第12話
俺達は今、「マレンシア」という町にいる。飲食店で昼食をとっている所だ。おいしいと評判の店で、店の前には長蛇の列ができている。俺達も30分ぐらい並んでやっと席につく事ができた。しかし、どんな名店にもミスはあるもので、おかわりしたスープに虫が入っていた。俺は虫の入ったスープなど飲む気がしないので、新しいのと交換してもらおうと思い、店員を呼んだ。
「あの、このスープに虫が入ってたんですけど」
俺はスープに入っている虫を指さして言った。
「そんなもの私が確認した時には入ってませんでしたよ」
なんだか愛想の悪い店員だ。
「しかし、現に入っているんだから新しいのと交換してくださいよ」
「お客さん、まさか自分で虫を入れてウチの店の評判を落とす作戦じゃないでしょうね」
なんて事を言い出すんだこの店員は!こっちは客だぞ!
「そんなわけないでしょう。もういい、貴方じゃ話にならないから店長呼んで来てください」
俺は機嫌が悪いという事をアピールしながら言った。
「嫌です、こんな事で店長の手を煩わせたくはありません。我慢して飲んでください」
だんだんコイツを殴りたくなってきた。
「何て事を言うんだ、君は!接客の基本がまるでなってないな!」
俺は大声を出した。すると奥から店長らしき人が飛んできた。
「申し訳ありません、お客様!ウチの者が何か失礼な事をしましたか?」
店長らしき人はペコペコしながら話しかけてきた。
「この店員が虫の入ったスープを飲めと言うんですよ!」
「なんて事を言うんだ、お前は!このバカ!ほらお前も謝れ!」
店長らしき人は店員を怒鳴りつけた。
「嫌です、なぜ悪い事をしたわけでもないのに謝らないといけないんですか?」
店員は真面目な顔をしてそう言った。
「すいませんお客様、今日入ったばかりの新人でして。でも安心してください、いますぐクビにしますので!」
「僕をクビにするつもりですか?」
「そういう事だ、お前は今日限りで来なくていい」
店長らしき人は店員を冷たい目線で見つめた。店員は何も言わず、うつむきながら去って行った。
「あの、俺のせいで人員が不足してしまいましたよね?良かったら次の人が見つかるまでの間、ここで働きましょうか?」
「それは助かります。でもここで働くとなると君との接し方は変わるよ?」
店長らしき人は急にタメ口になった。
「はい、よろしくお願いします」
こうしてしばらくここで働く事になった。エプロンを着用して、髪を整え、準備完了!さぁ仕事だ。
俺は接客を担当する事になった。態度の悪い客の前でも愛想を振りまいていなければならないので大変だ。接客の仕事は初めてだったので、初めのうちはなかなかしんどかったが、慣れてくると、結構楽しい。お客様の満足した笑顔を見るとまた次も頑張って接客しようと思う。もうここに就職してしまおうかなどと考えていると、またお客がやってきた。
「おい、早く注文聞きに来いよ!いつまで待たせるんだ!」
なんだかガラの悪い客だ。あまり接客したくはないが、わがままは言っていられない。
「大変お待たせしました。ご注文は?」
「スパゲッティだ!大盛で!」
客はふんぞりかえりながら言った。
「かしこまりました」
しばらくして、スパゲッティが出来上がった。俺はすぐに客に提供しようと、テーブルまで持って行った。客のテーブルにのせようとしたその時、手がすべってスパゲッティがお客の服にかかってしまった。
「何すんだ貴様!」
客は俺の胸倉をつかんできた。俺はイラっとして客の手をひねってしまった。
「暴力はいけませんよ、お客様」
「いたたた…」
「コラ、何してるんだ!お客様に向かって!」
店長が走ってきた。
「コイツ、スパゲッティをかけた上に暴力までふるってきたんだぞ!」
客はカンカンに怒っている。
「誠に申し訳ありませんでした」
店長は頭を下げた。
「しかし、先に手を出したのはこのお客様なんですが…」
俺は一応いいわけをしてみた。
「君、クビ!出て行ってくれ!」
