邪なる骸

岡 辰郎

1 【AM09:58  残り時間 9時間02分】

 ご遺体には首がなかった。

 だが、一部が欠損した他殺死体の司法解剖は初めてではない。初めてなのは、その遺体が県外から持ち込まれたことだ。

 解剖を依頼してきた刑事は、電話でささやくように言った。

『法医学教室の秋月教授ですか? 東京都北区赤羽東署の課長をしています園山と申します。実は先生に直接お願いしたい案件がありまして……』

 事務が、内線を回してきたのだ。

 名指しで管轄外の監察医を指定していた。よほど特殊な事案でない限り、そのようなことはない。というより、助手時代から数えて20数年間、監察医になってから一度も経験したことがない。

 しかも、東京都から?

 司法解剖の体制は、東京都の方がはるかに高度に整備されているというのに……。

 なぜ、わざわざ千葉県の大学に遺体を持ち込む? 

 なぜ、私に?

 私の返事には困惑がにじんでいたはずだ。

「赤羽東……ですか? そちらでしたら都の監察医務院で行っているはずですが?」

 刑事の要求は予想外だった。

『詳しい事情は遺体の搬入の際にお話しいたします。30分以内にはそちらに到着します。解剖を急ぐ事情があります。つきましては、なるべく情報が外部に漏れないような準備をお願いしたいのです。そちらには解剖用の個室があると伺っています。その部屋が使用できるように手配していただきたいのですが……』

 言葉使いは丁寧だが、一方的に要求をまくしたてるだけだった。初めて検死を依頼してくる刑事とも思えない。

 幸い、今のところ司法解剖室は空いている。朝一番で予定を確認して、穏やかな一日を送れるだろうと寛いでいたところだ。司法解剖の依頼のほとんどは突然やってくるが、その度に解剖実習の指導との調整が面倒になる。今日も助手の有田君には、また2人分の働きをお願いすることになりそうだ。

 それにしても、園山という刑事の慌て方が尋常ではない。北区から千葉駅近くのこの大学まで来るには、渋滞がなくても1時間以上かかるはずだ。

 すでに近くまで来ているということか? 

 いきなりの電話だから、こちらの受け入れ態勢もつかめていないはずだ。了解を得る前にご遺体を移送するほど非常識ではないと思うが……。

 にも関わらず30分と明言するには、相当の無理をしなくてはならない。道路状況によっては、ヘリを出動させる必要があるかもしれない。

 それほど重要な案件だということらしい。

 電話の声からは極めて強い緊張が感じ取れた。まるで、怯える子猫を思わせた。課長の肩書きがあるなら、修羅場にも慣れているはずなのだが……。

 所轄のベテランを狼狽えさせる遺体とは、なんなのか――?

「何か特別なご遺体なのですか?」

『今はお話しできません。外部には絶対に知られたくないので……』

 やはり態度は頑なだ。のっぴきならない事情があるのだろう。断るわけにはいかなかった。ここで説明を求めても押し問答で時間を無駄にするだけに違いない。

 刑事の口調から、与党幹部クラスの政治家かキャリア官僚、あるいは高名な実業家の変死体が出たのだろうと直感した。マスコミが騒ぎ出す前に死因を究明し、発表に備えたいといったところか。

 そんな〝政治的〟理由で無理を通そうとする警察官僚は少なくない。過去には腹上死を隠すために権力をちらつかせた地元政治家の秘書もいた。派閥のボスの自殺を病死に変えようと足掻く地方議員もいた。

 無論、事実は曲げられない。我々は粛々と〝仕事〟を進めていくだけだ。

 とはいえ、大学は国庫からの資金も得ているのだから政治的背景を無視することもできない。スクープを求めるマスコミの好奇の目からご遺体を〝守る〟ことぐらいには協力してきた。

