第23話
重い…やっぱり2人分の荷物を持ちながら歩くのはしんどいなぁ。先ほどサラとちょっとした勝負をしたんだが、見事に負けてしまい、罰としてサラの分の荷物も持つ事になってしまったのだ。
なんか最近色んな分野でサラに負けてる気がする…どうでもいい勝負でもやはり負けるとへこむぜ…こんちきしょー。
しかし、負けた事を気にしてるとは思われたくないので、俺はなんてことない顔をして、心の中でグチグチと文句をたれながら林道を進んだ。
「あっ、見て!茶屋があるよ!ちょっと寄ろうよ、アロル」
「そうだな、ちょうど疲れてきた所だ」
俺達はのれんをくぐり、茶屋に入った。店内では1人の男が値切り交渉をしていた。
「この餅100ギンドにまけてくれよ、おばちゃん」
「150ギンドでもギリギリなのにこれ以上下げられないよ」
「そこをなんとか頼むよー」
みっともない奴だなぁと思いながらその男の顔をよく見るとなんとルシアンだった。
「おい、ルシアンじゃないか!?」
俺は男の肩をたたいた。
「ん?おお!!アロルとサラじゃないか、ひさしぶりだなぁ、元気だったか?」
「ああ、それなりに楽しくやってるよ。なぁサラ」
「うん。またルシアンに会いたいなぁってアロルがしょっちゅう言ってたよ!ルシアンの事好きになっちゃったみたい」
「え?アロルってホモだったの?」
ルシアンは後ずさりした。
「そんなわけないだろ!」
「ははは、冗談だよ」
俺達は談笑しながら、おやつを食べ始めた。ちなみにさっきの値切り交渉は失敗してルシアンは150ギンド払う事になった。
「お前も『ベルノビラ』に行くのか?アロル」
「そうだよ」
「じゃあその町まで一緒に行こうぜ!俺もそこへ行く所だったんだ」
「いいね、そうしよう」
俺達は食事をすませて店を出ると、林道を歩き、次の町へと向かった。しばらく歩くと俺達は信じられない光景を目の当たりにした。なんと大きな湖の上に町が浮いているのだ。
「すごいね!ここが水上都市『ベルノビラ』かー」
サラはとても感動しているようだ。
「でもどうやって水の上を歩けばいいんだろう?」
俺は疑問を投げかけた。
「あそこの家の人に聞いてみようぜ!」
ルシアンは大きな白い建物を指さして言った。
さっそく白い建物の中に入ってみると、中には数人の人間がいた。
「あのー、ベルノビラに行きたいんですが、どうやって水の上を進めばいいんですか?」
俺は質問した。
「ある魔法をかければ誰でも水の上を歩く事ができるようになるんですよ。一人1000ギンドでその魔法をかけてさしあげますがどうしますか?」
「それじゃあお願いしていいですか?」
そう言うと俺は金を差し出した。
金を受け取ると、職員が杖を持ってきて、呪文を唱えながらその杖を俺の背中にチョンと当てた。何も変わった気はしないがこれで水の上を歩けるようになったのだろうか?他の2人も金を払い、同じ魔法をかけてもらった。
水の上を歩くなんて考えただけでもドキドキしちゃうな!俺は胸をときめかせながら湖の上にのろうとした。しかし…
ドボーン!
俺は水の中に沈んでしまった。
「あっ、言い忘れてましたー、効果が現れるのは5分後です」
先に言えよ!!!
