第10話

 今日はとてもいい天気だ。雲一つない快晴なんて何日ぶりだろう。何か良い事が起こりそうな気にさせてくれる気持ちのいい日だった。しかし、そう思ったのも束の間、持ち物を調べてみると、買ったばかりのべリジンが無くなっている事に気づいた。先日のサリアとの戦いでは、とても役に立ち、今後も必要になってくるアイテムだったのだが…いったいどこでなくしてしまったのだろう?やはりいくつか予備を買っておくべきだった。あんな特殊な魔道具は他では売ってないだろう。俺はガックリしながら次の町までの道のりを歩いていた。


「元気出しなよ、アロル!またどこかの町で買えるかもしれないじゃん」


 サラが優しく語りかけた。


「そうだといいんだけどねー。はぁー」


 魔道具を無くした事に気づいてから、ため息ばかりついてしまう。ため息ばかりついていると不幸になるという噂を聞いた事があるので、意識してやらないように心掛ける事にした。


「あっ!ちょっと見て、アロル!女の子が熊のようなモンスターに襲われてるよ」


 見てみると13才くらいの女の子が襲われていた。


「しょうがない、助けてあげるか」


 俺が大きな炎を出すとモンスターは怯えて逃げて行った。今回は戦うまでもなく、助ける事ができた。いつもこんな楽ならいいのだが。


「ありがとうございます。助かりました。」

「こんな所に1人じゃ危ないよ」


 俺はえらっそうに女の子に注意を促した。


「いえ、さっきまで兄がいたんです。たぶんすぐ戻ってくると思うんですが…あっ、来ました!」


 どこからともなく男が突然現れた。俺は驚いてビクッと体をふるわせた。


「おう、ユーナ!ん?この方達は?」

「私をモンスターから助けてくれた人達だよ!名前は…えーと…」

「アロルだよ、こっちがサラ」

「私はユモスです。妹のユーナがご迷惑をかけてしまったようで、すいませんでした。何かお礼をしなければなりませんねぇ…そうだ、どこか行きたい場所はありませんか?」


 何をするつもりかはわからないが、俺達はしばらく本気で考えた。


「私、空に浮かぶ天空都市に行ってみたいな」


 サラが目をキラキラさせながら言った。


「サラはバカだなぁ、天空都市なんてあるわけないじゃないか」


 俺はサラを軽くけなした。


「ありますよ、とても良い所です」


 ユモスが真面目な顔で答えた。


「え?あるの!?」


 俺は驚愕した。空飛ぶ島なんてあるわけないと思っていたので、ユモスの話をとても信じられなかった。


「ではそこへお連れしましょう」

「そういえば、さっきいきなり現れましたね、移動魔法ですか?」

「そうです、一度会った人間の所と一度訪れた場所に一瞬で行く事ができます」


 ユモスは自信満々で話した。そういう魔法があるという噂は聞いていたが実際目にするのは初めてだった。


「それは便利ですね、ではさっそくお願いします」


 俺とサラは軽く頭を下げた。


「わかりました。それでは行きましょう。ベリーラ!」


 俺達は一瞬で天空都市「メンディア」に到着した。想像していたより、人通りが多く民家や商店もあり、田んぼや畑まである。地上とそれほど変わらない風景が広がっていた。しかし、珍しい植物が多く、気を付けないと食人植物もいるらしい。一番驚いたのが妖精が住んでいるという事だ。手のひらサイズでとてもかわいらしい。空想上の生き物だとばかり思っていたので、本当に存在している事に驚きを隠せない。

 一人の女の妖精が空を飛びながら近づいてきた。


「ウチの武器屋によっていかない?いい品がそろってるよ!」


 妖精がしゃべった。人語を話す事ができたのか!しかも商売までしているようだ。俺の勝手な妖精のイメージだと、1日中妖精同士で遊びまくっていると思っていたので、働いている事に違和感を覚えた。


「まぁかわいい、どこで働いているの?お嬢ちゃん」


 サラは幼い子供と接するかのように話した。


「失礼ね、私これでも20才よ。店はあそこの武器屋さん」


 妖精は指さした。


「あっ、私より年上だったんだ、ごめんなさい。それと私達武器は使わないの」

「あらそう、それは残念ね」


 妖精は飛び去って行った。

 すぐに別の妖精が飛びながらやってきた。今度は男の妖精だった。


「ウチのカフェで天空都市特有のジュース飲んでいかない?とってもおいしいよ!」


 この都市では妖精を客寄せに使う傾向があるようだ。確かに人間より妖精に誘われた方がなんとなく店に行きたくなる。


「いいね、どこの店だい?」

「すぐそこのカフェだよ、ついて来て!」


 妖精に案内されたカフェはとてもオシャレな雰囲気だった。俺達は席につき特製ジュースを注文した。ジュースは注文してすぐに出来上がった。一口飲んでみると地上にはない独特の味がした。