やはりクビを言い渡された。俺はうつむきながら出て行った。
サラの待つ宿に戻って来た。
「おかえり、仕事どうだった?」
サラはニコニコしながら聞いてきた。
「クビになったよ」
「えっ、はやっ!もうクビ!?」
サラは驚いて目をパッチリ開けた。
「気晴らしに散歩でも行こうか」
俺達はフラフラ街道を歩いていると、泣いている小さな女の子と出会った。俺は子供は苦手なのであまり関わりたくはなかった。俺とは逆にサラは子供が大好きでムーオ村でもよく小さな子供の面倒をみていた。そんなサラはやはりこの女の子を放っておく事ができないようだ。すぐに近寄り声をかけた。
「どうしたの?ママとはぐれちゃったの?」
サラは女の子の頭をなでた。
「うん、ママどこ?」
女の子は目をこすりながら言った。
「うーん、わからないなぁ。お姉ちゃんが探してあげるね!」
サラはそこら中の人たちに聞いて回った。
「この子の親を知りませんか?」
「この子迷子みたいなんです」
しかし、誰もこの女の子を知らないという。困り果てて3人でイスに座っていると1人のおばさんが近づいてきた。
「マリーナ!どこ行ってたのよ、心配したのよ」
どうやらこの女の子のお母さんのようだ。これで一安心。
「ママ、ママー」
マリーナはママに抱きついた。
「すっかりこの子がお世話になってしまったみたいで…どうもありがとうございました」
ママは俺達に深々と頭を下げた。
「いえ、いいんですよ。困っている人を助けるのは当たり前の事ですから」
と、見ていただけで何もしていない俺が言った。
「バイバイ、マリーナちゃん」
サラはマリーナに手を振った。
マリーナと別れ、宿に戻ろうとした時、意外な人物に会った。なんと俺がクビにしてやったあの飲食店の元店員がこちらに向かって歩いてきていた。嫌な奴に会っちゃったなぁ、素通りしようと俺は思った。しかし、向こうが俺に気づくと声をかけてきた。
「よぉ、この前は世話になったなぁ」
店で会った時とはまるで別人のような態度に俺はちょっとビックリした。
「次の仕事は見つかったのかい?」
「そんなにすぐ見つかるわけねぇだろ!俺をクビに追い込みやがって、許せねぇ」
元店員は怖い顔をして俺をにらんだ。相当頭にきているようだ。
「もう済んだ事だ、水に流そうぜ」
俺は明るく返答してみた。
「うるせぇ!ぶっ飛ばしてやる!」
元店員は殴りかかってきた。以外と速いパンチだ。ガードしてパンチを防ぎ、反撃したがよけられてしまった。かなり素早い反応だ。今度は前蹴りが飛んできた。俺は体を横にずらしてかわしたが、すぐさま俺の顔を狙って裏拳を繰り出してきた。俺は頭を下げて、すかさず相手の腹にパンチを放った。今度はキレイに決まった。
「うごぇ、な、なかなかやるな…こうなったら本気でいくぜ…ケラシード!」
元店員は氷魔法を使い、俺の足を凍らせた。すぐに炎で溶かし、攻撃した。
「メサオ!」
手のひらから放たれた炎が相手に向かっていったが、相手の体にたどりつく前にまた氷魔法を使われた。
「クリシアン!」
氷の壁をつくりだし、俺の炎は防御されてしまった。
「メサオ!メサオ!メサオ!」
俺は連続で炎を放ったが全て氷で防御されてしまう。
相手の氷攻撃も俺の炎が溶かす。
しばらくこの状態が続いた。勝負はまったくの互角だった。
お互い疲れてきた頃、元店員が言った。
「お前強いな、こんな強い奴初めてだ」
以外な言葉が飛んできた。仲直りの言葉と受け取っていいのだろうか?
「お前も相当強いぜ、名前はなんていうんだ?」
「ルシアンだ、今日はこの辺にしとくか!腹もへってきた」
「そうだな、うまい飯でも一緒に食べに行かないか?」
俺はたぶん断られるだろうと思いつつ誘ってみた。
「いいね、俺金ないから安い所で!」
「よし、決まり!」
一部始終を見ていたサラは首をかしげた。
「なんなの、この2人」
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