5分経ってから俺達はそーっと湖の上に足を置いた。
「あっ、立てるよ!ホントに水の上を歩けるようになったんだー!」
サラは興奮している。
「ホントだ、すごい魔法だなー」
俺は水の上でジャンプしながら言った。
「ところで、湖の上を走り回ってるあの丸太みたいなやつはなんだろう?アロル」
ルシアンが質問した。
「なんだろうなぁ。人が乗ってるから乗り物だと思うけど…町に行ったら聞いてみようぜ!」
俺達はしばらく湖の上を歩き、ついに水上都市「ベルノビラ」に到着した。湖の上に普通の街並みが広がっている。とても不思議な感じだ。でもなんでわざわざ湖の上なんかに町をつくったのだろう?やはり、悪いモンスターから身を守るためなんだろうか?いや、そんな事より今はあの丸太の乗り物について詳しく知りたい。俺はさっそく町の人に質問した。
「あのー、湖の上を走ってる丸太みたいなやつはなんですか?」
「ああ、『ベル―サ』の事ね。あれは頭で考えただけで動かせる乗り物なの。水の上しか走らないけどとっても便利なのよ。ちょっと操作が難しいけど、練習すればすぐにうまくなるわ!あそこの教習所で免許を取れるわよ」
おばさんは近くの施設を指さした。
俺達はおばさんにお礼を言うと、教習所まで歩き、中に入った。生徒がたくさんいるかと思ったが、意外と閑散としている。この町の人はとっくにみんな免許をとり終わってしまったのだろうか?
「すいません、ベル―サの免許取りたいんですけど…」
サラが職員に言った。
「わかりました。では2000ギンドをお支払い頂いた後、そちらの申請書類を書いて2番の窓口に提出して下さい」
俺達は指示通りに行動した。申請書類を提出した後、視力検査や想像力の検査等をした。想像力の検査なんて当然受けた事がなかったので、ちょっと楽しかった。学科と実技の授業があり、まずは学科を受講した。
俺はうつらうつらしながら授業を聞いていた。昔からこういう授業を受けているとなぜだか眠くなってしまう。しかし、俺も本当は真面目に授業を聞いていたいのだ!だが、体がいうことをきかないのだからしょうがない。
こんな風に言い訳ばかりして、これまでの人生を送ってきた。ここらで少し反省した方がいいかもしれない。
「えー、ではアロル君!次の問題答えて」
「ふぇ?」
「さぁ、答えてください」
「わ、わかりません」
「やっぱり授業聞いてなかったんですね…そんな事ではテストの問題解けませんよ!」
教官は少し怒りながら言った。
「えっ?テストがあるんですか!?」
俺は驚いて声が裏返った。
「あります!結構難しいから覚悟しておいて下さい」
そんなの聞いてないよー!ほとんど授業聞いてなかったからテストなんてできるわけねー!どうしよう…どうしよう…………………そうだ!カンニングという手があった!サラかルシアンの答えを覗き見て同じ回答をすればいいんだ!もうそれしかない!よしっ、やってやるぜ!
授業が終わり、少し休憩をはさんでテストが始まった。俺は隣りにいるサラの答えを覗こうとした。
「アロル君!まさかと思いますが、カンニングなんてしませんよね?」
「ま、まさかそんな卑怯な事を僕がす、するわけないじゃないですか」
俺は自分の解答用紙を見た。教官がよそ見した時を狙ってカンニングするしかない。俺はしばらくその時を待った。しかし、いつまでたっても教官はじっと俺の方を見ている。
これじゃあカンニングできねー!どうしよー!
俺は必死で何か別の策を考えた。何か…何か策はないか…このままでは俺だけ落ちて笑いものにされてしまう…考えろ!考えるんだ!
しかし、何も考えはうかばなかった。仕方なく適当に勘で答えをうめて解答用紙を提出した。
終わった…俺の人生終わった…これからはバカアロルとして笑われながら生きていかねばならないんだ…
俺は絶望に押しつぶされそうになりながら、合格発表の時を待った。そしてすぐにその時がやってきた。掲示板に合格者の名前が張り出され、皆一斉に自分の名前を確認し始めた。
俺はうつむきながら掲示板に向かい、掲示板の前に立つと、ゆっくり顔をあげて名前を確認した。
え?嘘だろ?
