第15話

 砂漠の旅を終え、今俺達は林道を歩いている。ずっと砂に足をとられながら歩いていたため、普通に歩ける事がとても嬉しい。ルンルン気分で歩いていると、目の前に四角い大きな岩が見えてきた。だいぶ歩いてきたので、ここでちょっと休憩する事にした。岩の上に座り、弁当を食べた。少しねそべって仮眠をとると、すぐに出発した。

 しばらく歩くと、思いもよらないおかしな出来事が起こった。


「ねぇ、あの四角い岩って、さっき休憩した所じゃない?アロル」


 サラは首をかしげた。


「きっとすごい似てるだけだよ」

「そうだね」


 俺達は再び歩きだした。しかし、どういうわけか少し歩くとまた四角い岩が見えてきた。


「やっぱり同じ岩だよ、アロル」

「おかしいなぁ、まっすぐ進んできたはずなのに…」

「どうやら幻術にかかっちゃったみたいだね」


 俺達はもう一度進んでみた。しかし、予想通りまた同じ場所に戻ってきてしまった。これでは全然進む事ができない。困った事になった。近くに幻術魔法を使う術者がいないか探してみたが、それらしい姿は見えない。違う道を進んでみても結果は同じだった。俺達は困り果てて岩の上でぐったりしていた。すると、空から懐かしい人物が降りてきた。


「やぁサラ、久しぶりだね」


 なんとスクルが現れたのだ。


「あっ、スクル!ちょうどいい所に来た!今、幻術魔法でいたずらされててどの道を通ってもこの場所に戻ってきてしまうから困ってたの」


 サラはヒーローを見る目でスクルを見ながら言った。


「それなら空から行ってみようか。しばらくの間、君達も空を飛べるように魔法をかけてあげるよ」


 スクルは手の平を俺達に向けて風魔法をかけた。


「頭で空を飛ぶイメージをしてごらん」

「こうかしら」


 サラの体が浮いた。


「やった!」


 コツをつかんだようで、サラは空を自由に飛び回り始めた。とても気持ちよさそうだ。よし、俺もやってみよう。俺は空を飛ぶイメージをした。すると、体が浮かんだ。意外と簡単に飛ぶ事ができた。少し練習するとすぐに自由に飛び回れるようになった。それにしても、自分だけでなく他人まで空を飛ばせてしまうなんてすごい魔法だ。


「2人共上手いじゃないか!それじゃあ行こうか」


 スクルが先導して飛び出した。俺達も後に続いた。下を見下ろすと1匹の狸のような姿をしたモンスターがこちらをじっと見つめていた。さっきの幻術はそのモンスターの仕業だったのかなぁ。 

 なんにしても俺達はやっと無限ループを抜け出し先に進む事ができた。気分よく空を飛んでいると、次の町が見えてきた。「ブルコッチ」という町だ。町に降り立つと俺達は早速、大衆の注目を浴びてしまった。空から人が降りて来るなんてほとんどの人は初めて見る光景だと思うので驚くのも無理はない。スクルはいつもこんな風にジロジロ見られてい

るのだろうか?

 町の中を歩いていると、20メートルぐらいはありそうな高い塔が見えてきた。


「ねぇ、見て!あの塔の最上階!男の子がいるよ」


 サラが塔の最上階を指さしながら言った。見てみると本当に少年がいる。何やら自殺しそうな雰囲気だった。


「何してるのか聞いてくるよ」


 スクルが飛び立った。スクルが塔のそばまで行くと、なんと少年は塔から飛び降りてしまった。しかし、少年が地面に激突する前になんとかスクルが少年をキャッチする事ができた。スクルがいなければ少年は確実に死んでいた。危ない所だった。


