14-1

「いただきますー」

 反抗期真っ盛りの子どもたち/しかし食事のときだけは息ピッタリ。

 前時代じみたダイニングテーブルとテーブルクロス。その食卓の上には山盛りの唐揚げとポテトサラダ=モモとサナの合作。

 やんちゃ×4人は唐揚げと衣をこねて、ニシが油で揚げた。すべて手作り=魔導を使わず。手の作業は魔導士にとって愉悦のひとつ。

「うめー」「おいしー」「おーいし」「うめ」

 各々が口をパクパクさせる。唐揚げは1人5個まで=先に各々が自分の分を取っておく。

「ほら、ちゃんと野菜も食べる!」

 母親役のモモ。それをニコニコ眺めるサナ=さながら叔母のポジション。

 そうなると、自分は祖父のポジション=ニシのまとまりのない考え。

 ポテトサラダは炭水化物の塊だが、はたして野菜のポジションなのだろうか。

「うん、モモのポテサラおいしいよ」

「ニシ兄ぃ、ホント? じゃあたくさんあげちゃう」

 モモのサービス。皿に更に山盛りのポテトサラダが追加された。

「ところで、みんな。買いたい物は決まった?」

 にぎやかだった食卓が一瞬だけ静かになった。

 常磐からの特別報奨金100万。端数は税金対策で別置き。

 お金は、オジサンに頼めばたいていは解決する。経済的に困っているわけではないが、オジサンにあまり頼りたくないというのが本音だった。できれば自分の力だけで高校卒業まで支えたい。

 100万円も、もちろんその時のために貯めておくが、1人1万円ずつ欲しい物を買ってやりたかった。

「俺、ポケモンカード!」

 1番槍はカヅキ。

「あれ、ポケモンにカードゲームがあったのか」

 ニシ=ジェネレーションギャップ。

「あるある! だからお金ちょーだい」

「あたしもー」同じ3年生のハナも同調する。

「だめー! 1万円で何枚買えると思ってるの」

 モモが一喝。大人びた小学6年生。

「まあ、自由に使えばいいよ」ニシがなだめる。「でも後悔しないよう、よく考えて使うんだよ」

 失敗も後悔も勉強のうちと考えるニシ=おじいちゃんポジション。

「あたしはマンガ。『ブレーメンの聖剣』を買うの」ユメの提案。

「あれ、ちょっとグロテスクじゃないのか」ニシ=小学4年生にはやや早いと老婆心。

「みんな読んでるもん! 大丈夫だもん!」

 モモの反論はなし。あとで借りる気かな。

「あたしも小説! ハリーポッター」ヨシコの対案。

「あの分厚いやつ、読めるのか」

「読めるもん。で、お釣りはちょーだい」

 ヨシコのしたたかさ。

「別にいいけど。で、モモは何がほしいんだ?」

「わたしは、えっとね、えっと」

 モモ=もじもじ。小学6年生相応の雰囲気/しかしかわいらしさなどなく、その後の言いづらいことをお願いするときのいつもの予兆。

「別に、遠慮することはないんだ。みんなで使うお金だから」

「スマホ、ほしいな、って」

「でもケータイ、もってるじゃん」

 ハナの反論。モモは、イ゛―っとすごむ。

 ケータイは、それぞれ子どもに持たせている。怪異だの潰瘍だの戦争だので不安定な世の中なので、防犯/しかし通話機能のみのキッズケータイ。

「そうか、友だちもみんな持ってるのか」

「みんなじゃないけど、でも、ほしいなって。ほら、中学生になったら買ってくれるって言ったし」

 つまりサナには、近いうちに買ってあげる予定だった。そのせいで自分も欲しくなったのだろう。

「スマホか。高いなあ。どのスマホがいい?」

 瞬時に計算/金策。

「iPhone……15」

「あー、あれ」

 CMでよく見るやつ。simをきちんと選べば高くない/しかし初期費用は高い。

「今年は、お小遣いなしでいいから」

 そもそもお小遣い制ではなく必要なときに必要な分だけ渡している。

「んー検討。慎重に使えるかどうか、わかんないし」

 ふてくされるモモ。小さい子たちの前で顔には出さないが、明らかに態度でわかる。

「買わないってわけじゃないから」ニシは慌ててフォローした。「で、サナは?」

「わたしは、えっと、えっとですね」

 こちらも言い出しにくい様子。

「遠慮は、なし」

「お金、現金でほしいです。その、友だちと学校から買える時遊ぶこともあるので」

 ずいぶんとボカした言い方/しかしプライバシーもあるので聞かず。それよりも友だちができたということが嬉しい。

「そうか、友だちか。いいぞ。でも無駄遣いはしないように」

「はい!」

 サナ=嬉しそう/甘え方が分かった感じ。

 モモの機嫌をどう直そうか。買ってやるしかないだろうな。アレは高い。パソコンが買えるくらい。パソコンなら、快諾するのだけれど。

 その時、スマホが鳴った/常にマナーモード=緊急の呼び出し。

 嫌な予感。呼び出し中の画面を見なくても、誰からか想像がついた。

『すぐに来て! 緊急』

 電話の向こうでカナは一方的に言うと電話を切った。

「どう、したの?」

 不安そうなモモ。ニシは表情を取り繕った。

「大丈夫。なんてことない。ちょっと常磐に行かなくちゃいけない」

 テキパキと、残った唐揚げとポテトサラダにラップを掛ける。

「すぐ戻ってくるから」ニシは言い足した。しかしなおも不安げな子どもたち。

「わかりました」何かを察したサナ。「いってらっしゃい」

「ああ。戸締まりはきちんとして、知らない人が来ても絶対に開けたらだめだから」

「はい、わかっています」

 ニシは念動力で冷蔵庫に食べかけのお皿をしまう/ヘルメットとグローブを引き寄せる。

「いってきます」

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