信じられない事が起こった!なんと俺の名前があったのだ!俺は嬉しさのあまり飛び上がった。
「よっしゃあー、やったぜ!」
「3人共合格だね、良かったー」
サラがニコニコしながら言った。
「合格者の数を数えると教室にいた人数と同じだな。やっぱり金払ってるんだから全員受からせるみたいだな」
ルシアンが言った。
テストがあるなら当然落ちる人もいるもんだと思いこんでいたが、そうではなかったようだ。教官が変な事言うから心配しちゃったよ。たぶん0点だろうけど、とにかく合格して良かったぜ。
学科の授業が終了して、次は実技の時間になった。実技の授業が始まってすぐに教官が変な事を言い出した。
「ベル―サに乗った事ある人はこちらに並んで下さい。乗った事ない人はそちらに並んで下さい」
免許をとらなければ乗ってはいけない決まりなんじゃないのか?乗った事ある方に並ぶと何か罰があるのかも。まさか自分で法律を犯してますと自白するような奴はいないよな…
「俺乗った事ある」
「私も乗った経験ある」
なんと驚いた事に半分ぐらいの人が乗った事ある方に並んでしまった!
こいつらバカなのか!?自ら法律に違反している事を白状しやがった!きっと怒られるぞー。
「はい、それでは実技の授業を始めます」
え?何のお咎めもなしなの!?ちょっとあんたらおかしいよ!
「では、丸太に座ってください。そして、丸太が水の上を走る姿を明確にイメージして下さい」
俺は言われたとおりにやってみた。すると丸太はいきなりかなり速いスピードで走りだし、バランスがとれなくなり、振り落とされてしまった。周りの人達を見ると俺のようにスピードが出すぎたり、遅すぎたりして困っている様子がうかがえた。どうやらスピードのコントロールは結構難しいようだ。
しかし、しばらく練習すると慣れてきて自分の思い通りのスピードで走れるようになった。
「それではこのコースを走ってもらいます」
ジグザグしていて結構難しそうなコースだ。俺はゆっくりコースを走った。苦労するかと思ったが、予想に反して意外とうまく走れている。
やっぱり俺って何をやってもすぐにマスターしてしまうんだなー、他の人達と比べると天と地ほどの能力の差があるんじゃないのか?自分の才能が怖いぜー。と、自分に酔いしれていると…
「ちょっとー、後ろつまってるんだけどー」
後ろを走っているサラが文句を言ってきた。後ろを振り返って見ると大渋滞ができていた。なにー、これじゃあまるで俺が1番遅いみたいじゃないかー、くそー…
「あっ、わりぃ、わりぃ」
俺は少しスピードをあげた。すると次の瞬間、コースから外れてしまった。やっぱり難しいな、このコース…
少しでも集中力が途切れるとコースから外れてしまう。俺は精神を研ぎ澄まして、走り続けた。何時間も練習を重ねてなんとかそれなりに難関コースを走れるようになってきた。他の人達もだいぶうまく走れるようになっている。
「最後の課題です。あそこに見えるコースで競争してもらいます。優勝者には豪華賞品を用意していますので、みなさん頑張ってくださいね」
教官がそう言うと、俺達はスタートラインでスタンバイした。
「負けないわよー」
サラが笑顔で言った。
「俺が1番とってやるぜ!」
ルシアンは獲物を狩るハンターのような顔つきで言い放った。
「いちについてー…よーい…スタ―ト!」
皆一斉に飛び出した。やはりレースとなると集中力を乱してしまうのか次々とバランスを崩し脱落していく。そんな中、俺は1番を走っている。2番との差は僅差だが、なんとかトップを維持している。残り100メートル。
やっぱり俺は天才だ…所詮俺にかなう者などこの世に存在しないのだ!と、うぬぼれた瞬間!集中力を乱し、2番の人とぶつかってしまい、2人共転倒してしまった。2番だった人はものすごい形相で俺をにらみつけると、すぐに起き上がって走り始めた。俺もすぐに走り始め、なんとかゴールしたが、結果はビリから数えて4番だった。ルシアンはなんと1番になり、2番はサラだった。