 解剖用の個室は、5年前に医学部学舎を新築した際に私が大学に進言した施設だ。危険性の高い感染症で死亡した遺体への備えとして、バイオセーフティーレベルの高い施設が必要だと考えたのだ。だが今のところ、本来の目的で活躍することは極めて少なかった。新型ウイルスのパンデミックの際でも、遺体の数が急激に増えすぎて逆に出番がなかった。

 反面、〝政治的〟にはなかなか便利に使える設備になった。

 一般の司法解剖であっても、家族が特別扱いを要求してくる場合がある。死亡原因をとことん隠したい場合もある。監察医が遺体の秘密を触れ回ることなどあり得ないが、何がなんでも情報を漏らしたくないという強迫観念に駆られた家族の気持ちを軽視するわけにもいかない。

 それが莫大な金や強い権力を握った相手なら、無下に断ることもできない。大学はさまざまな団体や企業家からの寄付も必要としているからだ。何よりも、ご遺体が個室で丁寧に扱われていると分かれば、家族の死を心穏やかに受け入れる助けになる。

 たぶん園山も、この解剖室を使うことが目当てなのだ。解剖に関与する人員を最小限にし、徹底的に人目から隠したいといったところだ。

 恐れているのは、マスコミの追求だろう。

 都内で重要人物が変死すれば、遺体が司法解剖を受ける監察医務院が注目されることは避けられない。監察医は絶対に情報を漏らさないとしても、事務や周辺の職員が小金目当てに不確かな〝ネタ〟を言いふらす可能性は残る。

 それが恐いのだ。

 私はかすかなため息を漏らした。

「分かりました。最小限の人員で受け入れ態勢を整えておきます」

『ご協力に感謝いたします。では、30分後に』

 その電話の直後に、馴染みの所轄署長から正式に赤羽東署への協力を要請された。警視庁との強い連携がすでに出来上がっているような話ぶりだった。捜査情報を隠し合う事も珍しくない他県の警察がこれほど迅速に協力的になるということが、〝事件〟の重要性を物語っている。

 だがその時でさえ、想像をはるかに超える異常な遺体が持ち込まれるとは思ってもみなかった。

 私はグリーンのスクラブスーツ――術衣じゅついを身につけて廊下で彼らの到着を待った。すぐに司法解剖に入れる体制だ。横には、助手の大橋花苗おおはしかなえ君が同じ服装で立っている。小柄な女性だから学生に間違えられることが多いが、実力は確かだ。

 準備が整っていることを見せて刑事たちを安心させるためでもあるが、何も知らない医学生とご遺体を遭遇させたくなかったのだ。偶然に搬入を目撃して刑事から口止めなどされれば、不快な思いをするか、逆に大はしゃぎする。どちらにしても学内は混乱するだろう。

 警察が隠したいというなら、隠してやる方が不要な波風は立たない。

 教授ともなると、そんなつまらない心配りまで求められるものなのだ。医師として技量はもちろんだが、世渡りの巧みさまで必須の能力だと考えられている。今では慣れっこになったが、当初は同僚と酒を飲んでは愚痴をこぼし合ったものだ。

 事務長に先導されてエレベーターから出てきたストレッチャーには、布で覆ったご遺体が乗せられていた。両脇には厳しい顔つきの2人の刑事が付いている。現場で這いつくばっている姿が似合いそうな痩せた中年男と、まるでラグビー選手を思わせるがっちりとした体格の青年だ。

 私たちは早めに出たつもりだったが、刑事たちは予想よりさらに早く到着したのだ。電話で聞いた時間より5分以上も早かった。

 改めてストレッチャーを観察する。遺体にすっぽりかぶせた布のシルエットから、首がないことは予測できた。

 私の予断は、見事に外れていたようだ。

 花苗君は黒縁の大きなメガネの奥で目を丸くして、私を見上げた。

「あれって……」

 私は小さくうなずいた。

「猟奇殺人、だろうね。あれが秘密主義の理由でしょう。ご遺体がどんな状態か分からないよ。大橋さん、有田君に代わってもらおうか?」

 他愛もない軽口だ。

 常にご遺体の体内を観察している私たちにとっては、多少の外見の変形は苦にはならない。時には、自動車事故で潰れたご遺体や列車に轢断されたご遺体を扱うこともある。膨れた水死体の悪臭に閉口することもある。

