第10話 プレゼント
三人が作業に没頭し始めてから数時間後のこと。
「……できたー!」
と、フランチェスカが声をあげた。
「お疲れ様。何作ってたの?」
と、ナターシャがキッチンからマグカップを二つ持ってきて彼女に渡す。それには、砂糖入りのホットミルクが入っている。どうやら、ナターシャはレシピをすでに書き終えているようだった。
「ありがとう。実はね、ミサンガを作ってたんだ」
フランチェスカは、ナターシャからマグカップを受け取るとはにかみながら言った。
そんな彼女の前には、三本のミサンガがある。白、黄色、オレンジの三色が斜めに配色されたとてもきれいなものだ。
「みさんが……?」
と、ナターシャがいすに座りながら復唱する。どうやら聞き覚えのない言葉らしい。
「えっと……お守りみたいなものかな。これを編む時に、叶えたい願いを込めて編むの。それで、手首とか足首に巻いて使うんだけど、これが自然に切れたら願いが叶うって言われてるんだ」
フランチェスカが説明すると、
「それ、すっごい素敵!」
と、ナターシャは瞳を輝かせる。
「でしょ! それでね、二人にはお世話になったし、何かプレゼントしたいなって思って……」
フランチェスカがそう言うと、ナターシャはラビーニャを呼んでくると言ってリビングを出ていった。
しばらくして、ナターシャがラビーニャを連れて戻ってきた。
「ないしょにしてたものは、できあがったのかな?」
テーブルにつくなり、ラビーニャはフランチェスカにたずねた。
「うん。実は、これを作ってたんだ」
と、フランチェスカがミサンガを見せる。
「わあ、きれいだ……」
思わずつぶやくラビーニャ。
彼女の言葉に、フランチェスカは照れたような笑みを浮かべる。
「それ、ミサンガっていうんだって」
言いながら、ナターシャがラビーニャの分のマグカップをキッチンから持ってくる。
ラビーニャはそれを受け取ると、
「ミサンガか……。たしか、願い事をする時に身につけるもの、だったっけ?」
「うん、そうだよ。よく知ってるね」
フランチェスカは、感心したように言った。
「昔、文献で読んだことがあってね。でも、見るのは初めてだよ」
ホットミルクを飲みながら、ラビーニャは興味深そうにミサンガを見つめる。
「それでね。実は、これを二人にプレゼントしようと思って」
フランチェスカが言うと、ラビーニャは驚いたように声をあげた。
「いいのかい?」
「もちろん! そのために作ったんだから」
そう言うと、フランチェスカは二人に左手を出してほしいと告げる。
二人が素直に左手をテーブルの上に出すと、フランチェスカは彼女達の手首にミサンガを結んだ。二人は満面の笑みで礼を言うと、感慨深そうにミサンガを見つめた。
「あれ? そういえば、一本余ってるけどそれは?」
と、ナターシャがフランチェスカの前にあるミサンガに気づいてたずねる。
「これは、その……」
恥ずかしそうに言いよどむフランチェスカ。
「それは、君の分なんじゃないかな?」
ラビーニャが確認すると、フランチェスカはうなずいた。
「これ、私達三人がずっと友達でいられるようにって願いを込めて作ったんだ」
だから自分の分もあるのだと、照れながら告げる。
「それ、ぼくがつけてあげる」
ラビーニャはそう言うと、ミサンガをフランチェスカから受け取り、彼女の左手首に結んだ。
「はい。これで、ぼく達はずっと友達だ」
「でもさ、これって願いが叶うと切れちゃうんでしょう?」
ナターシャが不安そうにたずねる。
それならと、ラビーニャは自分の左手をテーブルの中央に向けて出すと、二人にも左手を出すように言った。
ラビーニャがやりたいことがなんとなくわかったナターシャは、素直に左手をテーブルの上に出す。フランチェスカは、何が何やらわからないまま、おずおずと左手をテーブルの中央に向けて出した。
「それじゃあ、いくよ」
ラビーニャはそう言って、右手をそれらの上にかざす。神経を集中すると、彼女の手のひらが青白く光りだした。
「
と、ラビーニャが静かに唱えると、青白い光はドーナツ型となって手のひらから離れ、三人の左手首の上にふわりと落ちる。そのまま、ミサンガに溶け込むようにゆっくりと消えていった。
「今のは……?」
戸惑いながらフランチェスカがたずねると、
「今のは、時を止める魔法だよ。これで、ミサンガが切れることはなくなったってわけさ」
と、ラビーニャがウインクをして告げた。
「やったー!」
フランチェスカが言葉を紡ぐ前に、ナターシャが喜びの声をあげる。
「まったく、ナターシャが真っ先に喜ぶとはね」
ラビーニャが少し呆れながら言うと、
「だって、せっかくフランチェスカにもらったんだもん。大切にしたいじゃん」
と、にこやかに言うナターシャ。
「ナターシャ……」
フランチェスカが、うれしさのあまり声を詰まらせると、
「そうだ! あたしもフランチェスカにプレゼントがあったんだ。はい、これ」
と、ナターシャが思い出したように言って、テーブルの上にあるきれいに折りたたまれた便せんを差し出した。
それを受け取ったフランチェスカは、昨日の彼女とのやり取りを思い出す。
「これって……!」
「そう、昨日言ってたやつ。フルーツタルトとコンポートとベリーソースのレシピを書いたから、あとで作ってみて。材料は、フランチェスカの世界でも手に入るはずだから」
「ありがとう! 帰ったら、早速作ってみるよ!」
そう言って、フランチェスカはそれを服のポケットにしまった。
「それじゃあ、次はぼくの番だね」
そんなラビーニャの言葉に、フランチェスカとナターシャは彼女に視線を向ける。
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