第11話 出会い

田所大介との出会いは高2の夏の終わり、橙子が部室にいた時だった。


橙子は同じクラスの野上紘子と映画研究会に入部していた。

その日は放課後部室で1人明日提出しなければならない課題を終わらせようとしていたところに

「聡太いるー?」

慣れた様子で部室に入ってきたのが大介だった。

聡太とは1学年上の映画研究会略して映研の先輩、中島聡太のことだ。


そもそも、橙子がなぜ映研に入ったのかと言うと、それは入学して数日が経った頃、

「帰宅部でいいかなぁ、うちの高校課題多いって聞くし、運動も苦手だし」

同じクラスで出席番号が前後と言うこともあり仲良くなった、野上紘子と話していたところに、

「帰宅部なんてもったいない、とにかく高校生は青春しないとダメだ!映研に入ろうぜ、一緒に!」

と紘子と同じ中学出身の加藤秋生から半ば強引な勧誘を受け紘子と3人で入部したのだった。


映研と言うのは一般的に、自分達で映画を作成して、コンテストに参加したり文化祭などで発表したりするものだが、秋生たちのいる映研はそこまで熱心ではなく、好きなDVDを持ち寄って上映会をし評論しあったり、小さな映画館でしか上映されないようなコアな映画を鑑賞しに行ったりするぐらいの、ゆるい部活であった。

さらに、ただ集まって購買部で買ってきたお菓子を食べながら話すだけの日もあり、むしろそんな日のほうが多かった。


だから、この日もみんなが来るまでと、エアコンのきいた部室で橙子は課題をやっていたのだった。


「あ、聡太先輩ならまだ来てませんよ。ってか、図書館に行ってると思います。深雪先輩がみんなで行くって言ってたし」

深雪とは同じ映研で聡太と同学年の森谷深雪のことで、ホラーやゾンビなどのキワモノ系が好きで女性らしいそのルックスとはかけ離れた好みのために、男性部員からは好意を寄せられるというよりも一目置かれているような、そんな存在だった。

しかし、3年生は運動部と同じく3年の夏には引退することになっており、この時季には部の活動にはほぼ参加せず、たまに部室で勉強したり少し話して帰ったりする程度であった。


「そうなんだ、じゃあ俺も図書館行くかな」 

突然現れた、この男子に戸惑う橙子を気にすることもなく、

「いや、やっぱりここで勉強しよっと。エアコンきいてるし、図書館行くのめんどいし。いい?」

「あ、ど、どうぞ」

初対面の人がどうも苦手な橙子は、ぶっきらぼうに答えてしまった。


聡太先輩の友達はよく部室に訪れて、上映会にも参加したり、自由に出入りしているのもあり、断る理由がなかったし、うまく断るような言葉も思いつかず、そのうち誰か他にも来てくれるだろう、と思ったのだった。


「じゃぁ、荷物とってくるからさ、帰らないでね!絶対だよ」

そう言い終わるか終わらないかわからないぐらいの速さで、聡太の友達は映研の部室を後にした。


それから5分経ったくらいだろうか、宣言通りその聡太の友達は戻ってきた。

「ミルクティとコーラだったらどっちがいい?」

橙子の目の前にペットボトルを二つ並べた。

「あ、じゃあミルクティで」

そういうと、その男子はミルクティの方を橙子のほうにさらに近づけ、自分はコーラを手に取り口をつけた。

橙子もそれに従うように、いただきます、と小さな声でミルクティをとって開けようとするも蓋が固くてなかなか開かない

「貸して、君名前なんて言うの?俺、3-Cの田所大介」

橙子が選んだミルクティを取り上げて蓋を軽々と開けた後再び橙子の目の前に置いた。

「あ、ありがとうございます。わたし、あの、えっと、2-Aの新山橙子です。」

夕方の日差しが目に入ってきて、期せずしてにこやかに微笑んだような顔になった。

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