第8話

 俺達は険しい森の中を歩いていた。草木を避けて歩かなくてはいけないため、とても大変だった。歩いている途中で、妙な岩を発見した。他の岩とは明らかに違う。高さが俺の身長の3倍ぐらいあり、なめらかですべすべしている。まるで人工物のようだった。そして、その岩の中心にはお札が貼られていた。札には何も書かれていない。


「なんでお札なんて貼られているのかなぁ?」


 サラはお札をまじまじと見ながら質問した。


「さぁ、後ろに何か書いてあるかもな」


 俺はお札をはがした。すると岩から「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ」と大きな音が聞こえた。そして驚いた事に岩は姿を変え始めた。


「なんだ、なんだ、何が起こるんだ?」


 俺は困惑した。

 岩はゆっくり変形して、なんとドラゴンになってしまった。そして、ドラゴンは俺達の方を睨みつけてきた。俺は襲われると思い、攻撃の構えをとった。


「俺の封印を解いたのはお前か?」


 ドラゴンがしゃべった。どうやら人語を話せるようだ。


「そうだ、お前はなんで封印されてたんだ?」


 俺は攻撃姿勢をとったまま聞いた。


「色々悪い事をしてたからだよ。思いのままに暴れてたら、ラビアンという魔導士に封印されてしまったのさ」

「え?親父に封印されたのか?」

「親父?そういえばラビアンと同じ匂いがするな。親子だったのか」

「そうだ。親父の代わりに俺を殺すつもりか?」

「そんな事はしないさ。親は親、子は子だ。それに封印されてから俺は改心したんだ。もう昔みたいな悪さはしねぇよ」


 ドラゴンはやさしい口調で言った。ドラゴンに敵意がない事がわかり、俺は臨戦態勢を解いた。


「あんた名前はなんていうんだ?」

「バホムーアだ。よろしくな。お前にはすっかり借りができてしまったな。まぁ何か困った事があったら言ってくれ、俺でよければ力になる」


 ドラゴンの口からこんな言葉が出て来るとは夢にも思っていなかったので、俺達はどう対応していいかわからず、少々混乱していた。


「あ、ああ、そうだな、その時はよろしく。あっ、俺の名はアロルだ」


 バホムーアはニッコリと笑うと飛び立って行った。


「私ドラゴンに初めて会ったけど全然イメージと違った」


 サラが笑いながら言った。


「きっとドラゴンの中でも色んな奴がいるんだよ」


 俺達は再び森の中を歩き始めた。しばらくして森をぬけると、どでかい町が見えてきた。この国の王様が住む都、王都「サンディーナ」だ。サンディーナに着くと全てが他の町と違いすぎて、まるで異世界に入り込んだような気になってしまった。まず驚いたのが人の多さだ。そこら中に人がひしめいていて、ちょっとよそ見をして歩くとすぐに人とぶつかってしまいそうなくらいだ。次に驚いたのが家の造りだ。とてもキレイな造りで見とれてしまうものや、いびつでヘンテコなデザインをしていて思わず笑ってしまいそうになる建物などがあった。施設も充実しており、遊園地や動物園、図書館、博物館など実に様々なものがある。

 イベントもたくさんあるようだ。色んなイベントが催されているが、俺の興味をひいたのは「サンディーナ早食い選手権」という大会だ。俺はその大会に参加してみる事にした。ムーオ村では一番大食いで早食いだったので自身があった。


「参加者の皆さんにはこの総重量2キロのラーメンを食べてもらいます。一番早かった人が優勝です」 


 むひょー、ラーメンをただで2キロも食べられるなんて幸せだー。よーし、やってやるぞ。


「それでは、よーい、スタート!」


 皆一斉に食べ始めた。俺も負けてはいられない、さっそく麺を食べてみた。なんておいしいんだ。こんなうまいラーメンは食べた事がない。スープをすすり、チャーシューと磯のりを食べた。さっぱりした魚介系のスープに極細だけど芯のしっかりした麺、とろとろのチャーシューに絶妙な味わいの磯のり。どれも最高の組み合わせである。このラーメンにかなうラー

メンなど存在しないだろうと思った。具はもちろんのことスープも全部飲み干し、手を挙げた。なんと1番だった。


「すごいじゃん、アロル!ムーオ村でも一番だったけど、こんな大きな都で一番になれるなんて!」


 サラは手を叩いて褒めてくれた。


「まぁ、本気を出せばこんなもんよ」


 俺は優勝賞金の10万ギンドをもらい、その場を去った。

 適当にブラブラ散策していると、王様の御一行が歩いて来た。皆、道をあけ、おじぎをしていた。俺達は気にせず御一行の前を横切った。すると王様の部下が大きな声で俺達に怒鳴りちらした。


「貴様ら!おじぎもせず、我々の前を横切るとはなんたる無礼者だ!ひっとらえてやる」

「すいません、そんなルール知らなかったもので」

「バカが!周りの人達を見てわからんか!さぁ来い、牢屋でしっかり反省しろ」


 俺達は無理矢理引きずられながら連れていかれ、牢屋にぶち込まれた。今度はサラと同じ牢屋だった。


「また牢屋に閉じ込められちゃったね」


 サラがしょんぼりしながら言った。


「ああ、最悪だよ、まったく…」


 1度牢屋に入った経験があるとはいえ、やはり居心地は悪く、今すぐにでも外に出たいという欲求にかられた。しかし今回はサラがいるので、前の時よりかは気持ちが楽だった。牢屋でグダグダしていると、何やら外が騒がしくなってきた。

 なんと、魔王ギガンデノスの軍隊が攻めてきたのだ。軍隊は全員モンスターだ。民衆は完全にパニックになっている。


「キャアー助けてー」

「殺せ殺せー、人間共は皆殺しだー」


 ギガンデノスの部下達は手当たり次第に人間を襲い、暴れ回っていた。突然の襲撃だったため、少々出遅れてしまったが王都軍も出動した。しかし、思いのほかギガンデノス軍は強く、次第に犠牲者の数は増えていった。

 一人の兵士が息をきらしながら走ってきて俺達の牢屋の前で止まった。


「君達、戦闘の経験はあるか?」

「ある。自分で言うのもなんだが、本気で戦ったら超強いぞ」


 俺は自身満々で答えた。


「私もあります。水魔法だったら自信あります」


 サラは小さな声で言った。


「そうか、それならちょうどいい。緊急措置で君達を解放する。我々と共に戦ってくれ。ギガンデノスの配下の者達が攻めてきていて、兵士の数が足りないのだ」

「ギガンデノス…親父を殺したやつだ!ギガンデノスは来ているのか?」

「いや、ギガンデノス本人は来ていないようだ」

「そうか。でも俺は協力するよ。困っている人達を放っておくわけにはいかない」

「私も!」

「ありがとう」


 兵士は牢屋の鍵を開け、俺達を解放した。

 前にも思った事だがやっぱり牢屋の外の空気はうまいぜ!おっと感動してる場合ではない。早く助けに行かなければ!

 都はすでに地獄と化していた。そこら中に王都軍の兵士やギガンデノスの部下達や民衆が倒れていた。


「おっ、また人間発見!人間は無条件で悪だ!殺せ!」


 モンスターが突っ込んできた。


「やれやれ、戦闘力の違いがわからんか…愚か者め!メサオ!」


 モンスターは火だるまになった。


「ウギャー、死ぬー」

「炭になれ」


 黒こげになったモンスターを見つめていると、後ろから別のモンスターが襲いかかってきた。


「よそ見してんじゃねぇよ!」

「ガトリングシャワー!」


 無数の水滴に襲われ、モンスターは倒れた。


「危ないじゃない、気を付けなよアロル!」

「サンキュー、サラ」


 俺とサラのコンビは戦場を駆け巡り、次々に敵を倒していった。20匹ほど倒した時、見るからにボスという感じの人型のモンスターが現れた。筋肉ムキムキで肌は灰色、赤い大きな瞳をしている。


「えらく威勢がいいなお前達」

「お前がこの一団のボスか?」

「そうだ。テスという名だ。まぁ覚えた所ですぐに死ぬんだから意味はないがな」

「だといいが。じゃあいくぜ、メサオ!」


 テスの体を炎が覆う。


「ふっ、あっけない」


 と思ったのも束の間、テスの体からみるみるうちに炎が消えていく。


「お前はこの程度か」


 炎が消えた。テスの体はまったくの無傷だ。


「ガトリングシャワー!」


 サラは水魔法をつかい、全ての水滴の弾丸がテスの体をとらえた。しかし全く効いていない。


「どれ、おもしろいものを見せてやろう。そりゃあ、そりゃあ」


 テスの右手からメサオと全く同じ形態の炎攻撃を繰り出してきた。左手からはガトリングシャワーが飛び出した。


「ベルセイヌ!」


 俺は炎の壁で防御した。


「ミガバンテ!」


 サラは水のバリヤーをはってしのいだ。


「見た技をすぐに真似る事ができるのか?」

「そういう事だ。次行くぞ」


 テスの容赦ない攻撃が続く。俺達はただじっとして防御しているだけだった。

 もうあの技をやるしかない。しかし、あの技は魔力の消費があまりにも激しい。できれば使いたくなかった。

 俺は手のひらに魔力を集中し始めた。すると真紅の球体が現れ、どんどん膨らんでいった。最終的に直径2メートルぐらいの球体が出来上がった。


「な、なんだそのものすごいエネルギーは…どこにそんな力が…」


 テスは驚き、戸惑っている。


「くらいやがれ!マフトーバ!」

「や、やめろー」


 炎の球体は真っすぐにテスの方へ向かっていき、見事にとらえた。


「ぎぃやあー」


 テスは最後の叫びを上げると、跡形もなく消えていった。

 俺は力を使い果たし、その場に膝をついた。


「ボスがやられちまった…だがアイツも疲れきってるようだ!今なら勝てる!いけ!」


 モンスター達が一斉に襲いかかってきた。俺にはもう反撃する力は残っていない。その時だった。

 ばかでかい炎がモンスター達を燃やしていき、アロルの近くにいたモンスターを1匹残らず消し去った。空を見上げると1匹のドラゴンがいた。バホムーアだ。


「なんだか楽しそうだなアロル。俺もまぜてくれよ」


 バホムーアが微笑みながら言った。


「全然楽しくない。けど助かった、ありがとな」


 バホムーアは炎の吐息でモンスター達を一掃し始めた。


「ド、ドラゴンだ!ドラゴンが襲ってきた!逃げろー、殺されちまう」


 モンスター達は一目散に逃げ出していった。

 こうして、バホムーアの加勢もあり、なんとか王都を守る事ができた。しかし、人的にも物的にもその傷跡は深く、復旧にはしばらくの時を要しそうだ。


「なぁバホムーア、なんで俺の場所がわかったんだ?」

「俺も魔法がつかえるのさ」

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