第21話

 右から2番目だったか?いや左から3番目か?どっちだっけ?くそー記憶がはっきりしない!えーい、これに決めた!


「残念、はずれ」

「くそっ、また間違えちゃった」


 めくったトランプを元にもどした。

 俺は今、「メグザリオ」という町の賭場でトランプゲームの「神経衰弱」をやっている。記憶力は良い方だと思っていたのに、なかなか勝てない。もう5万ギンドも負けてしまった。それに比べて、サラは好調だ。俺とそれほど記憶力は変わらないと思っていたのに、サラはもう4万ギンドも勝っている。

 サラの奴、今まで力を隠していたな…すっかり騙されたぜ!

 サラに嫉妬心を抱きつつ、場は進行していく。


「うーん、こっちだったかなぁ…これかな?」


 サラは悩んでいる。

 はずせー、はずせー。俺は心の中でサラの失敗を祈った。


「これだ!」


 サラはトランプをめくった。


「大正解!」

「やったぁー」


 俺の祈りもむなしく、またサラが当ててしまった。なんという驚異的な記憶力だ!サラがこんなに頭が良かったなんてショックだ…

 他の参加者達もサラの記憶力の良さに驚いている。


「すげぇねえちゃんが入ってきたもんだぜ!おっと次は俺の番か…これだ」


 客がカードをめくった。


「だー、はずれかー、今日はついてねぇなぁ」


 俺を含め負けのこんでいる連中はアツくなってしまってひくにひけなくなっている。大抵こういう精神状態の時は持ち直す事はできず、負け続けるのだ。

 皆がカードをめくり、また俺の番が回ってきた。

 今度こそ当てる!大丈夫だ、しっかり覚えている。これとこれだ!


「はずれ、残念だったねお兄さん」


 なぜだーーー!!!まさかイカサマか!?いや、みんなが見ているんだからカードをすりかえるなんてできるわけがない。俺の記憶力が悪いだけなんだな…とほほ…


「次はサラちゃんの番だぜ!」

「えーと…これとこれ!」

「またまた大当たりー」

「なんだか今日は調子がいいみたい」


 サラは絶好調だ。

 次々と場は回っていき、全てのカードがめくられゲームは終了した。


「サラちゃん、カード何枚持ってる?」

「14枚」

「じゃあまたサラちゃんが1番だ」


 サラはまた大金を手にした。俺はまた払う側の人間になってしまった。金が減る事は問題ないが、金を失うと同時に何か大切なものも失っているような気がした。


「今日はものすごい儲けたね、サラちゃん。ちょっと居酒屋でおごってよ」

「いいよ、私はお酒飲まないけどね。ところでおじさん名前はなんていうの?」

「俺はアレイルだ!じゃあさっそく行こうぜ!アロルももちろん来るよな?」

「ああ」


 俺はしょうがなくついて行く事にした。すぐ近くの居酒屋まで歩いて行き、店内に入り、席についた。


「おやじ、生ビールくれ!」

「あいよ!」

「あっ、俺も生ビールお願いします」

「アロルはダメだよ、まだ未成年なんだから!」


 サラはほっぺをふくらましながら言った。


「今日ぐらいいいじゃない」

「だーーーめ」


 俺はしぶしぶジュースを頼んだ。こういう時はサラがうっとうしく感じる。


「ぷはー、やっぱりビールはうめぇなぁ」


 アレイルはとてもおいしそうにビールを飲んでいる。うらやましいぜ、ちくしょー。俺もたまにはたらふくビールを飲みたいなぁ。なんとかこの女の目を盗んで酒を飲めないものか。


「この焼き鳥とってもおいしい」


 サラは上機嫌だ。


「さぁどんどん食ってくれよ」


 アレイルは食事をすすめた。


「私のお金で食べてるって事忘れないでね」

「いっけね、そうだった」


 まったく愉快な人間だぜ、アレイル。こういうタイプだと人生楽しいんだろうな。


「そういえば聞いたかい?三丁目のフラーさんがあれにやられちまったんだってよ。かわいそうになぁ」


 店主がなにやら暗い話をし始めた。


「マジかよ…これで何人目だ?ぶっそうになっちまったなこの辺も…」


 アレイルは急に深刻な顔になった。


「いったいなんの話だい?」


 俺はアレイルに質問した。


「ちょっと前からこの辺りにグスターって呼ばれてるモンスターが現れて、人を襲いまくってんだよ…早く誰かにやっつけてもらいたいぜ」

「そうなんだ…大変だな…」

「おっと、すっかり暗い雰囲気になっちまったな!酒がまずくなるぜ!こら、おやじ、こんな時に変な話題すんじゃねぇよ」


 アレイルは笑顔で話した。


「すまんすまん」


 俺達は食事をすませて店を出た。アレイルはサラにおごってもらったお礼を言って帰っていった。アレイルが帰ってすぐに今夜泊まる宿を探し始めた。色んな宿があり、迷ってしまうが節約するにこした事はないので一番安い宿に泊まる事にした。しかし、部屋の中に入ってみるとクモの巣がはっていたり、穴があいていたりとあまりにもボロが目立つ。


