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「兄者………!!会いたかった………!!」



「お鈴、すまないね、君の傍に居られなくなってしまって。」



「ごめんなさい……ごめんなさい、兄者……何度後悔した事か……あの時、兄者の言う通りにしていれば、赤子などを助けなければ……兄者は今でも……」



「およし、お鈴。お前のお陰であの赤子が助かった事は紛れもない事実。考えてごらん?あの赤子が大きくなり、子を産み、そのまた子供が産まれる。あの時お前が助けた命が、どれだけ長く繁栄していくことだろう。あの時のお前の判断は決して間違ってなどいない。だからもう、自分を責めるのはおよし。」



「兄者………また、居なくなってしまうの?」



「仕方のない事だ、お前が幸せに生きていられれば、それでいい。それでいいのだよ、お鈴。」



「嫌だ………!!もう兄者の居ない世界は嫌だ………!!行かないで、兄者…………」




 段々と透き通っていくリンドウの手を、その体を、必死に掴もうとしてもさわれない。自分の手がただ空気を切るだけ。スズランは何度も何度も諦めずにれようとする。そんな彼女の頬を、透き通った手で優しく包み込むリンドウ。




「お鈴、幸せになりなさい。」



「嫌だ!!いやだぁぁぁああ!!!!」



「俺はいつでも傍にいる……。たとえこの姿が見えずとも、この声が聞こえずとも、お前をいつも見守っている………。」



「兄者………兄者ぁぁああ!!」



「…………お鈴、愛しているよ。」




 そう言って、スズランの額にそっとキスをした。もうほとんど見えなくなってしまったリンドウの耳元に、立ち上がったぷん座右衛門が何かを呟いた。




「…………そうか、わかった。お侍君、君には本当に世話になったね……ありがとう。お鈴をよろしく頼む。」




 淡く光る蛍の光に紛れる様に、リンドウは消えていった。





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