「とてもおいしいね。これはなんという果物の果汁を使っているんだい?」


 俺は妖精に質問した。


「地上にはないオキシスという果物だよ。甘くてうまいだろ?」

「これなら何杯でも飲めるわ!」


 サラががっついてジュースを飲んでいる。


「この辺りで一番のおすすめスポットはどこだい?」

「うーん…ゴルタレスの丘かな!行ってみるかい?」

「行ってみよう、でも仕事はいいの?」

「いいのいいの、アフターサービスも仕事のうちさ」


 俺達は見晴らしのいい丘に案内された。地上を一望する事ができる。なんと壮大な風景なんだ。やっと天空都市に来たんだなぁという実感がわいた。空から地上を見下ろすなんて初めての体験だったので、とても興奮し、感動した。でも、高すぎて少し怖かった。


「すごい!こんな景色を見られるなんて夢みたい!」


 サラがはしゃいでいる。


「二度とこんな体験はできないから目に焼き付けておかないとな」


 俺は目を思いっきり見開き、言った。


「あそこにいるモンスターも最近、メンディアに来たんだよ!ギガンデノスの軍隊の元軍人だったんだって」


 一人でポツンとたたずんで景色を眺めている人型のモンスターを指さした。


「ギガンデノスの!?ちょっと話を聞いてみるか」


 俺達はモンスターに近づいた。


「あんた、ギガンデノスの軍隊にいた事があるのかい?」

「ああそうだよ、下っ端だったけどな。給料が安いから辞めちまったよ」


 ギガンデノスの軍隊は給料制だったのか。てっきりギガンデノスの思想に惑わされた忠誠心あつい者達の集まりで、タダ働きさせられてると思っていた。


「ギガンデノスには会った事はあるのか?」

「ギガンデノスに会えるのは一部の幹部だけだよ。俺は一度も本人を見た事はない」


 少しはギガンデノスの正体をつかめるかと思ったが、期待外れだった。


「なんでギガンデノスの軍隊に入ったんだ?」

「俺達のようなモンスターは働き口が限られてるからな。俺でもやっていけそうな所がそこしかなかったから、仕方なく入隊したんだよ」

「簡単に辞める事ができるのか?」

「ああ、辞める時に変な魔法をかけられるけどな」


 そこまで話すと、モンスターの様子が急におかしくなった。モンスターはブルブル震えだし、歯をガチガチさせている。


「ん?どうした?」


 俺はモンスターに尋ねたが、応答はない。モンスターの体の震えが止まったかと思ったら、徐々に姿を変身させていった。なんと大きな猫に姿をかえてしまった。目をぎらつかせて、フーフー言いながら殺気だっている。

 そしていきなり襲いかかってきた。


「何をするんだ!」


 モンスターの応答はない。どうやら理性を失ってしまったようだ。


「これは呪いだね。きっと軍隊を辞める時にかけられたという魔法が呪いの魔法だったんだ。その呪いが今発動したんだよ」


 妖精は冷静に言った。


「呪いをとく事はできないのか!?」

「できるけど、相手が動いていては無理。大人しくさせてもらえる?」

「わかった。メサオ!」


 炎が猫の体を燃やす。


「うぎぃえー」


 軽傷ですむように威力をとどめ、動きを止めた。

 妖精は呪文を唱え始めた。するとみるみるうちに猫は元のモンスターの姿に戻っていった。


「あれ、俺はどうしてたんだ?痛!ん?火傷か?」


 モンスターは理性を取り戻したようだ。


「軍隊にいた時に呪いをかけられてたんだよ。きっと軍隊を辞めても確実に人を襲うようにするために」


 妖精が説明した。


「そうだったのか、あの野郎!ふざけたまねしがって!」


 とにかく元に戻ってよかった。それにしても呪いをとく魔法も使えるなんて妖精には何度も驚かされる。

 俺達はひととおり都市を案内してもらうと、妖精に礼を言って、ユモスさんに地上まで送ってもらった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る