第130話 フロリーナが遅れてやってきた

 マースがやってきた翌日、フロリーナがセバスチャンを伴いやってきた。


 とても慌てているがどうしたんだ?


 わんこフェンリルの地脈を使いやって来たらしく、フロリーナとセバスチャン以外はいない。


 ヤーナがフロリーナに、

「そんなに慌ててどうしたの?」

 すると・・・・

「温泉複合施設【以一当千】の主要部分がこ、壊されたの!」

「壊されたってどんな風に?」

 この時俺は軽く考えていた。

 何か施設の一部が壊されたとか、白磁器が誰かに壊されたとか、そんな程度かと。


 しかし次の発言で俺は我を失った。


「クーン工房の炉を中心に、つまり白磁器を製作する過程で使用する炉、あれを魔道具を用い精霊を暴走させて、周囲を吹き飛ばしたの!」


「ちょっと待て!炉が吹き飛んだって、あの炉はかなりの高温に耐えられるよう、可也強固な造りになっているんだぞ!それが吹き飛んだって?そんなバカな!周囲は?あれが吹き飛んだとなれば誰か近くに居れば巻き添えになるぞ!」


 俺がこうなる事は想定内なのか、俺が取り乱したのとは対照的に、フロリーナは落ち着いていた。


「幸いな事にあの炉にはクーン様とヤーナ以外は殆ど近寄らない上に、いったん白磁器の製造は止まっていたから人的被害はなかったのよ?」


「本当か?絵付けはできるだろう?後でまとめて焼くだけなプランがあっただろう?」


「それはその、色付けの薬が切れてしまって、一度お客様には待ってもらっているみたいなのですわ。近いうちに報告が来ると思いますが、私はほら、従魔でやってきましたので・・・・」


「クーン、落ち着いて?」

 俺はヤーナがそう言って俺に触れてきたが、それを俺は跳ねのけた。

「これが落ち着けるか?どういう事だ!魔道具?魔道具で精霊がどうにかなるのか?」


 何でこうなったんだ?


「あ、あのクーンさま?落ち着きましょう?」

「何を暢気な事を言っているんだ!い、今すぐ向かわなければ!今すぐ・・・・く、苦しい・・・・息が・・・・」


 何で目の前が急に真っ暗になるんだ?それに息ができん!

 俺は何やら思いっきり頭をぶつけた気がしたが、身体が動かん!

 それに苦しくてどうでもよくな・・・・


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 何かが聞こえる。

 ヤーナとフロリーナか?


 何だか考えるのが面倒だ。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 俺はいつの間に寝ていたんだ?

 気が付いた時にはベッドで寝ていたんだが、これいかに。


「クーン気が付いた?」

 ヤーナが近くに居る。

 何故か俺は不安になった。ヤーナが優しく手を握ってくれる。


「何で俺はこんな所で寝ていたんだ?」


 記憶にない。


「その前に起き上がる事は出来る?」

「うん?別に何ともないぞ。」

 俺はベッドから起き上がる。


「大丈夫だぞ?」


「そう、それは良かった!」


 何故かヤーナは俺を引き寄せ、自身の胸に俺の頭を押し付けてきた。

 丁度鼓動が聞こえる位置に耳が来た。

 不思議と落ち着く。俺は興奮していたのか?

 その後俺はヤーナに抱擁を解いてもらった。

 但し手は握っている。


「クーンはどうして気を失ったか覚えている?」

「いや分からん。気が付いたらベッドの上だったが、その前に何をしていたのかは・・・・思い出せん。」


「じゃあ此処は何処か分かる?」

「何言ってんだよ。ここはクランの拠点だろう?」

 見慣れたベッドだ。


「・・・・ここは元クツーゴ領よ。」

「へ?」


 どういう事だ?


 この後ヤーナが色々教えてくれたが、どうやら俺は一時的な記憶の混乱に陥っていたようだ。


 そして徐々に思い出す。


 そうだ、確かフロリーナがやってきて、何か話してくれたっけな。


 そこまで思い出して気が付いた。

 ヤーナが酷く心配そうな顔をして俺を見ているのだ。

 そんな顔で見られると酷く不安になる。


 そして思い出した。


 王都の工房、そこにある炉が爆発したと聞かされたんだった。


「ヤーナ、嘘じゃないんだよな・・・・」

「ええ、残念ながら嘘じゃないわね。」


「・・・・被害は建物や物だけ?人的被害はなかった?」

「うん、怪我をした人も、死んだ人もいなかったわ。」

「それは良かった。物はいずれ壊れるからな。壊れたら直せばいい。だが人の場合はそうはいかん。」


 一体誰が何の為にこんな事を?


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