第4話 叛逆、その始まり

どぉん!!


フォードの足下の地面が凹む。


膝が曲がる。


腕の骨に圧がかかる。


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


2人の同じ叫び。


腕を顔の前で交差させた老人と、その上からそれを殴る少年がいた。


「だめかっ」


少年──マーリンは、すぐに押し切れないことを察した。

先程まで右の拳で殴り押していたフォードの腕に足をつけ、


「はっ」


大きく後方に飛んだ。


着地。


「マーリン、頭を使ったものじゃのお。もう少し早ければわしも防げんかった」


「やっぱりじいちゃんは強いや!」


「そろそろ日が暮れる。夕飯はなににするかのぉ……」



۞۞۞



昔、神がいた。血を操り、魂を喰らう神。


彼は神であるが、神の存在を反対していた。つまりそれは、自分の存在を否定している。


神そのものを悪とし、人と悪魔を善と見る。


だから彼は


それは無謀なことであり、結果は失敗に終わる。


しかし、彼の叛逆の過程と、失敗に終わったことこそが後に神を滅ぼすこととなる。


神は1柱ずつ、それぞれの操るもの、つまり、住み着くものが違う。


神とはつまり、根源だ。もともとのオリジナルであり、全てを持つ。だからこそ人と悪魔は神に抗えず、すがり、崇める。


エネルギーの源である、根源を殺せば、その神が住み着くものの概念がこの世から存在を消し、歴史という渦に忘れ去られる。


彼の場合は血を操り、血に住み着く。そしてそこから派生した魂を喰らうという能力。


そして彼の叛逆を終わらせた神。名を──


ゼウス。


存在するモノ全て根源を操り、全知全能に住み着く。また、神の王である。


血の神は殺され、その魂だけが世界に堕とされた。



۞۞۞



「マーリン、お前の左目、魔眼は何が起こるかわからん。危険じゃ。不用意に左目に魔力を流したらだめじゃぞ」


「うん、わかった」


一言で言ってしまえば、マーリンには魔法そのものの素質がない。


先程の試合でつかった魔法を含め、3ヶ月間で習得した魔法はまだ5つだけ。


他の子なら20は超えているだろうな。


普通の子どもの魔法適正値が100だとすれば、マーリンは30ほど。しかし、3個の魂を保持する故か、魔力量は莫大だ。王都の魔道士を余裕で凌駕している。もしかしたらわしをも超えているやもしれん。


しかし神の魂は固く閉ざされている。その門をどうするか。

わしには干渉できん。彼次第だ。


そこで、思ったことがある。


「そうじゃ──」



۞۞۞



その神の魂は人界ではなく、魔界に堕ちた。


広大な森に。


そして魂がそ場に留まってから1658年。誰も訪れなかった。


しかし、ある悪魔がその場を訪れた。


「なんだ、ここだけ空間魔力マナが多い」


その悪魔はすぐにその魔力を放出するに気がついた。


「なんだこりゃ、魂か。しかしこんな大量の魔力を出す魂なんて只者じゃねえな」


神か。

しかし神の魂なんて聞いたことも見たことも無い。


「悪魔よ、」


魂が悪魔に語りかける。


「うお!?」


おどかすなよ、と、体制を立て直す。


「お前は神をどう考える」


はあ?と悪魔。そして笑って


「俺は神が大嫌いだ」


「……何故だ」


問う。


「奴らは自分たちで勝手に俺たち悪魔という存在を作り、その逆に位置する。人間ヒトを創った」


それでよ、と、少しためる。


「自分たちで好き勝手に神は規則ルールをつくり、同じ世界に存在する悪魔と人間を結ばせない!」


「…………」


「これは生物に対する冒涜だ!悪魔にだって人間と結ばれたい、交友を深めたいと思っている者もいるはずだ!人間だってきっと同じだ!!それをわかっていてお前ら神はルールを創った!!そうだろう!?」


「そうか……お前は神を殺したいか?」


ああ──


「──是非とも殺したいね。」


その言葉に神は笑った。そんな気がした。


「ならば、」


「私と契約しろ」


「なっ……あ、あんたもその魂からして神だろう?なぜ……」


「私もお前と同じく神が嫌いだ。だから叛逆した。しかしそれは失敗に終わった。だが、お前という者に出会えた。つまりこの叛逆劇は失敗ではない」


「どういうことだ……」


意味がわからない。


「お前のカラダに私の魂を封印しろ。お前に私のチカラを託す。お前は私の神という根源の力をいつでも使える。力を欲せ、悪魔よ」


「そうか……」


考える。しかし、考える必要は無い、そう思った。


おっしゃ!と、体に力を入れる。


「契約、するぜ!」


世界が創造されてから初めて、神と悪魔が契約を果たし、神の魂を封印する者が誕生した。


神の名を、イコル。


そしてその悪魔の名を──



۞۞۞



「そうじゃ、マーリン、お前の父親の悪魔の名前はなんと言う?」


え?父さんの名前?そう思った。けれど、自分のことのように自信ありげに、こう名を明かした。


「俺の父さんの名前は──」



۞۞۞



その悪魔の父さんの名は──


ヨル=ハレイン。


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