第14話

 暑い!なんという暑さだろう。砂漠とはこんなにも暑いものだったのか。俺とサラは今、砂漠にいる。砂漠に来たのは初めてだったので、最初は喜んでいたが、だんだんダルくなってきて、今ではなぜこんな場所に来てしまったのかと後悔ばかりしている。砂に足をとられ、思うように歩けないためか、余計に暑く感じる。ともかく、こんな所からは1分1秒でも早く抜け出したかった。2人で砂漠の文句ばかり言いながら歩いていたら、どういうわけか次第にサラの口数が少なくなっていった。


「次の町まであとどれくらいあるのかなぁ?」


 俺はなんでもいいから話をしてなんとか暑さから気をそらそうとしていた。


「さ、さぁ」


 サラの返事には元気がない。


「なんだが体調悪そうだな、荷物ちょっと持ってやろうか?」


 自分の分だけでも重たいが、ここは仕方ないだろう。


「う、うん。ありが…」


 そこまで言うと、サラはバタっと倒れてしまった。


「サラ!大丈夫か!?」

「…」


 サラの返事がない。気を失ってしまったようだ。

 大変な事になった。サラは一体どうしてしまったんだろう?さっきから元気がないからおかしいなとは思っていたが、まさか倒れてしまうとは!何か厄介な病気じゃなければいいが…

 俺はサラを背負い、体にロープを巻きつけて、ロープの先に荷物をくくりつけ、引きずりながら歩いた。重労働だが愚痴は言っていられない。もしかしたらサラの命に関わるかもしれないのだ。俺はハァー、ハァー言いながら先を急いだ。

 苦労を経て、やっと町に着いた。砂漠の町「リムダーニャ」だ。俺は病院に行き、サラの容態を聞いた。


「先生、サラはどうなんですか?」


 俺はサラが重い病気ではないことを必死で祈った。


「ただの熱中症ですよ、涼しい所で安静にしていればすぐによくなります」


 俺は安心してドッと肩の力が抜けた。


「そうなんですか、良かった…じゃあすぐに退院できるんですね?」

「はい」


 俺は診察室から出ると、イスに座り考えこんだ。

 サラは冒険に出てから今日まで何度も危ない目にあってきた。結局重大事にはならなかったから良かったものの今後もそううまくいくとは限らない。そりゃあ冒険にはリスクがつきものだって事はわかっているが、サラまでそのリスクを負う必要があるのだろうか?元々俺のわがままで始めた事だ。サラまで巻き込む必要はないんじゃないか?一緒にいる以上、サラを守らなければいけないが、サラを守り続ける自信がない。

 やっぱりサラはムーオ村に帰らせよう。サラにはサラの人生があるし、これ以上危険な目にあわせるわけにはいかない。

 俺は立ち上がり、サラの病室に行った。サラは目を開けていた。


「あっ、アロル!ごめんねー、迷惑かけちゃって…こんなのすぐに治すから!」


 サラは手と手を合わせ、軽く頭を下げた。


「あのさ、考えたんだけど、サラはムーオ村に帰りなよ。もうこんな危険な事に付き合わなくていい」


 俺は真面目な顔で話した。


「え?いきなり何言ってるの?私が熱中症になっちゃったから一緒にいるの嫌になったの?」


 サラは困惑しているようだ。


「そうじゃない。前から思ってた事なんだけど、俺にはサラを守り続ける自信がないんだ!それに、サラにはサラの幸せな生き方がある。俺のわがままにこれ以上巻き込むわけにはいかないよ」

「そんな…」

「今まで楽しかった、ありがとう。ここでお別れだ。じゃあな」


 俺はそう言うと病室を出た。

 悲しい別れだが仕方のない事だ。これで良かったんだ…

 さて、気分を切りかえてサラが一緒の時にはできなかった事をしよう。まずは酒だ!浴びるほど飲むぞー。俺が酒を飲もうとするといつもサラに取り上げられていたから、旅に出てから一度も飲んでなかった。さぁ酒を買いに行こう。

 酒屋へ行き、酒を購入し、近くの広場で飲み始めた。

 ぷはー、やっぱり酒は最高だぜ!ぐびぐびと酒を流しこむ。

 だんだんほどよく酔っぱらってきた。


「なぁサラお前も飲むか?」


 当然返事はない。サラはもういないんだった。隣を振り向けばいつでもサラがいた。サラがいる事が当たり前になっていた。しかし、俺の横にはもうだれもいない。なんだか急に寂しくなってきた。酒だって一人で飲んでもちっとも楽しくはない。俺はフラフラと歩きだした。

 「天国の扉」という店の前で立ち止まった。一度もキャバクラなんて行った事はない。サラがいてはなおさらだ。しかし一度体験してみたかった。思いきって店の中へ入ってみた。

