第13話 図書館
会えないか?という大介からの突然の連絡に、高鳴る胸の鼓動を抑えながら平静を装い、淡々と再会の日を段取りしたせいか、実は大介の近況を何も聞き出せずにいた。
大介の言う会いたいは、2人きりで、なのか、
別れてから連絡を一切絶っていた、橙子の周りの友人達も含むのか、わからなかったが、それを確認するのはなんとなく憚られた。
2人きりか?という質問の答えがNOだった場合に、自分のプライドがゆるさなかったからだ。
それも、当然のことだと思った。
あの日ケンカ別れをしてから、大介からの連絡は一切途絶えたのだから、橙子から先に
『図書館メンバーに声をかけますね。』
と、先手を打ったのだった。
図書館メンバーと言うのは、図書館の自習室に一緒に通っていた、受験生の聡太と深雪、大介と同じテニス部の佐藤隆とあとは2年生の秋生と紘子だった。
そもそも受験生でもないのに、橙子たち2年生がなぜ図書館についてきていたのかというと、紘子がテニス部の隆に片想い中だったから。
橙子と秋生をカモフラージュにして、
「映研で使用する資料を探す」や。「試験勉強で」などと何かと口実を作って図書館組に混ざっていた。
紘子は恋多き女で、廊下で男子とちょっと肩が触れただけでも相手を好きになってしまうという、恋愛体質であった。
恋愛体質がゆえに熱しやすく冷めやすいのも難点で、隆の前は同じクラスの男子のことが好きで、その前はラグビー部のキャプテンに惚れていた。
部活を引退して、映研の部室に顔を出すようになっていた大介のことも好きになりかけていたが「大介先輩は橙子の方があうかも」とかいいながら、紘子は大介と一緒に部室に顔を出すようになった隆に乗り換えた。
橙子が大介と部室で勉強してからというもの、聡太先輩たちと一緒にいる大介を「大介先輩」として認識するようになった。
おそらく今までも聡太たちと一緒にいる大介を見たことがあったのだろうが、
まったくと言っていいほど記憶になかった。
しかし、そうは言っても学校だけでなく、放課後の図書館でも顔を合わせるようになって、自然と会話もできるようになった。
大介には聡太先輩とはまた違った落ち着きと、明るさがあって、橙子とも普通に接してくれる大介に好感を持つようになっていった。それでも、好感を持つといったレベルに違いなく、「好き」とはちがっていた。
恋愛体質の紘子は、彼氏もいない橙子に
「大介先輩とつきあっちゃえば?私は隆先輩と付き合えたら、ダブルデートとかよくない?」
などと言うものだから、橙子は大介のことを意識したくなくても、つい意識してしまうようになっていった。
けれども、好感を持てば持つほど、橙子の心にブレーキをかけるものがあった。それは大介の志望校だ。深雪と大介が図書館で話している場に居合わせてしまい、自動的に知ってしまったのだが、
大介は県外の大学を志望しており、就職もいずれは県外でするだろうと言うのだ。
橙子と大介が万が一付き合うことができても、大介が卒業して、すぐに遠距離恋愛になってしまう。
いまだに誰とも交際したことのない橙子には、彼氏ができることも、ましてや遠距離恋愛で愛を育むことなども想像すらできなかった。
大介と付き合えたら楽しそうだな、と漠然とは思うけれど、大介の気持ちなんて読み取れないし、これ以上好きになっても無駄かもしれない。
変に告白して、フラれたりするよりもこのまま友人として終わらせる方が、自分にも都合がいい。
またそれ以上に受験前の大事な時の大介を煩わせるようなことがあってはいけない。
そう思った橙子は自分の中で芽生えつつあった、大介に対する恋心に蓋をしようとした。
紘子の誘いもなんとなく交わして図書館に行かなくしたし、校内で大介たちとすれ違っても、よそよそしい態度をとった。
それはまるで、『聡太先輩と一緒にいる、知らない先輩』を見るような態度で接することにした。
振り出しに戻したいだけ。大介先輩を知る前に、気持ちを戻したいだけ。
芽生え出した気持ちを抑えるのは、思春期の恋愛経験の乏しい橙子には難しかった。
大人になって思えば、ただ告白さえしなければよかっただけ。それなのに、橙子のあからさまな態度に聡太や大介は不審に思っていたことだろう。
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