続 わたらない送電線網

@Fushikian

第4話 水の街のヴィーキング

 大河ヴィンセント川にウエストタウンと隔てられて、ミドルタウンはある。ヴィンセント群の送電線網を担う電力供給基地を擁している。ほぼ電力が途絶える心配がないため、町民の物腰からは余裕が見える。


 ミドルタウンは水の街である。ヴィンセント川の支流がいくつもに分かれて、運河として民の生活に寄与している。風光明媚な景観も少なくない。なかでもリオレア峡谷は深い谷と清い流れにいろどられた町一番の観光名所であり、共和国有数の景勝地でもある。観光が主たる収入源であり、それはミドルタウンの豊かさの源である。


 ミーロは運河を渡る船の船頭である。市内をゆったりめぐる周遊観光のほかに、激しい流れもあるリオレア峡谷の舟くだりもこなす。

 「あれが町庁舎です」

 ミーロは乗客に指し示した。

 「すごい建物の下を川が流れている!」

  町庁舎は運河をまたいで立っている。陽の光を白亜の壁面が照り返していた。青空に映える姿をしていた。


 日が暮れて仕事を終えたミーロは石畳の街路を歩く。旧市街はレンガ造りの家々が並んでいる。軒に“ヴィーキング”と看板が掲げられた店の扉を開けた。カウンター席に腰かけて麦酒を注文する。仕事を終えてこの店で一息つくのがミーロのいつもの流れだった。天井にプロペラのようなファンが回っていて、橙色の照明がゆるやかに照るこの店にいると落ち着くのだった。

 

 「ミーロ、商売はどうだい?」

 白髪で恰幅のいいマスターが尋ねてきた。

 「悪くないよ、峡谷にいきたいという客も多いしね」

 マスターはそりゃ何よりだと応じつつ、次の話題をを切り出した。

 「川向こうの町がなんだかきな臭いな」

 「きな臭いって・・・・・・?」

 マスターは悠長だなと少しあきれながら続ける。

 「ラウルとかいう町長がずいぶんと町民を焚きつけてるみたいだからさ」

 ミーロはややとぼけた調子で

 「しょうがいないかもね。いつも俺たちの町が電気をとめちゃうんだから」

 ミーロはやや同情するような顔をみせた。そしてまたとぼけたような顔で麦酒を飲み続けた。 

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