 花苗君も小声でさらりと受け答える。

「頭部切断のご遺体は経験があります」

 確かにそうだ。

 当時花苗君は赴任間もない助手だったが、必死に動揺を見せまいと奮闘していた。だが、衝撃を受けるのは最初だけだ。いったん腹腔を開いて内臓を取り出し始めれば、首があろうがなかろうが大きな違いはない。

 遺体の欠損、特に頭部が足りないと極端に情報量が減って、死因の特定が難しくなることは悩ましい問題なのだが。

「大橋さん、解剖の準備をお願いします。私は刑事さんから詳しい話を聞きますので」

 うなずいた花苗君が、スライドドアを開いてストレッチャーを解剖室の前室へ導く。ラガーマンと2人でストレッチャーを押していく。

 事務長は私に黙礼して去って行った。

 中年の刑事が、私に警察手帳を見せる。電話をかけてきた園山だ。

「お手数をおかけします」

 私は解剖室の横のドアを指差して、教授室へ導いた。

「こちらへ」

 教授室といっても、極めて事務的な部屋だ。5、6人で囲めるテーブルと椅子、私の仕事机と院内情報システムにつながったワークステーションがあるだけだ。壁の書架はファイルで埋め尽くされている。生きた〝患者〟が訪れる場所ではないから、これで充分なのだ。

 園山はドアを閉めるなり言った。

「あの女性は随分お若いようですが……大丈夫でしょうか?」

 思わずため息を漏らしてしまった。

 小柄で華奢な花苗君は、実力まで学生並みに見下されることがある。だがそれよりも、女だということで不安を抱いたことが顔に表われていた。今時、口に出すのも憚られる〝昭和のオヤジの感覚〟だ。

「医師には患者の情報に対する守秘義務があります。監察医でも同様です」

「それはもちろん。ですが、能力は……?」

「あなたが秘密保持を重要視しているようなので、助手は1人に限定しました。当然、最も有能な助手を選びました。5年以上一緒に働いていますから、ご安心ください。そちらにお掛けください」

 園山が椅子に腰掛けながらうなずく。

「ありがとうございます。しかし、あの死体はちょっと特殊な状態でして……」

 園山はそれでも不満らしい。

 私は壁際に進んで、カーテンを開いた。そこは、壁一面が大きなガラス窓になっている。隣の解剖室の中が見渡せるのだ。

 10畳ほどの広さがある解剖室は、清潔さを保つために大半がステンレス製の設備で構成されている。中央に置かれた解剖台もステンレス製で、花苗君のスクラブスーツの色を鮮やかに反射させている。

 今は天井の無影灯は消灯されているが、解剖を開始して明かりをつければ、さらに清潔さが際立つ部屋だ。気密性を重要視している設備だからガラス窓は嵌め殺しで、もちろん外壁側にも窓はない。

 このクリーンな環境と花苗君の手際良さを見れば、園山も文句は言えないはずだ。

「大橋さんは若く見えますが、もう30過ぎのベテランですよ。能力はすぐに分かります。あ、年齢を明かしたことは内密にね。北区からいらっしゃったんですか?」

 わずかに間があった。捜査に関わる情報を出してもいいものか、瞬間的に計算したのだろう。

「現場は赤羽の熊野神社の近くです」

「それにしては早かったですね」

「時間がないので、ヘリを手配しました」

「時間がないって……? ご遺体に、ですか?」

 これこそが異常事態だ。

 まさかとは思っていたが、本当にヘリコプターで遺体を移送したのだ。運ぶのが生死の境をさまよう重病人なら理解できる。日本の医療制度はその点では完備されている。離島から急性期の患者を運ぶために自衛隊が出動することさえある。

 だが、首を失った遺体を慌てて運ぶ理由など思いつかない。しかも、所轄署の刑事が時間がないと言い切る。これほど急かされる司法解剖など初めてのことだ。

 一体、何が特別だというのだろう……?

