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スズランよ、なぜお前がこんな目に遭わなくてはならない……?
その優しき心で哀れな赤子を助け、この湖を守り、決して人には危害を加えずにひっそりと赤子の成長を見守ってきただけのお前が、なぜ愛する兄を殺されねばならない?
なぜその美しい羽根をむしり取られねばならない?
なぜ、お前が全てを失わねばならない?
「我が名はぷん座右衛門、一度堪忍袋の緒が切れれば誰にも止められぬ。その時人は拙者をこう呼ぶ…………激おこぷん座右衛門と。」
腰に帯びた鞘からスーっとしなやかな音を立て、刀が真っ直ぐに引き抜かれた。その者の目はまさに、獣を狩る猛獣の眼。
長十郎の手下の者がぷん座右衛門目掛けて斬りかかる………。鼓膜をつく様な金属音と共に、その者の構える刀の刃先が弧を描くように飛んでいった。
「スズランよ、兄者に会いたいだろう……。恋しいだろう……。ならば我慢などせずに思い切り泣け!!」
スズランが思い出すのはその温かい腕の中………。疲れて眠りにつけば、かぶせてくれたその大きな羽根………。どんな時でも彼女を優しく見守ってくれた、その優しい瞳………。全てが奪われた。血しぶきと共に悲しく夜空に舞った、兄の美しい青い羽根………悪魔のような笑い声………止まらぬ涙………壊れゆく己の心………。
忘れたことなど、ひと時も無い。
間髪入れずに他の者がぷん座右衛門に斬りかかる。その動き一つ一つを風を読むようにかわし、隙が出来れば切り捨てていった。
「こやつらに抱くその恨みを、憎しみを、抑え込まずに解き放て!………叫べ!!………怒れ!!」
「あぁぁあああああ!!兄者ぁぁあああああ!!!」
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