第6話 果物づくしと観光と

「おっまったせー!」


 と、声を弾ませながら、ナターシャがキッチンから戻ってきた。料理が盛られた皿を二皿、手にしている。


 彼女は、リビングとキッチンを鼻歌交じりに何往復かして、すべての料理をテーブルの上に所狭しと並べた。その種類はというと、メインであるパンケーキのベリーソースがけの他、りんごのコンポートやフルーツサラダ、みかんゼリーに新鮮なジュースまである。


「わあ、すごい……!」


 と、目の前を彩る色鮮やかな料理達にフランチェスカが驚きの声をあげる。


「今日はまた、一段と気合入ってるね」


 ラビーニャも、テーブルを敷き詰める数多くの料理に素直な感想を言った。


「だって、あたし達にとって初めての人間の友達だよ? 美味しいもの、いっぱい食べてもらいたいじゃん!」


 ナターシャはそう言って、ラビーニャの隣に座る。


「たしかにそうだね」


 と、ラビーニャはうなずいて、早速食べようとうながした。


 三人は同時にいただきますと言って、各々好きなものに手を伸ばす。


 フランチェスカは、パンケーキを一口食べた。ふわふわの食感に感激していると、パンケーキ自体の甘さとベリーソースの甘酸っぱさが口の中に広がる。飲み込む瞬間に、バターのほのかな香りが鼻に抜けた。


「〜〜〜〜っ!! おいひぃ〜〜!」


 フランチェスカはそう言って、左手をほほに添える。その表情は、とろけそうなほどに緩んでいた。


「えへへ、腕をふるったかいがあったよ。こっちのコンポートとかサラダも美味しいから、食べてみて」


 穏やかな笑みを浮かべながら、ナターシャが告げる。


 フランチェスカはうなずくと、りんごのコンポートに手を伸ばした。


 りんごを一切れ取り、一口かじる。その瞬間、シナモンの香りが鼻に抜けた。咀嚼そしゃくすると、りんごの優しい甘みが口の中いっぱいに広がる。シャクシャクとした歯ざわりも楽しい。


「うん! こっちも美味しい!」


 フランチェスカは、満面の笑みで感想を告げる。


「よかった。口にあわなかったらどうしようって、ちょっとドキドキしてたんだ」


 と、ナターシャは安心したように言って、白ぶどうのジュースでのどをうるおす。


「そんなこと……! どれもめちゃくちゃ美味しいよ。毎日でも食べたいくらい」


「えへへ、ありがとう」


 フランチェスカの素直な賛辞に、ナターシャは照れながらも礼を言う。


「でも、どうして果物が多いの?」


 フランチェスカが、料理を見回してたずねた。


 たしかに、食卓を彩るそれはパンケーキ以外ほぼ果物である。食事のメニューといえば肉や魚や野菜の料理、それにパンとスープというラインナップだろう。フランチェスカが、ほぼ果物で構成された料理に疑問を持つのも無理もない。


「ぼく達妖精にとって、果物は主食なんだ。君達人間にとってのパンや麺類と同じようにね」


 それまで黙々と食事をしていたラビーニャが答える。


 なるほどと納得したフランチェスカは、


「でも、うらやましいな」


 と、パンケーキを切り分けながら言った。


 ナターシャとラビーニャが首をかしげると、


「だって、こんなに美味しい果物料理を毎日食べられるんだもん」


 そう言って、フランチェスカはパンケーキを口に運んだ。


「そんなに気に入ってくれたんだ、うれしいな! じゃあさ、ここにいる間はあたしの料理を心ゆくまで堪能してよ。いっぱい作るから!」


 満面の笑みでナターシャが告げると、フランチェスカは大きくうなずいた。


「食べ切れる分にしてくれよ?」


 と、おどけたようにラビーニャが言うと、


「わかってるって」


 まかせろとばかりに、ナターシャはウインクをする。


 料理を堪能しつつ他愛もない話に花を咲かせながら、三人の楽しい夜はふけていった。


     ◆ 


 翌日、三人は食事も早々に、街へとでかけた。次の満月の夜までまだ時間があるので、観光がてらフランチェスカを街に案内しようということになったのだ。


 ラビーニャの家から街までは、徒歩で三十分ほどかかる。だが、三人で話しながら進んでいると、その距離も時間もまったく気にならなかった。話に花を咲かせていると、あっという間に街に到着した。


 色とりどりのかわいらしい住宅が、三人を出迎える。それを横目に街の中へと進んでいくと、次第に商店の数が増えてきた。果物専門店やアイスクリーム屋、洋服店などが軒を連ねている。


 商店街に入ると、人通りも増えて活気に満ちあふれていた。


 三人は、洋服店や雑貨屋などでウィンドーショッピングを楽しんだあと、アイスクリーム屋に入った。


 それぞれ好きなアイスクリームを注文して、窓際の席に座る。窓の外を行き交う人々を見ながら、ゆっくりとアイスクリームを味わう。甘く冷たいそれは、三人の心と体に染みわたり疲れを癒していった。


「……ねえ、このあとどこ行く?」


 フランチェスカが、ねだるように二人にたずねる。


「商店街は一通り見て回ったから……噴水広場にでも行ってみる?」


 ラビーニャが提案すると、フランチェスカは瞳をきらきらと輝かせて大きくうなずいた。


 そうと決まればと、三人はアイスクリームを一気に食べると噴水広場へと向かった。


 噴水広場は、街のほぼ中央に位置する。大きな噴水を中心に、整備された公園が広がっている。噴水周辺は石畳が敷かれているが、それ以外の場所にはコルクの板が敷かれていて踏みしめる感触が楽しい。緑が多く複数のベンチが設置されているので、住民の憩いの場になっている。


 広場に到着した三人が、噴水を間近で見ようと近づいた時だった。


「そこの三人、止まりなさい」


 背後から男の声が聞こえた。

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