー。これじゃあ女湯をのぞこうっていう最低の奴に見られ放題だよ。まぁそんなクズでバカな最低男めったにいないだろうけどさー」


 なにもそこまで言う事ないじゃないか…俺の意思に反して体が勝手に動いてしまっただけなんだから…俺は悪くない!俺は自分で自分に言い訳をした。


「い、いるわけねぇよそんな奴…も、もしいたら俺がぶっとばしてやる」

「その前に私がボコボコにしてやるわよ」


 そんな会話を繰り広げていると、突然町中にサイレンが響き渡った。町の人達が家から飛び出し、逃げ出し始めた。


「何があったんです?」


 俺は町民に尋ねた。


「モンスターが攻めて来たんだってよ!兄ちゃん達も早く避難した方がいい」


 俺が1匹残らず叩きのめしてやるぜ!

 俺達はモンスターと戦い始めた。たいした事ないモンスターばかりであらかた退治し終わった頃、ある1匹のモンスターを見て愕然とした。

 夢で見たモンスターと全く同じモンスターなのだ!まさかこれが予知夢というやつなのか!?


「ずいぶん邪魔してくれたな、まずお前らから殺してやる」


 モンスターは俺達の方を見ながら言った。


「やれるもんならやってみろ!タスラフ!」

「ほう、よく俺の名を知っているな。まぁそんな事はどうでもいい。死ね、小僧!」


 タスラフは俺の方へ向かって来た。俺はとっさに回し蹴りを放った。見事にタスラフの脇腹をとらえた。しかし、ダメージを与えていない。


「ふん、まったく効かんな」


 タスラフは笑いながら言った。そして、キックを俺にくらわせ、夢と同様に俺はすっ飛ばされた。俺はすぐに起き上がり、手の平に魔力を集中させた。


「くらえ、マフトーバ!」


 大きな火の玉はタスラフをとらえたかに見えた。しかし、火の玉はタスラフの体をすり抜けてしまった。

 今度はサラが構えた。


「これで終わりよ!ダイバクフ!」 


 サラの水魔法も命中したように見えたが、どうやらまたすり抜けてしまったらしく、タスラフはまったくダメージを受けていない。

 タスラフがパッと消えた。やはり夢の中と同じように瞬間移動が使えるのか!

 タスラフはサラの前に姿を現した。そして、サラの額に手を当てた。次の瞬間サラが爆発した。サラは粉々に吹き飛び、跡形もない。


「そ、そんな…サラ…サラが…サラーーー!!!」


 俺は泣き崩れた。

 ここで夢の時と同様にいきなり目の前が真っ暗になった。そして誰かの声が聞こえてきた。


「アロル、アロル起きて」


 サラの声だ!俺は飛び起きた。


「良かったー、サラが生きてる!」

「何言ってんのよ、寝ぼけてないで行くわよ」


 どうやらまた夢だったようだ。そういえば、夢の中では蹴られても痛くなかったな。俺は頬をつねってみた。痛い、今度こそは現実だよな?

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