「ねぇ、やっぱり違う宿にしようか?アロル」

「そうだな、金ならいくらでもあるんだし」


 俺達はその宿を出て、また違う宿を探し始めた。いつの間にか歩きすぎて町のはずれまで来てしまった。広い野原が見える。野原の中心には大きな木が1本はえていた。


「あの木のとこ、人がいない?」


 サラは木を指さして言った。


「ほんとだ、何してるんだろ?」


 俺達は木に近づいた。すると、木のそばにいた人がロープを使って首をつってしまった!


「まずい!」


 俺達は急いでかけより、ロープを切った。


「ん?アレイルじゃないか!なぜあんたがこんな事を…」

「ゲホ…ゲホ…助けるんじゃねぇ、死なせてくれ」

「何があったの?教えて」


 サラはアレイルの手をにぎり、優しく尋ねた。


「グスターの野郎が俺の家に手紙をよこしやがったんだ…俺が20時までに死なないと家族全員皆殺しにするって書かれてた」


 今は19時58分だからあと2分か。それにしてもグスターというモンスターは手紙を書く事ができるのか…色んなモンスターがいるもんだ。


「よく考えるんだアレイル。あんたが死んだってグスターが家族を襲わないとは限らないじゃないか!死ぬなんてよせよ」


 俺はなんとかアレイルが自殺する事を思いとどまらせようとした。


「それもそうだな…突然の事でパニックになっちまった」


 アレイルって見かけによらず繊細なのかもしれないな。


「ねぇ、私達がそのグスターって奴倒してあげよっか?」


 サラはやる気になっている。


「お前達強いのか?」

「当たり前じゃない!そんな奴一撃でシメてやるわ」


 サラは腕まくりしながら言った。


「それなら頼む!俺の家族を守ってくれ!」

「任せて!」


 その時、空からコウモリのような羽をはやした全身の皮膚が真っ黒なモンスターが現れ、口を開いた。


「どうやら時間までに死ねなかったようだな、アレイル」

「お前がグスターか?」


 俺はモンスターをにらみつけながら尋ねた。


「そうだ。お前はなんだ?アレイルと一緒に死にたいのか?」

「俺が殺されるわけないだろ!死ぬのはお前だ!メサオ!」


 炎がグスターめがけて飛んでいった。しかし、グスターはものすごい勢いで回転して炎からうまく身を守った。


「少し遊んでやるか」


 そう言うとグスターは俺の所に飛んできて、パンチを繰り出した。俺はサッとガードしてすぐさま右ストレートを放った。グスターは避けようとはせず、頬にバッチリきまった。しかし、グスターには効いてないようだ。


「やはりこの程度か…」


 グスターは微笑みながら言った。そして、足刀を俺の腹に打ち込んだ。俺はよける事ができず、まともにくらってしまったため吐きそうになった。しかし、なんとかこらえて腹をおさえて痛みがひくのを待とうした。当然そんな時間を与えてくれるはずもなくグスターは追い打ちをかけてきた。そして俺は完全にダウンしてしまった。


「おのれ!ガトリングシャワー!」


 サラは水魔法を使ったが、またしてもグスターは超速回転でサラの攻撃をしのいだ。


「こうなったら久しぶりにダイバクフを使うしかないわね…いくわよ、ダイ…」

「ま、まってくれ…あ、あいつは俺が倒す」


 俺はフラフラしながら立ち上がった。


「アロルは休んでなさいよ、もうボロボロじゃない」

「こ、こんな奴に負けていたらとても最強になんてなれやしない」

「もうしょうがないわね、ヤバそうになったら即交代よ」


 俺は魔法を出す構えをとった。そして、手の平にエネルギーを集中させて、大きな炎の球体をつくりだした。


「いくぜ、マフトーバ!」


 炎の球体はグスターのもとへ飛んでいき、見事に命中した。


「ぬぐぉー」


 グスターは断末魔をあげ、消えていった。


「やるじゃない、アロル」

「ありがとよアロル」


 サラとアレイルがかけよって来た。


「へへ、ら…らくしょうだぜ」


 俺は立っているのもやっとだったが、なんとか作り笑いをうかべた。

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