第117話 一騎当千と大胆不敵

 一騎当千はロッベモント王国唯一のS級クラン。

 その中心は大胆不敵と言うパーティーだ。


 大胆不敵のリーダーは、クラン【一騎当千】の代表でもある。


 しかし彼は最近荒れていた。


「くそ!くそくそくそくそ!どいつもこいつも全く役に立たん!」


 彼の名は

 ヘイス・ボス


 自身もS級ランクであり、彼が率いるパーティー【大胆不敵】もS級。

 もう20代も後半であり、実はそろそろ引退を考えていた。

 何せもう上が無いのだ。

 そう、月間ランキングでも常に1位。

 パーティーに関しては、ごくまれに一山当てたパーティーに1位の座を譲る事もあるが、2カ月連続で譲った事はここ数年ない。


 そしてクラン【一騎当千】。

 ここ数年常にランキング1位。


 そんなヘイスが最後に望んでいるのは、名を残す事だ。

 この国一番の実力者となった彼だが、何故名を残したがるのか?


 本音を言えば、名を残す必要は無い。

 名を残す必要があると思ったのは、名を残せば目的が成就しやすいと考えたからだ。


 では真の狙いは?


 彼は爵位を欲している。

 それも一代限りではなく、領地を得て子に継がす事の出来る爵位だ。


 既に大胆不敵のメンバーは全員S級であり、一代限りの爵位である騎士(爵)を得ている。

 この国の身分制度で行けば平民の上になるが、純粋の貴族ではない。

 貴族と言うのは準男爵からとなるが、準男爵も騎士(爵)同様、子に引き継げない。


 このままではここで終わってしまう。

 そこで何とかして男爵以上の爵位を得たいのだが、どうしたらいいのかわからない。

 何か功績があればあるいは。


 だが最近その機会を逸してしまっており・・・・王都がドラゴンの襲撃を受けていた時、彼等はダンジョンに居たので何もできなかった。

 そしてそこで活躍をした【以一当千】と言うクランの台頭。


 クランのランキングで抜かされてしまうという、彼にとってあってはならない出来事が発生し、彼は追い込まれていた(と思い込んでしまった)。


 くそっ!ただでさえ不味い酒が、何だかいつもより不味く感じるじゃねえか!


 そんなヘイスが酒場で一人不貞腐れていると、


「ちょっと失礼、お時間はございますかな?」


 ヘイスはハッとなった。

 こんな酒場で昼間から飲んだくれているとはいえ、目の前にいる商人風の男の存在に今まで気が付かなかったからだ。


「・・・・何か用か?」

 相手はいかにも胡散臭い。

「はい、私最近事業を拡大しておりまして。」

 一体こいつは何を言っているのだ?とヘイスは警戒を強めた。

「間に合っている。」

 怪しすぎる。ヘイスは席を立ち、その場を去ろうとした。

「このままでは、以一当千に抜かれたままですなあ。」

 体がピクッとなった。

「何が言いたい。」

「いえ、特に深い意味は・・・・どうやら私の見込み違いのようですな。時間を取らせ申し訳ございませんでした。」


 俺を誰だと思っているんだ?

「おう待てや、どういう意味だ。見込み違いと言ったな。」

「これは失礼。実はわたくし、未だどこの領主とも独占契約が取れておりませんでして、こうなれば新たな領主を見い出し、新たな領地で独占契約を・・・・痛い痛い!」

 ヘイスは思わずその商人風の男の肩を掴んでいた。

「新たな領主を見い出すとは何だ?」

「はあ、ご存じない?この地より徒歩で約一ヶ月の場所にとある領地がございまして、その領地ですが隣の領地もろとも滅んでしまい、しかも3つの領地を治めておりました男爵は3人共爵位を失って御座いまして。」

「だからと言って、俺がその代わりになれるとでも思っているのか?バカバカしい。」


「そうですなあ。しかし国王陛下が滅んだ3つの領地を早く復旧させたいと思っておられるようでして、そうなると新たな男爵が3つも空いておりますから、何か大きな功績を残せば平民も男爵になれるやも、と思ったのですが。」

「ほう、だからと言って俺が男爵になれるとでも思っているのか?」

「一騎当千とその中心たる大胆不敵が、あの未だ攻略がなされていないダンジョンに何らかの進展を見せればあるいは・・・・」

「馬鹿を言え。あのダンジョンは最近我らもトライをしたが、未だ突破できぬ70層まで辿り着けなかったぞ。」

「そこは私の商人としての力で、主に物資での支援になりますが・・・・しかし同時に行わないと厳しい一面がございまして。」

「何だその、厳しいとは。」

「他のクランに何かの功績で出し抜かれては男爵の席が埋まってしまいます。」

「・・・・邪魔をしろ、と言うのか?」


 本来であればこのような言葉に引っかからないはずなのだが、この時既にヘイスは目の前の怪しげな商人風の男の術中にはまっていた。


 そう、用意周到な商人は、予めターゲットを定め、こうして酒に秘薬を仕込んで置いたのだ。



 こうしてヘイスはいつのまにか闇に落ちてしまうのだった。



《しかし【身代わり】と言うスキルは実に便利ですねえ。このスキルがある限り、いくら捕まってもこうして本体に戻る事が出来ましたしねえ。》

 この商人、マースが見たらさぞ驚いた事だろう。

 かつて80話で拘束され捕まったはずの商人だったからだ。










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