第9話
今日はメルビロンという町を訪れた。農業、工業、商業がバランス良く組み合わさった町だ。魔道具の製造に特に力を入れており、その質の高さは有名である。王都ほどではないが、活気があり、皆いきいきしている。
俺達は町中を楽しくおしゃべりしながら歩いていた。次はどこに行こうかと話している時、ひとけの少ない裏道で1匹のモンスターを見つけた。なにかただならぬ雰囲気を感じた俺はしばらくそのモンスターの動向を見ていた。モンスターはきょろきょろと辺りを見回すと17才ぐらいの女性に化けた。そして、走り出し、歩いていたおばさんのカバンをひったくり逃げていった。おばさんは追いかけるが、とても追いつかなった。すぐに警備兵を見つけ、ひったくりにカバンを盗まれたと泣きながら話していた。驚いたのは次の瞬間だ。なんとモンスターが化けた女性とそっくりの女性が歩いてきたのだ。おばさんは警備兵に大声で言った。
「あの女です!私のカバンをひったくっていったのは!」
おばさんは鬼の形相で女性に近づき、ほっぺをひっぱたいた。
「この泥棒!私のカバン返しな!」
「は?何いきなり!あなた誰?」
女性はわけがわからないという顔をしている。
「あんたが今、私のカバン盗んだんでしょ!」
「そんな事してないわよ、何言ってるのこの人」
そこで警備兵が割って入った。
「とにかく話は署で聞きましょうか、お嬢さん。ちょっと来てください」
警備兵は女性の腕を引っ張った。
「待ってよ、私は何もしてないって」
俺は黙って見ているわけにはいかないと思い、一部始終を説明する事にした。
「あのー、その女性は犯人ではありませんよ。先ほど、モンスターがその女性に化けてカバンを盗む所を見てました」
「そうでしたか、これは失礼しました」
警備兵は女性の腕をサッと離した。
「まったく、迷惑な話だわ!」
おばさんはプンプンしている。
「ありがとう、助けてくれて。貴方名前はなんていうの?」
女性が俺に言った。
「俺はアロル、こっちがサラ。君の名は?」
「私はサリア。弟と2人で旅をしてるんだ。アロルとサラは夫婦なのか?」
「そ、そんなわけないじゃない。た、ただ一緒に冒険してるだけよ」
サラは慌てながら答えた。
「ふーん、そっか。良かったらご飯でも食べにいかないか?」
「せっかくだけど、これから行くとこあるからまたの機会にしとくよ」
「それは残念だな。それじゃあまた」
サリアと別れると、俺達は町でも有名な魔道具ショップに足を運んだ。有名な店だけあって、品ぞろえが豊富だ。どれを買おうか目移りしてしまうが、やはり店でも一番の人気商品の「べリジン」という魔道具を買う事にした。この魔道具は、頭に描いた映像を相手の視界に映す事ができるのだ。色々な使い道があるだろうが、俺は主に戦闘で相手を惑わすために使おうと思っていた。
せっかくだからサラでべリジンを試そうと思い、何を想像しようか考えていた。
よしこれにしよう!俺はサラが風呂で入浴しているシーンを思い浮かべた。
「サラ、何が見える?」
「ちょっと、何考えてんのよ!アロルのスケベ!すぐにやめなさい」
サラは俺をつついた。
「俺が何考えようが俺の勝手だろ?」
「それはそうだけどさー」
「でもちゃんと見えたんだな」
べリジンを1つ購入すると、店を出た。次に行きたかった店は、魔力の総量を上げる事ができるという噂のマッサージ店だ。王都での戦いでマフトーバを使った時、魔力が底をつき、倒れてしまったので、次回はそうならないように魔力の強化を図りたいと思っていた。
店に着くと、いかにもマッサージのベテランという感じの30才くらいの女性が出てきた。魔法で魔力の総量を上げるのでしばらくじっとしてて欲しいと言われたので、黙って横になっていた。すると、俺の体のあらゆる所を魔法をかけながら触りはじめた。俺はくすぐったかったが、ひんやりとして気持ち良くもあった。