「残念だったな、アロル。転倒しなければ1番だったのに」
ルシアンは俺の肩をポンっと叩いた。
「しょうがねぇよ…そういうさだめだったのさ…」
俺は遠くの方を見つめた。
「アロルって大事な場面でよく転ぶよね、くくく」
サラはムカつく顔をしながら言った。
「うっせぇ」
やがて表彰式が始まり、みんな拍手でたたえた。豪華賞品というのはベル―サの事だったようで、ルシアンは1台もらいうけた。表彰式が終わると次は卒業式が始まった。次々に名前を呼ばれ、卒業証書をもらった。中には涙を流し、喜んでいる者もいる。結局1人も落とされる事なく全員無事に卒業できた。レースの結果など卒業には関係なかったようだ。
卒業式も終わり、皆帰り始めた。
「ちょっと俺トイレ行ってくるよ!」
ルシアンが急いでトイレに向かった。ルシアンを待っている間、俺とサラは今日の出来事について笑いながら話していた。すると、レースで俺がぶつかってしまった男が怖い顔をしてやってきた。
「さっきはよくもやってくれたな。あれわざとだろ?」
「わざとなわけないだろ。事故だよ、事故」
「ふざけやがって…ぶっとばさないと気がすまねー!」
男は襲いかかってきた。意外といい動きだ。リズム良くパンチを繰り出してくる。しかし俺には1撃も当たらない。相手の回し蹴りをかわした時、顔面に右ストレートをかましてやった。
「ぐわっ!く、くそ…こうなったら本気でいくぞ」
男は魔法で黄色い花をだし、花粉を俺とサラに浴びせた。
「な、なんだ!?いきなり目が見えなくなった」
俺は目をゴシゴシこすった。しかし、見えないままだ。
「なんで私までー」
サラも困惑している。
「心配しなくてもじきに見えるようになるさ。俺がお前をボコボコにした後でな!」
男は俺の腹にパンチを打ち込んだ。俺は目が見えないのでおとなしく殴られるしかない。相手は容赦なく次々に攻撃を繰り出してくる。
落ち着け…こういう時は心の眼で見るんだ………………………あー!そんな事できるわけねー!ってか心の眼ってなんだ?俺は自分で自分につっこんでみた。いや、今はこんなのんきな事を考えている場合ではない。相手の攻撃力はそんなに高くないが、痛い事に変わりはないんだ。くらい続ければ死んでしまう。
相手の攻撃はやむ事はなく、俺を殴り続けている。相手の回し蹴りをくらった時、ついに俺は倒れてしまった。
くそ、こんな奴に殺されるなんて思わなかったぜ…もっとラーメン食べたかったな…
俺が死を覚悟して、相手がとどめの一撃をくらわそうとしたその時!
「ケラシード!」
ルシアンが氷魔法で男の足と手を凍らせた。
「間一髪間に合ったみたいだな」
ルシアンはそう言うと、身動きのとれなくなった男に近づき、何発も殴った。すると男は情けない事に泣き始めた。
「も、もうやめてよ!抵抗できない人間を殴るなんて卑怯だぞ!」
「まだそんな生意気を言うか!」
ルシアンは思いっきり蹴飛ばした。
「ぐ、ぐげぉ…ゆ、ゆるして下さい。も、もうその人達を傷つけたりしません」
ルシアンはふーっとため息をついた。
「今日はこれで見逃してやるが、次に俺達を襲ったら命がないと思え」
ルシアンもこんな怖い事言うんだな。
「は、はひ」
ルシアンは氷魔法を解いてやった。安心した途端、男は気絶した。
しばらくすると俺とサラの視力が戻った。
「助かったよ、ルシアン!ありがとな!」
俺はルシアンの手を握って感謝の気持ちを伝えた。
「おいおい、手なんて握るなよー。やっぱりホモなのか?」
「だから違うって」
「ははは、それじゃあ俺は行くわ!2人の邪魔はしたくないからな!」
「邪魔だなんて…ずっと一緒にいてくれてもいいのに」
サラは悲しそうな顔をした。
「ありがと、サラも元気でな!それじゃ、またなー」
ルシアンは去って行った。
初めて会った時はむかつく奴だったが、今ではサラの次に仲のいい親友だ!ずっと友達でいてくれよな、ルシアン。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます