ぼっち
野林緑里
……ぼっち……
最近よく聞く『お一人様』
ひとりで旅行やショッピングへいったり、カラオケしたり、飲食店で食事したりとひとりを満喫している人だ。
そういう人って、別に友達がいないわけじゃない。
遊ぼうといえば遊んでくれる。
一緒に笑ってくれる。
そんな友達がいる。
インスタやフェイスブックなどのSNSでのつながりもあって、お一人様なんだけどひとりぼっちじゃないんだろうなあと思う。
飲食店なんかにいけば、その盛り付けをみて「これはインスタ映えするぞ!」ってスマホで写メして、投稿する。すると、「いいね」や「コメント」とかが入って嬉しい気持ちになる。お一人様なのにスマホみながらニヤリ。
よーし、今度はどんなもの撮ろうかなってインスタ映えできそうなものを探して楽しむ。
ひとりを楽しみながらも、それを友人に共有してもらっている。
たくさんのフォロワー数、なにげないネット上の会話。
それをみながら、私は正直寂しさを覚えた。
だって、私はその場所にいないからだ。
見ることはできるけれど、そこに参加することはない。
ただ眺めていることしかできないのは、なんとなく私はその出来上がった輪の中に入れないでいるのだ。
もちろん、入ったことはある。
でも結局は弾き飛ばされてしまった。
いや、私から出たのか。
それはわからない。
結局はいつまでも眺めているだけだ。
歩み寄ろうとしても足が進まない。
そんな日々は子どもの頃からだった。
おとなしくて口下手で、コミュニケーションが苦手で、友達も作れなくて
いつも独りでいた。
独りで俯いて、楽しそうに笑っているクラスメートの声が苦痛でならなかった。
もちろん、話しかけてくれる人もいたよ。
話しかけられたらそれなりに会話はできていた。それでも友達と呼べるような関係にならなかった。
自分が友達と呼んでいいのかと悩んでしまうからだ。気づけば、いつも他人とも見えない壁があって、それをぶち壊す手段がわからなくて悩んでいた。
必死だった。
あまりにも『ひとりぼっち』が辛くて、でも抜け出す方法を知らなくてつらかった。
それから大人になり、それなりに人と付き合えるようにはなっているけれど、それでも『ぼっち』感は消えない。
どこかで仲間外れされているような気持ちになってしまうことがあるからだ。
そういう気持ちは一生消えないかもしれない。
『独り』ではなく、『ひとり』と思えばいいのかもしれない。
『独りぼっち』じゃなくて『お一人様』と思えばいいのかもしれない。
そんなことを考えながらも、私は独り、『お一人様』を楽しむ人たちを眺めている。
_________________
『昨日午後10時ごろ、○○市の飲食店にて傷害事件が発生しました。被害者は同じ市内に暮らす会社員○△□さん。35歳。ひとりで食事をとっていたところを突然背後から刺されたとのことです。数日前にも似たような犯行が発生したことから、連続傷害事件として捜査を開始しました』
そんな報道が街頭モニターでされている。
それを横目に俺は最近受けた依頼の捜査をはじめていた。
「せんぱーい。まってくださーい」
「うるせえな。なにしているんだ! さっさとこいよ」
後ろからは足を引きずるようにして歩く最近入ってきた新人探偵の姿がある。
「おまえ、なにしてやがる?」
「いやあ。ちょっと、足つっちゃって痛いんすよ~」
そうやって、新人が笑う。
それに苛立ちを覚えた俺は思いっきりげんこつを食らわせてやった。
「いたーい。殴るなんてひどいっすよ」
「うるさい。さっさといくぞ。捜査だ。捜査」
「捜査って、あれですよね? 」
新人はモニターを指差しながらいった。
『目撃情報によると、犯人は二十代から三十代ほどの小柄な女性』
先程の事件の話が続いている。
「……とにかくいくぞ」
俺は歩き出す。
「あー、まってくださーい。うわっ」
新人が転ぶ。周囲の視線が新人に注がれたのはいうまでもない。
なんつうドジだ。
こいつは何度転べばいいのやら。
どうみても探偵に向いてねえだろう!
社長はよく採用したよな!!
はあ。
他人のふりするべきだろうか?
いやするべきだ。
まじで恥ずかしいぞ。
俺はそう思い、ひたすら歩き出そうとした。
「おいてかないでえええ! 先輩」
背後から新人の声がきこえる。
無視だ。
無視!
とにかく無視だ!
俺はひたすら歩いていると、新人は立ち上がり後ろからは追いかけてくる。
街頭モニターはいつのまにか別の話題へと変わっていた。
ぼっち 野林緑里 @gswolf0718
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