 ガラス窓の向こうを見た。

 解剖台に横付けされたストレッチャーから、布が外される。遺体の足が、私の方に向けられていく。男物のスーツを着た、着衣の遺体だ。首がないために小さく見えるが、予想していたより大柄だ。それ以外は、ごく普通の遺体にしか見えないのだが……。

 シャツの首周りには血痕が付着しているが、多くはないことはガラス越しでも見て取れた。首の切断面はちらりとしか見えなかったが、その他には出血の痕跡はなさそうだ。

 おそらく、息絶えてから首を切断されている。血痕の鮮やかさから見ると、死んでからそう長い時間は経っていなさそうだ。死因は窒息が最も強く疑われるが――。

 花苗君がストレッチャーを固定して、遺体をステンレス製の解剖台へ移動しようと手をかける。さすがに重そうだ。

 私はスピーカーのスイッチを入れて言った。

「大橋さん、やっぱり有田君を呼ぶから、待ってて」

 今回は私が手伝うつもりだったが、園山の様子はやはり普通ではない。事件も特殊なようだ。詳細を聞くことを優先させよう。

 通常の司法解剖なら2、3人の助手が付くから、手が足りないということはない。解剖自体にはそれほどの人数は不要だが、大学は教育機関でもあるから後進の育成が大きな役割の1つなのだ。

 死因を判定するためにご遺体を精査することは、人体の仕組みを知る上で非常に有益な経験になる。

 助手の1人の有田光一君は、3ヶ月ほど前にシカゴの大学から日本の検死制度を学びに来たスタッフだ。日本で臨床医の経験を積んだのちに、海外の現場を知りたくて日本を飛び出したという。純粋な日本人だから、〝逆輸入〟のようなものだ。

 いつもは花苗君と組んで私の助手についているが、今日は警察の要請を考えて学生の指導を受け持ってもらった。必要な時はいつでも手助けしてもらえる、高い技能と実務経験を持った万能スタッフだ。

 最近は、花苗君と仲が良さそうにしている。年齢もさほど離れていないので、お似合いのカップルに見える。

 花苗君が答える前に、付き添いの刑事の慌てたような声がスピーカーから流れた。

『俺が手伝います!』

 関わるスタッフをどうしても少なくしたいらしい。やはり、警察は神経質になっているようだ。首なし死体ぐらいでは、我々は驚きはしないのだが。

 ガタイのいい見た目から、その刑事なら2人分ぐらいの力が出せそうだと分かる。遺体の出血も少なそうだから、汚れることもないだろう。遺体の移動といった力仕事だけなら、任せておいてもいい。

 彼らが遺体を動かした瞬間、右手の甲がひどく日に焼けているのが見えた。なのに、左手は驚くほど白い。片腕が日に焼ける仕事といえば――運転手か?

 タクシーなら、UV対策も施されているだろう。ならば、個人営業のトラックドライバーとかだろうか? それにしては、スーツ姿が似合わないが……。

 花苗君が着衣をハサミで切り始める。後の準備は任せておいていい。証拠保全の約束事やルーティンなどにも充分な知識と経験を持っている。

 私は振り返って園山刑事に尋ねた。

「で、なぜ今回に限って管轄外の大学に?」

 園山が解剖室を見ながら小声で言う。

「隣に話が聞こえるんですか?」

「まあ、多少は」

「スイッチを切っていただきたい」

 あくまでも花苗君には多くの情報を与えたくないようだ。私は小さく肩をすくめてスイッチを切った。

「これでご満足ですか?」

 たぶん、私の軽い苛立ちは声に出ている。だが、園山は意に介した様子はない。所轄の課長なら気づかないはずはないから、あえて無視しているのだろう。

 園山はいきなり本題に切り込んだ。

「今朝9時ちょうどに、廃屋になっていた町工場でボヤの通報がありまして……消火に入った消防から連絡を受けました。工場の中に、首なしの死体があったのです。死体はおそらく、工場の裏手の川を使って運び込んだのでしょう。死体の上にはこれが置いてありました」

