第4話 質問タイム
「ふふふっ」
二人のやり取りを見て、フランチェスは思わず笑ってしまった。
ナターシャとラビーニャは、ほぼ同時にフランチェスカを見る。
「あ、ごめん。二人のやり取りが微笑ましかったから、つい……。二人とも、仲いいんだね」
「まあね。今まで、ケンカなんてしたことなかったんじゃないかな?」
ナターシャがそう言う一方、ラビーニャは肩をすくめて、
「初めの頃は、ぼくが一方的に怒ってたんだけど、ナターシャがこんな感じでしょ? 途中から諦めたよね」
と、過去を思い返すように遠くを見ながらそう告げた。
フランチェスカは、何と返せばいいかわからず苦笑するしかなかった。
「ねえねえ、フランチェスカのことも教えてよ。そうすれば、もとの世界への帰り方もわかるかも」
ナターシャが興味津々にたずねると、
「それじゃあ、リビングでお茶でも飲みながらどうかな?」
と、ラビーニャが提案する。
フランチェスカとナターシャがうなずくのを確認すると、ラビーニャは二人を連れて一階へと向かった。
◆
リビングにつくと、ラビーニャは二人に座っていてと告げてキッチンに行った。
ナターシャにうながされて、フランチェスカはテーブルにつく。
「ねえ、フランチェスカって、苦手な果物ある?」
「あんまりないけど……あ、でも酸っぱいものは苦手かも」
「そっか、酸っぱいものはだめ、と」
そう言いながら、ナターシャはメモを取るふりをする。
フランチェスカは、なぜ苦手な果物を聞かれたのかわからなかった。
理由をたずねようとした瞬間、
「お待たせ」
と、キッチンから戻ってきたラビーニャに阻まれてしまった。
(……まあ、そのうち聞けるか)
そう思い直して、彼女に視線を向けた。
彼女は、三人分のティーカップが乗った盆を手にしていた。
「お茶菓子はないんだ、ごめんね」
そう言いながら、ラビーニャはカップを配膳して、フランチェスカの向かいに座った。ちなみに、ナターシャはラビーニャの右隣に座っている。
「さて、何から聞こうかな」
軽い口調でつぶやいて、カップに口をつけるラビーニャ。
その姿に、フランチェスカはなぜか緊張してしまった。
「そう身構えないでくれ。尋問したいわけじゃないんだ」
フランチェスカの緊張を察したのか、ラビーニャはそう言って苦笑する。
「ごめん。なんか緊張しちゃって……」
と、フランチェスカはカップを手に取る。中身は、色鮮やかな紅茶だった。一口飲むと、ほのかにはちみつの甘みと香りが口内に広がる。
「美味しい……」
思わずつぶやくと、視界の端でラビーニャが安堵したような表情を浮かべていた。
「はいはい! しっつもーん! フランチェスカは、どこからきたんですか?」
ナターシャが、子どものように明るくたずねる。
その無邪気さが、気まずくなりつつあった空気を完全に消し去ってくれた。
「えっと、こことは違う世界からきました」
フランチェスカが答える。
(インタビューをされる人って、こんな感じなのかな)
ふとそんなことを思い、フランチェスカは少しわくわくしている自分に気がついた。
「どんな方法で、ここにきたんですか?」
ラビーニャもナターシャにならって、インタビュアーのように問う。
「おばあちゃんにもらったこのペンダントを月明かりにかざしたら、台座の宝石が光だして、気がついたら森の中にいました」
そう答えて、フランチェスカはペンダントの砂時計を二人に見せるように持ち上げた。
「それは――!?」
ラビーニャが、弾かれたように立ち上がり身を
突然のことに、フランチェスカはもちろん、ナターシャまでも驚きの表情を浮かべてラビーニャを見ている。
「……フランチェスカ。悪いんだけど、それをよく見せてもらってもいいかな?」
興奮を抑えるように深呼吸をすると、ラビーニャはフランチェスカにたずねた。
「……うん、いいよ」
戸惑いながらもそう言うと、フランチェスカはペンダントをはずしてラビーニャに渡す。
礼を言うと、ラビーニャはそれを受け取ってまじまじと見つめた。
「琥珀色の砂……。それにこの宝石……、まちがいない。まさか、本物を見ることができるなんて……」
と、つぶやきながらラビーニャは、手のひらに乗せた砂時計にくぎづけになっている。
「ねえ、ラビーニャ。浸ってるとこ悪いんだけどさ、それが何なのか教えてもらえない?」
ナターシャが一人で納得するなとばかりに言った。
「あ、ごめん。この砂時計は、月雫の砂時計と呼ばれるものなんだ」
ラビーニャは嬉々とした表情で答えながら、それをフランチェスカに返した。
「え!? 月雫の砂時計って、あの――?」
驚いた声をあげるナターシャに、ラビーニャはうなずく。
一人、蚊帳の外のフランチェスカは、何のことかわからず首を捻るしかなかった。
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