マッサージが終わると次は魔法がかけられた液体の中に入って欲しいと指示された。俺は裸になり、液体に浸かった。とても不思議な感覚だった。熱いのか冷たいのかわからない。気持ちがいいのか、気持ち悪いのかもわからなかった。こんな体験は初めてだったので少々混乱したが全てが終わってみると、前よりはるかに魔力の総量が増えている事がわかった。
俺達は店を出て、裏通りを歩いていた。すると、男が横たわっており、サリアがその男に必死に呼びかけているのが見えた。
「おい大丈夫か、マロウ!しっかりしろ!」
俺達は走って近づいた。
「どうしたんだ?サリア。その人は弟かい?」
「アロルとサラか。そうだ、弟だよ。弟が誰かにボコボコに殴られちまったんだ」
「ひどい、すごい腫れかたね」
サラは口を手でおさえて言った。
「いったい誰がやったんだ、マロウ!」
サリアの必死の呼びかけにようやくマロウが答えた。
「そ、その男にや、やられた…」
マロウはアロルを指さした。
「アロル、てめぇ!」
サリアはいきなり殴りかかってきた。
「待て、サリア!何かの誤解だ!」
俺は弁明を試みた。
「うるせぇ!ぶっ飛ばす!」
サリアは聞く耳をもたない。
サリアは後ろ回し蹴りをはなった。俺は後ろへ1歩下がり攻撃をかわした。続いてサリアはパンチの連打を浴びせてきた。さすがに全てをガードする事はできず、何発かくらった。
「うぐぐ、サリア…話を聞いてくれ」
「てめぇを信用した私がバカだった!観念しな!」
サリアは今度は飛び蹴りを打ってきた。俺は体を横にずらし、なんとかかわした。
「なかなかやるじゃないか、でも次の一撃で確実にあんたは倒れるよ」
「お前とは戦いたくない、やめてくれサリア!」
「いくぞ!ブリラスター!」
サリアは雷魔法を使い、空から稲妻を落とし俺を攻撃した。稲妻は命中したかにみえた。
「やった!」
だが、命中したはずのアロルの姿はすぐに消えてしまった。
「どういう事だ!?確かに命中したはず…」
「こっちだ」
「そこか!ブリラスター!」
また命中したように見えた。しかし、アロルの姿はまたしても消えてしまった。
「何がどうなってるんだ!?」
「俺に攻撃を当てる事はできないぞ」
サリアの後ろで声がした。振り返ってみると、アロルが6人に増えて立っていた。
「くそ、どれが本物なんだ!?」
「ちょっと魔道具を使わせてもらったよ」
「そういう事か、くそったれがー」
サリアは全員に雷魔法を使った。しかし、全員ハズレだった。そして、横を向くとアロルが手のひらをサリアの顔に向けて、攻撃姿勢をとっていた。
「終わりだ、サリア」
「なんでだ!?なんで弟を襲ったりしたんだ!?」
「だから違うと言っているだろう。ん?あれは…」
物陰からこちらを見つめる1匹のモンスターがいた。先ほど、サリアに化けてカバンをひったくった奴だった。そうか、サリアの弟をやったのもあいつだな!俺に化けて襲いやがったんだ。俺は走って近づき、魔法を使った。
「メサオ!」
「ぎぃぃー熱い!熱いよー」
モンスターは悲鳴を上げた。
「サリアの弟をボコボコにしたのはお前だな?」
「そ、そうです!お願い、許して!」
俺は炎を消してやった。
「そうか、お前だったのか!くらえ、ブリラスター!」
「うごぇ」
サリアの攻撃でモンスターは一撃で失神した。
「変身能力をこういうふうに使われると厄介だなぁ」
俺は腕を組みながら言った。
「本当にごめん、アロル…私どう謝ったらいいのか…」
「いいよ、気にすんな!」
「これで許してくれ」
サリアはアロルのほっぺにキスをした。
「キャア」
サラは両手で両目をおさえながら叫んだ。
「そういえばコイツの犯行の動機はなんだったんだろう?」
俺は何事もなかったかのように言った。
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