第8話 星見の妖精

 目当ての果物を購入した三人は、ルヒードに見つかることなく商店街を歩いていた。


「あ! ごめん、雑貨屋さんに寄っていい?」


 思い出したように、フランチェスカが声をあげる。


 もちろん二人に反対する理由はなく、噴水広場に行く前に入った雑貨屋に立ち寄った。店に入ると、三人はそれぞれ店内を見て回る。


 フランチェスカは、手芸コーナーに向かうと目的の商品を探す。


(えっと……あった、あった! 三色くらいがいいけど、何色にしよう?)


 フランチェスカが探していたのは、刺しゅう糸だった。ナターシャとラビーニャにミサンガを作って贈ろうと思い立ったのである。


「白は絶対入れるとして……」


 つぶやきながら、頭の中にイメージした画像に色をのせていく。


 かわいらしい色の組み合わせになるようにと、違う色の刺しゅう糸を手にとってはもとに戻すをくり返す。


 ああでもないこうでもないと悩みながら、色を吟味すること約十分。ようやくフランチェスカは、白の他に黄色とオレンジの刺しゅう糸を購入することに決めた。


 レジに向かおうと手芸コーナーを出ると、


「――あ! いたいた。フランチェスカ、欲しいものはあった?」


 と、ナターシャとラビーニャがやってきた。二人も、それぞれ気に入った雑貨を手にしている。


「うん! あ、でも……お金ないや」


 そう言って、フランチェスカは肩を落とす。


「ぼくが出すよ」


 ラビーニャが言うと、


「でも……」


 と、フランチェスカがためらう。


「大丈夫。こう見えてもぼく、高給取りだから」


 そう言って、ラビーニャはフランチェスカから半ば強引に商品を受け取る。


「じゃあ、あたしのもお願い」


 ナターシャが甘えるように言うと、ラビーニャは苦笑しながら、


「わかったよ。じゃあ、店の前で待ってて」


 と、ナターシャから雑貨を受け取り、レジに向かった。


 ナターシャとフランチェスカは、一旦店の外に出て待つことにした。


「……ねえ、ナターシャ。ラビーニャが言ってた『高給取り』ってどういうこと?」


 フランチェスカは、先ほど聞いた言葉をナターシャにたずねる。言葉の意味はわかるが、なぜそれをラビーニャが口にしたのかがわからなかったのだ。


「ああ、それね。ラビーニャ、一応お偉いさんなのよ」


 笑顔でそう答えるナターシャ。


「お偉いさん?」


「うん。『星見ほしみの妖精』って言ってね、星の位置で吉凶を占う仕事をしてるんだって」


 ラビーニャの家は仕事場も兼ねているそうで、主に二階がその仕事場らしい。


「なるほど……?」


(占い師みたいなもんかな……?)


 フランチェスカとナターシャがそんな話をしていると、


「お待たせ」


 と、支払いを済ませたラビーニャが戻ってきた。


「お帰り〜。じゃあ、帰ろっか」


 ナターシャの一言に、フランチェスカとラビーニャはうなずいて帰路についた。


    ◆


 何事もなく帰宅した三人。


 ナターシャは早速、美味しい食事を作るべく購入した食材を持ってキッチンに向かう。


 フランチェスカとラビーニャは、リビングで待つことにした。


「はい、これ」


 ラビーニャは、刺しゅう糸をフランチェスカに手渡す。


「ありがとう。……ごめんね、買ってもらっちゃって」


 と、フランチェスカが申し訳なさそうに告げる。


「気にしないでくれ。ぼくが、好きでしたことだから。それにしても、刺しゅう糸なんて何に使うんだい?」


「まだ、ないしょ」


 ラビーニャの問いに、フランチェスカはいたずらっ子のような笑顔を向ける。


「それは残念。でも、『まだ』ってことは、そのうち教えてくれるってことだよね?」


「もちろん! それにしても、警ら隊の人と対等に話せるなんて、ラビーニャってすごいよね」


 街でのことを思い出しながら、フランチェスカは素直に言った。


 自分には、到底まねできないと思った。まねしようとしても、先ほどのラビーニャのように堂々としていられる自信がない。それほど、ルヒードというあの警ら隊からの威圧感がすごかった。


「一応、ルヒードよりぼくの方が役職が上だからね」


 ラビーニャが穏やかに答える。


「えっと、『星見の妖精』……だっけ?」


「うん、そうなんだ。よく知ってるね?」


 少し驚いたような彼女に、フランチェスカは雑貨屋前でのことを話した。


「なるほど、ナターシャから聞いたのか。じゃあ、どんな仕事してるのかっていうのも聞いた?」


「たしか、星の位置で吉凶を占う仕事だって聞いたけど……」


 思い出しながら告げるフランチェスカに、ラビーニャはうなずいた。


「星の位置とか動きで、運気のいい日とか悪い日なんかを占うんだ。で、その結果を王様に伝えて、政治に反映してもらう……そんな仕事だよ。一言で言うと、この国の専属占い師みたいなものかな」


 ラビーニャがそう説明すると、フランチェスカは瞳を輝かせて、


「すごい! 王様と知り合いだなんて、ラビーニャすごいよ!」


 と、興奮しながら言った。


 庶民であるフランチェスカには、国王と知り合う機会もきっかけもない。彼女自身、国王は自分とは住む世界が違う人という認識を持っている。そのため、『友達が国王と知り合い』という事実は、彼女にとって『すごいこと』なのである。


「とは言っても、実際に会ったのはこの仕事の就任あいさつの時だけなんだけどね」


 すごいと言われてもと、ラビーニャは苦笑する。


「わかってないな〜、ラビーニャは。王様に一目会うだけでも、めちゃくちゃすごいことなんだから」


 そう言いながら、ナターシャが皿を運んできた。どうやら、料理が終わったらしい。

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