 店の中に入るとボーイが話しかけてきた。


「お客様、本日はご指名の方はございますか?」


 ボーイは腰を低くして俺の様子をうかがっている。


「指名はなしで!」


 キャバクラが初めてだという事がバレてなめられると困るので、いかにも常連のような態度を見せながら答えた。


「かしこまりました。お席までご案内します」


 ボーイについて行き、目的の場所まで着くと、高級そうなイスに座って女の子を待った。店の中を見回すと、しきりがないので、客と女の子がイチャついてる様子がよく見える。おじさんが多く、俺のような若者は珍しいようだ。それにしても客が女の子を見る目がとてもいやらしい。いかにもよからぬ事を考えてますって顔だ。よく女の子も笑いながら対応できるものだ。

 2分ぐらい待つと女の子が来て、俺の隣りに座った。


「はじめまして、サーシャです。あなたのお名前は?」


 とてもかわいらしい子だ。背が高くて細身で色白で猫目。出るべきところは出て、しまるべき所はしっかりしまっている。


「俺はアロル。よろしく」

「あなたどこから来たの?」

「ムーオ村っていう所だよ。知らないだろ?」

「うん、わからない。魔法はつかえるの?」

「炎魔法をつかえる、君は?」

「私は水魔法。弱いモンスターなら倒せるわ」


 しばらくの間、どうでもいい質疑応答を繰り返していた。それにしてもなんてつまらないんだ。この子と一緒にいてもちっとも楽しくない。サラといる時にはいつも笑いが絶えなかった。サラと一緒にいてつまらないなどと思った事は一度もない。同じ女でも、こんなにも違うものなのか。


「お客様そろそろお時間となりますが、ご延長の方はどうなされますか?」


 ボーイが聞いてきた。


「会計おねがいします」


 俺は金を出そうと思い、袋の中をのぞいた。すると、サラが大事にしていたお守りが入っているのが見えた。これは返したほうがいいだろうな。別れの挨拶を済ませてしまってまた会いに行くのもどうかと思うがしょうがない。

 俺は金を払い、店を出ると、サラのいる病院へ向かった。

 病院の前まで来ると、何が原因かはわからないが男2人が激しく言い争っていた。しばらく見ていると、片方の男が魔法を使った。砂魔法だ。みるみるうちに砂が集まっていき、大きな塊となり、その塊をものすごいスピードで相手にぶつけた。相手は気を失ってしまった。しかし攻撃をやめようとはせず、失神しているにも関わらず、馬乗りになり、倒れている男を何度も殴りつけている。さすがにマズイと思い、止めに入った。


「もうやめろよ、それ以上やると死んでしまう」


 俺は殴っている男の手をつかんだ。


「何するんだ、はなしやがれ!お前もこうなりたいか!」


 砂魔法の男は頭突きをしてきた。まだ酔っているので足元がおぼつかないが、後ろに下がり攻撃をかわすと、右フックを打った。しかし、相手もなかなかの反射神経の持ち主のようで、簡単にかわされてしまった。次に上段回し蹴りを放ったが、頭を下げてかわされ、渾身の一撃だった前蹴りもよけられてしまった。

 魔法を使うしかないと思い、構えた。しかし、相手の動きの方が早く、相手に先に魔法を使わせてしまった。


「サリマンテ!」


 先ほど相手が使った魔法だ。砂の塊が猛スピードで俺を襲う。俺は防御が間に合わず、まともにくらってしまった。俺はその場に倒れた。なんという威力だ…立ち上がれない…

 相手がとどめをさそうとしたその瞬間…


「ガトリングシャワー!」


 サラが現れ、水魔法を使った。

 しかし、砂でシールドを作りサラの攻撃を防いだ。


「やるわね…これならどう?ダイバクフ!」


 サラは滝のような水をものすごい速さで相手の頭上から叩き込んだ。砂の防御は崩れ去り、サラの魔法をもろにくらった。さすがの相手も立ち上がる事はできないようだ。

 サラはクルっと俺の方を見ると、にらみつけながら言った。


「私を守る必要なんてない事がわかったかしら?アロル」

「ああ、ものすごい魔法だったな…驚いたよ」


 サラはいつもの優しい顔つきになった。


「私はアロルと一緒に冒険がしたくてついてきたんだぞ!無理に連れてきたわけじゃないんだから何も気にする必要なんてないんだよ」

「本当に迷惑じゃないのか?」

「当たり前じゃん!色んな世界を知れてとっても楽しいよ!こんなにワクワクドキドキする事なんて冒険に出るまではなかった。アロルが嫌じゃなければ、私はアロルと旅を続けたい」


 サラは俺の目を凝視して言った。


「本当にいいんだな?あとで大変な事になってから後悔しても知らないぞ!」

「その時はその時よ!さぁまた旅を続けましょ!」


 サラは笑顔で俺の手をひいた。

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