 園山はiPhoneを出してテーブルに置いた。何かの写真を表示し、向きを変えて私の前に押し出す。

 私は身を乗り出して画面を覗き込んだ。宅配便の伝票だ。遺体の胸の上に、それが置いてある。送り主は空欄だが、宛先が定規を当てて書いたような直線的な文字ではっきり記されていた。

『京葉大学医学部法医学教室・秋月正隆教授』

 思わず、声が出た。

「私を名指しで? だからここに持ち込んだのですね……」

 首を切り落とした犯人は、荷物のように遺体を送りつけてきたのだ。

 だが、なぜ私に……?

 園山がうなずきながら言った。

「問題は、こちらです」

 そしてiPhoneの画面を触って横にずらした。二つ目の写真が表示された。何かの文書の接写画面だ。

 私はさらに顔を近づけた。やはり直線を組み合わせた文字が記されている。画面に触れて写真を拡大し、ずらしながら文章を読んでいく――。

『この死体の体内には異物が入っている。異物の中に、ある場所を示す情報が記してある。その場所を、10時間後に爆破する。そこには、人間がいる。従って、10時間以内に異物を摘出できなければ、その人間、あるいは人間たちは爆死する。1時間後に東京都近傍で爆発のデモンストレーションを行う。必ず、秋月に1人だけで解剖させろ。異物には金属も使用しているので、MRIの使用は厳禁とする』

 息を呑んだ私に、園山が言った。

「死体の脇にタイマーがセットしてあり、すでにカウントダウンが始まっていました」腕時計を確かめる。「残り時間が9時間を切りました」

 私は園山の目を見つめた。

「残り時間って……」

 同時に、ガラスの向こうから私を呼ぶかすかな声が聞こえた。

 私は振り返って解剖室を見た。花苗君が、解剖台で衣服を切られて全身を晒した遺体を見下ろしている。怯えたような表情を浮かべていた。

 どういうことだ?

 経験豊富な花苗君が、なぜ首なし死体ぐらいで驚く?

 猟奇的な他殺体は初めてではない。それぐらいでは動揺しないという花苗君の自信は、まぎれもない事実だ。花苗君の胆力には、むしろ私が常々驚かされてきた。

 スピーカーのスイッチを入れた。

「どうしたんだね?」

 花苗君が私を見た。間違いない。明らかに怯えている。吐気をこらえているかのようにすら見える。

 なぜだ?

『先生……この死体、異常です……。手足が、別人のものなんです……』

 は? どういうことだ?

 私は遺体に目をやった。遺体は解剖台の上で、足を私の方へ向けている。それでも、確認できた。

 花苗君の言う通りだ。

 最初、右手は日に焼けているのだと思った。そうではない。黒っぽい色は、肩の近くまで広がっている。その切れ目には、傷跡のような痕跡がある。黒人の腕が胴体につながっているらしい。

 左腕は?

 やはり、肩の下に傷跡。腕は妙に白い。その上、華奢だ。やはり、別人の腕がつながっているようにしか見えない。

 そして、足――。

 やはり両足の腿の付け根に傷跡がある。しかも、明らかに長さが違う。この死体は複数の――恐らくは5人の体を継ぎ合わせて〝作られた〟ものなのだ。

 さらに、胴体には開胸手術の……いや、それよりもやや長い、ヘソまで到達する傷跡がある。胸から下腹部近くまで、切り開いた手術痕だ。しかも、完全に治癒している。

 なぜだ……?

 この遺体は、なぜこんな姿をしている……?

 いや、なぜこんな姿をしていられるんだ……?

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