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「いただきまーす」
食事で子どもたちの機嫌を釣ろう、というのはやらないようにしている。子どもは大人より洞察力が鋭い。大人の魂胆なんてすぐ見抜いてしまう。だから、素直に接するのが一番。
だから、臆することなく、ハンバーグを作るし、サラダも食べさせる。
「ハナ、トマトも食べなさい。もう、ヨシコ、ソースが口についたまま!」
母親役=モモ。それを眺めるニシとサナ。
「どう、口に合う?」
「ええ、はい。おいしいです。私がお風呂に入っている間にぜんぶ作ってて、びっくりしました」
サナは新しいパジャマ=地味な灰色のスウェットを着ている。しかし髪が濡れたまま。ドライヤーはわかりやすい所に置いてあるはずなんだが。誰かがまた、使った後もとに戻してない。
「手を使わないからね。魔導を使って、同時にいろいろ作れるんだ」
「あたしも、手伝ったから!」
モモがサラダを子どもたちに取り分ける。
「でーも、モモは魔導じゃなくて、包丁をつかったんだけどねー」
カヅキが茶化す。
「みんなもいつかはできるようになるさ」
「でもー、ユメたちはニシにーちゃんみたいな白い魔導士じゃないもん」
「白、ですか?」
サナが首を傾げる。
「ああ、白い、とか白環の魔導士とか呼ばれてる」
左腕の乳白色の腕輪をサナに見せた。
「機械?」
光にかざすと、内部の配線が僅かに見えた。
「そう、機械だ。GPS発信機で、高位の魔導士は着用が義務付けられている。なにせ、犯罪からテロまで、この力があれば何でもできる。それを抑制するために。全国に、十数人くらいか。ほとんどは常磐の研究所か国連の潰瘍対策室で働いてるけど」
「じゃあ、ニシさんも、将来は?」
「しょーらいは、クレーン!」
突然、反応したカヅキ=丸坊主のわんぱく小僧。クレーンに困惑するサナ。
「建築業界では、魔導士は人気でね。重機を使うより早く工事ができるっていうんで、仕事が多いんだ」
「おねーちゃんは、何になりたいのー」とハナ。
「私は……」さっきより困惑するサナ。「考え中、かな」
サナの微笑。大人びた処世術。
「じゃーさ、じゃーさ、どんな魔導が使えるの? “てんぷ”だっけ? どんなの?」
絶え間ない子どもたちの質問攻撃。サナの援護を求める視線。
「天賦の才は、魔導士固有の強力な術のこと。大抵は修行やら理科の勉強やらで術式を覚えるんだけど、天賦の才は生まれながらにして扱える強力なもの。5段階のクラスのうち橙と白の魔導士は持っているものなんだ」
「私は、よく覚えてないな。たぶん、使ったことがる、感じがするけど、覚えていないの。でもこう、ピカってする感じのはおぼえてる」
サナはごまかして笑った。オジサンから聞いていない話だった。
その時、玄関のガラス戸が開いた。
「じゃまするでー」
ニシの天賦がやってきた。
「あーカグおじさん」とユメ。
「よう、たち、久しぶりだな。ほら、お土産」
浅黒い肌に金髪。玄関をくぐるのに身をかがめなければならないほどの長身。そもそも人間じゃない。そんな自称・神がポップな箱に入ったドーナツをテーブルに置いた。その威圧感たっぷりな巨体でドーナツ屋のカウンターに並んでいる姿を想像して笑いそうになった。それ以前に、金はどうしたんだろうか。
「はじめまして、サナです」
「ほう、新しい。はは、おもしろい」
彼はサナと握手をした。彼はまばたきをしないままサナをじぃっと見た。
「あの?」
「うん、おもしろい」
たぶん、彼なりに何か、人間の面白い部分を見つけたんだろう。
「ねーおじさんもハンバーグたべる? おにーちゃんが作ったんだよ」
「遠慮しておこう。食事は要らぬ体だからな」
首をかしげる子どもたち。
「もう食べてきた、だってさ」
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