「なんで飛びおりたりしたんだ?」


 スクルはちょっと怒った表情で少年に聞いた。


「毎日学校でひどいイジメにあってるんだ…もう生きていたって何もいい事なんてないから死にたかったのに!なんで助けたりしたんだよー」


 少年は目に涙を浮かべながら言った。


「バカヤロー!簡単に死ぬなんて言うんじゃない!君が死んだら親がどんだけ悲しむと思ってるんだ!」


 スクルは大声で怒鳴った。

 スクルってこんなにアツい奴だったのか…なんかスクルに対する見方変わった。


「そうだ!俺達がそのイジメっ子をこらしめてやろうか?」


 俺は余計なお世話だと思いつつも一応提案してみた。


「そうしてもらえると助かるけど…相手はとっても強いんだよ!お兄さん達が勝てるかどうか…」


 少年は不安そうな顔をした。

 強いといっても所詮子供だ。大人の俺達が負けるわけがない。どんな魔法を使うのかは知らないが、軽くひねってやるぜ!


「安心しな、俺達はとっても強いんだ!さぁそいつらの所まで案内してくれ!」


 俺は少年の肩を叩きながら言った。


「大抵やつらは『パリオ公園』でグダグダしてるんだ。たぶん今日もそこにいると思う」


 少年は俺達をその「パリオ公園」に連れて行った。すると、人相の悪いいかにもイジメっ子という感じの少年が2人でタバコを吸っていた。


「あいつらだよ…」


 少年はタバコを吸っている2人組を指さした。

 俺は勇ましくその不良少年達の前に立ちはだかった。


「お前達!この少年をイジメるのはもうやめろ!自分がされて嫌な事を相手にするんじゃない!」


 俺は不良共を叱りつけた。

 しかし、やはり大人しく言う事を聞くような人間ではないようで、不良共は反抗的な目で俺達を睨みつけた。


「うっせぇ!偉っそうな口きくとぶっ飛ばすぞ!」


 不良は声をはりあげ、脅してきた。


「ほう、やれるものならやってみろ」


 俺をビビらせようなんて100年早いぞ、若造が!


「死んでから後悔するんじゃねぇぞ!」


 不良は思いっきりふりかぶって右の拳で殴りかかってきた。そんな大きな動きではよけてくれと言ってるようなもんだ。俺はヒョイと身をかわし、軽くローキックを放ち、不良の足に見事に命中した。


「いてぇー!!!やりやがったな!この野郎…ぜってぇ許さねぇ」


 不良は異様な構えをとりはじめた。


「グリバー二!」


 不良は岩石魔法を使った。空からいくつもの岩石が降ってきた。しかし、スピードがあるわけではないので簡単によける事ができた。

 こんな子供に魔法は使いたくなかったが、これも教育のためだ。やむをえまい。


「メサオ!」


 炎が不良の方へ向かって行く。不良はすかさず岩石魔法で岩を盾にして防御した。

 この不良、防御力はなかなか高いようだ。


「もう一度、メサオ!」


 しかし、再び防御されてしまった。

 これは困ったな…どうしたものか…


「背中ががら空きだぜ!スピライアー!」


 スクルが不良の背後から風魔法で攻撃した。不良はまともに攻撃を受けてその場に倒れた。こんな子供に大人2人がかりとは少々情けないが、まぁ結果オーライという事で。ずっと黙って見ていたもう一人の不良は走って逃げて行った。

 スクルは倒れている不良の胸倉をつかみ、恫喝した。


「もし、またこの子に手を出したら命はないものと思え」

「わ、わかったよ…ご、ごめんなさい」


 やっと不良は素直になった。これでもうイジメる事はないだろう。


「お兄さん達本当にありがとう!これで安心して学校にいけるよ!」


 少年は明るい笑顔でそう言った。


「頑張れよ、少年!」


 俺は少年に手を振って見送った。


「そういえばサラ、前に質問した答えをまだ聞いてないんだけど…」


 スクルはおどおどしながらサラに尋ねた。


「ああ、付き合おうかって話?もう少し考えさせて!」


 サラはサラっと言った。


「わかった、今度会う時こそちゃんと返事を聞かせてね!じゃあね」


 スクルは飛び立って行った。


「付き合わないんじゃなかったのか?」


 俺はサラに質問した。


「だってはっきり断ったらもう助けてくれないかもしれないじゃない!」


 こんな打算的な女だったのか…サラに対する見方が変わった。

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