第6話 プロポーズ

「俺と結婚してください」

大晦日の夜。

夜景が綺麗に見えるホテルの最上階のレストランで食事をし、デザートを待つタイミングで、透明な石のついたキラキラの指輪を差し出して、

大介は言った。


11月に入ってすぐの頃だったか、

「今年の大晦日はさ、ホテルに泊まって美味しいものでも食べようよ」

と大介が提案してきたのだ。

大晦日は毎年、帰省してきた大介と、地元の大きな神社へ訪れて年越しするのがもう何年も続くイベントだった。

それをホテルでの年越しにしようと言う大介。


これは、ついにその時が来たな


無粋ながらも橙子はそう感じた。

このところ、あまりうまくいってなかった仲だったけれど、

長年一緒にいた時間が、今さら別れるなんて、という気持ちにさせたのもあり、

大介がようやく気持ちを固めたのだなと

そう思った。


テレビに出てきそうな典型的なプロポーズ。一生に一度しかないチャンスだと思った。

本当は就きたい仕事があったが、大介の気持ちが固まったらいつでも辞められるようにと、事務の仕事を選び就職したのだった。


大介がホテルに泊まろうと行った時から、気づいていたけれど、突然のように驚いてみせた。そして、

「ハイ。ありがとう」

答えはYES。

いや、それしか選択肢はなかった。

あるはずもなかった。

そして、涙がハラリと落ちた。


その晩の大晦日にしかない歌番組から流れてきたラブソングを忘れられない。

その曲を聞くたびに、あの大晦日を思い出す。幸せだったあの夜を。

「どこでボタンをかけちがえたんだろう」

「なぜ別れてしまったのだろう」

聞くたびにその思いが胸を締め付けた。

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