第5話 黒。そして神の刺客

ヨル=ハレイン。


その名にフォードは聞き覚えがあった。

けれど思い出せない。


「マーリン、そろそろ夕ご飯にするかのぉ」


「うん!」


今日の夕ご飯は森のキノコと野ウサギのシチュー。


その名は[全知の書]で読んだことがある。そんな気がした。


「たしか蔵にあったはずじゃ……」


「ん?どうしたのじいちゃん」


「あ、いいや、なんでもないんじゃ。ちと蔵に探し物をしてくる。ゆっくり食べていてくれるかの」


「うん、わかった」


フォードは蔵に書物を探しに行った。



■■■



神界──ヴァルハラ。


神王キングに仕える神、オーディン。


彼はゼウスの右腕的存在であり、信頼を置かれていた。

彼にはゼウスに報告せねばならないことがあった。

時間に住み、その調和、そして人界の監視を任せられた神──クロノスから先程知らせを受けた。


「王、」


そこには偉大なる神が。


「報告があります」


「なんだ……」


威厳ある声。体が痺れるようだ。


キリス悪魔デモスの間に子が生まれていました。」


「ほう、それで?」


ぶるっ。


「その家族は人間界の王都騎士に発見され、規則どうり殺されました。しかし、子は逃げたようです。しかもその子どもはかつて叛逆を起こした、イコルの魂を封印しています」


神は笑う。

ぶるるっ。


「ふははは!!面白い!面白いではないか!!名はなんという?」


「ヨルエ=マーリンと」


高らかに


「我らの予想どうり、人と悪魔は惹かれ合うか。ルールをも破り、愛を育むか!」


ふはははは、再び笑う。

ぶるっ。


「どう……致しますか?」


「試練を与える。カーリーを向かわせろ。その混血の元に」


「どうするおつもりで」


「言葉どうり試練だ。我らが待ちに待ちわびた混血がやっと生まれたのだ。カーリー程度で死ぬのであれば我らが望むものでは無い。つまらん」


「し、しかしそれは!!」


「よい!向かわせろ……」


ぶるるっ。


「承知致しました……」


カーリー。彼女は黒に住む神だ。血と殺戮を好み、欲す。彼女は常に渇望している。飢えている。


カーリーの元へオーディンは向かう。


「カーリー、」


「あら、なにかしら?」


そこには美しい女神がいた。

抜けるように白い肌、

整う輪郭、

大きな目、

高い鼻、

桃色の唇、

細い首、

さらりとした闇よりも黒く、しかし艶のある髪、

紫の薄い服から覗くその乳房、

すらりと長く細い手脚、

彼女の全てがあらゆる者全てを欲情させ──


殺す。



彼女はにこりと笑う。


「王からの命令だ。人界へ堕ちろ。今すぐにだ」


「あら、王の命令?なんでかしら?それと報酬は?」


「お前にはある者を。それがお前への命令と報酬だ」


ふふふ、と笑い、


「それで、どんなやつなのそれ?」


美しく響く声。


「人と悪魔の混血だ」


ふうん、


「面白いじゃない。すぐに殺るわ」


それで、と、続ける


「なんだ」


「その子、可愛い子なの?」


「知るか」


「やだぁ、冷たぁい、まあいいわ」


笑い、そして、カーリーは堕ちた。



■■■



神の王は呟く。


「死ぬなよ、混血。我を失望させるな」


その顔は深く歪んでいた。



■■■



フォードは蔵で書物を探していた。


「お、これじゃこれじゃ」


ほこりを被った1冊の本を取りだした。


──全知の書。この本は世界の全てを自動で記録し、示す。この本はこの世界に1つだけ存在する。

仕組みは根源との世界接続。つまり、神界との空間接続だ。時の神、クロノスが世界を見渡すために使用する神結晶。神結晶は世界の全てを見渡し、記録する。それとこの本が空間接続されているのだ。


この本はもともとフォードが住む前にこの蔵にあったもので、どうして作られたのかは知れず、その本の仕組みさえフォードは理解できていない。


本を開き、魔界のページを開く。


ヨル=ハレイン……


文書にはこう書かれていた。


“世界で初めて悪魔を神が封印した。“


神を封印した悪魔……


“その神は血に住む。詳しいことは不明。“


どくん。

心臓が強くなった。


“名はイコル。“

“封印した悪魔の名は──“


「ヨル=ハレイン……じゃと……」


どくんどくん。

更に強く。

焦り。


その文書には続きが書かれていた。

“イコルは神界で叛逆を起こした大罪神である。“


焦燥。

不安。

悲哀。

憤慨。

あらゆる負の感情が体の底から溢れ出る。


“そしてその魂を封印する悪魔に子ができたら、その子は──“


“神の手によって。“


「ころ、される……」


マーリンが危ない……!!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る