前のエピソード――第137話　未帰還とは

　どうやら精霊というのは、宿っている場所から無理やり引き剥がされてしまうと、現世で宿る場所との絆が消えてしまい、暫くすると現世から精霊の本来住まう世界へと戻ってしまうようだ。

　絆じゃなく魔力だっけ？

　以前ヤーナからそれとなく聞いていたが、もう少し簡潔な説明だった気もするが忘れた。

　ヤーナが召喚した精霊達は、その存在を維持する為に術者の魔力が、つまりヤーナの魔力がいる。

　但しこれには抜け道があって、精霊が宿る場所に、精霊が魔力を引き出せる仕組みを用意しておけば、その魔力が尽きるまで精霊は顕在化ができる。

　確かこんな話だったな。

　注：99話、121話、他参照。

　だから炉や竈に、魔石をセットできる仕組みを用意してあったんだ。

　精霊が気に入れば、ずっとその場所で活動をする。

　今回被害に遭った精霊は、主に火の属性。

　温泉複合施設には水の精霊もいたんだが、建物が吹き飛んでしまったから、その時に一緒に消えたんだな。

　ヤーナが精霊の存在を感じられないと・・・・あれ？他の精霊の存在も感じられないんだよな？

　つまりこの魔道具、可也の損害を工房や拠点にもたらしてくれたんだな！なんて事を！

　改めて怒りが湧いてくる。

「おいクーン、そろそろいいか？」

　国王が何か言ってきたが、俺はどうにかなっていたらしい。

　我を忘れてしまったようだ。

「先ほども言ったが、この魔道具本来の機能は【精霊を召喚する時に術者の負担を和らげる為のもの】だ。これを逆手に取れば、元の世界へ戻った精霊達を、再びこちらに招き入れる事も可能だという調査結果が出ている。だがそれには精霊が宿る場所を用意しないといけない、違うか？」

　これ、俺ではなくヤーナに言っているのだろうな。

　ヤーナも、国王が言わんとする事に気が付いたのか、

「クーン！今すぐ拠点を復興させなさい！復興何て生ぬるいわ！以前の倍よ倍！」

　ヤーナが暴走してしまった。だがこのまま復興させても意味がないんだよな。また同じ事をやられたらたまったもんじゃない。今回は人的被害が無かったからいいようなものだが、もし死傷者がいれば・・・・

「ヤーナ、その前にやらなくちゃいけない事がある。」

「な、何よ？」

「事を起こした女は捕まえた・・・・あれ？捕まえたんだよな？」

　俺はヤーナから国王へと質問を振った。

「その通りだ。魔法やスキルを使えぬ状態にして拘束している。」

「そうだったんだな。うーん・・・・ヤーナ、実行犯は捕まった。だが実行犯を裏から操っていた、恐らくは魔族だと思うが、そいつを見つけないとまた同じ事が起こるかもしれん。」

「そ、そうね。でもそれは国王陛下が何とかして下さるのではありませんか？」

「それに関しては任せるがよい。魔族の侵入を許してしまうとは情けない限りだが、国の威信をかけて必ずこの件を解決させる。そういう訳でクーンよ、暫くは拠点の復興と、そしてこれは既に多数の職人を向かわせているのだが、元クツーゴ・リーバクーヨ・ギーコアの3領の開発を許可する。既に温泉があると聞いている。楽しみだ！」

　あれ？今なんかとんでもない事をサラッと言った気がするんだが。

　これが後の世で歴史に名を成す事になる、新領地開発計画の始まりだった。

　いや、既に開発計画という段階をすっ飛ばしている気がするのだが。

　これ、開発が成功したとして、誰が領地を治めるんだ？俺じゃないよな？