第13話

「おーい、アロルも入りなよー、気持ちいいよー」


 サラは川で子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。


「俺はいいよ」


 そう言うと俺はゴロっと寝っ転がった。まったくビキニなんて着てすっかり色気づいちゃって。小さい頃からずっと一緒にいたからあまり意識した事はなかったが、ずいぶん大人になったんだなぁ…

 俺はサラを見つめた。


「ちょっと、何ジロジロ見てんのよ!エッチ!」


 サラは胸を手で隠した。


「そんな事よりそろそろ出発しようぜ。もう十分遊んだろ」

「そうね、着替えるから向こう行ってて」


 俺は50メートルぐらい離れた所で待機した。

 サラが着替え終わり出発しようとした時、いきなり俺達の目の前に俺達と同じぐらいの年の男が現れた。


「貴方、アロルさんだよね?」


 男は目を輝かせながら尋ねてきた。


「そうだが、なぜ俺の名を知っているんだ?」


 俺は目を細めて言った。


「やっぱり!本物の大魔導士アロルさんだ!いやー感激だなー、生きて動いているアロルさんに会えるなんて!」


 男はとても興奮しながらしゃべった。


「大魔導士だなんて…照れるじゃないか!君の名前はなんていうんだい?」


 俺はヘラヘラ笑って頭をかきながら聞いた。


「あっ、申し遅れました。俺はベリーラと言います。80年後の未来から来ました」

「なんだって!?未来からわざわざ俺に会うために来たのかい?」


 俺は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。そういえば俺も過去に行った事があったっけなぁ。


「それもあるけど、ちょっとした用事がありまして…」

「何の用事?」

「実はある小説の続きが気になって夜も眠れなくて困ってるんです。クライマックスまできてたのに出版社がつぶれちゃったみたいで…。どうしても続きを知りたくて作者に聞きに来たんです」


 一体どんな重要な任務でわざわざ未来から来たのかと思ったら、とてもくだらない理由だった。時間魔法が使える奴らはみんなその程度の理由で、過去や未来を行ったり来たりしているのだろうか?


「そうなんだ。ちなみになんていう小説?」

「『禁断の魔法』という小説なんですが、知ってます?」

「それなら俺も読んだよ。確かにあれは続きが気になるな」


 だからといって時間を飛び越えてまで知ろうとは思わないが…


「そうでしょう、良かったら2人も一緒に行きます?」

「俺は行こうかな」

「私はその小説読んだ事ないけど、アロルが行くなら行くよ」


 サラも仕方なくついてくるようだ。


「それじゃあ俺につかまって」


 俺とサラはベリーラの肩に手を置いた。

 一瞬で小説家の家まで移動してきた。まったく便利な魔法だ。

 ベリーラはドアをノックした。家の中からガタゴトと音が聞こえたかと思うと、すぐにドアが開いた。


「なんだね、君達は?」

「俺はベリーラと言います。貴方のファンです。『禁断の魔法』の続きが気になって未来から来ました」


 ベリーラはさわやな笑顔を見せながら言った。


「未来から!?嘘じゃないだろうな?」


 小説家はベリーラに疑いの目を向けた。


「これが嘘を言っている人間の目ですか?」


 ベリーラは急に真剣な顔つきになった。


「うむ…本当のようだな、あがりなさい」


 俺達は家の中に入った。家の中はどうすればこんなにきたなくできるのか不思議なくらい色んなものが散乱していて、汚れていた。よくこんなきたない空間に人をあげる気になったものだ。やはり小説家というものは変わり者が多いのだろうか。

 俺達はゴミを踏みつけながら歩き、イスに座った。

 小説家はコーヒーをいれてくれた。部屋がきたないからかコーヒーの味まで不味く感じる。


「なかなか個性的で素敵な部屋ですね」


 俺は皮肉を込めて言ったつもりだった。


「そうだろ、そうだろ、やっぱりわかる人にはわかるんだなぁ」


 この部屋のどのあたりがプラスの印象を与えると思っているのか本気で知りたい。


「あの、先ほどお聞きした件なんですが…」


 ベリーラは早く続きが知りたくてしょうがないらしい。


「ああ、そうだったな。『禁断の魔法』の続きが知りたいんだったね、それじゃあ言うよ、それはね…」


 俺達はゴクリと唾をのみ込んだ。


「続きは考えてなかったんだよ、なかなかアイディアが浮かばなくてね。書くのをやめてしまったんだ」


 小説家はケロリと笑いながら、言った。

 意外な答えに俺達は肩を落とした。


「そんなー、せっかく未来から来たのにー」


 ベリーラはあからさまに不満が顔に出ている。

 俺達はブツブツ文句を言いながら仕方なく帰り支度をして、家を出た。すると、目の前に人型のモンスターが立っていた。


「お前、小説家のモンヘロだな!?たっぷりため込んだ金があるだろ?ありったけ俺に渡しな!じゃないと死ぬ事になるぜ!」


 モンスターは俺と小説家を間違えているようだった。それにしてもちょうど間が悪い時に強盗しにきたもんだ。もう少しタイミングがずれていれば、俺と会わずにすんだのに。


「俺はモンヘロではない。それと大人しく帰ったほうがいいぞ、大けがする事になる」


 俺は一応忠告しておいた。


「ほう、俺と戦うつもりか?このひよっこが!くらえ!」


 モンスターはパンチを打ってきた。俺はガードしたが、ものすごい力だったため吹き飛ばされてしまった。俺は痛みをこらえて必死に立ち上がった。コイツの怪力の前ではガードは無意味、全てよけなければ!モンスターはパンチの連打を放ち、なんとか俺の体に当てようとしてきた。しかし、全て紙一重でかわし、俺は足刀を相手の腹に叩き込んだ。しかし、相手の体は硬く、ほとんどダメージを与えていない。


「ふははは、この程度か、小僧!」


 モンスターは高らかに笑っている。

 しょうがない魔法を使うしかないか。


「メサオ!」


 勢いよく炎が飛び出し、モンスターの体は火だるまになった。


「ふぎえぇぇー」


 モンスターは焦り始めた。


「どうする?このまま死ぬか?」

「ひ、火を消してくれー」

「もう金は諦めるか?」

「諦める、大人しく帰るからこの火を消してー」


 俺は消火した。

 モンスターは痛そうにしながら、すごすごと立ち去って行った。


「じゃあ俺は未来へ帰りますね、小説の続きを知る事はできなかったけど、アロルさんの戦いが見られて良かった。やっぱりとんでもなく強い人だったんだね。それとサラさん、元気な子供を産んで下さいね。それでは、さようならみなさん!」


 ベリーラはパッと消えた。


「私、誰の子供を産むんだろう…」


 サラはポッと頬を赤らめた。

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