第79話 正体不明の商人

 クーン達が怪しげな連中と揉めている頃、ティーデとヒセラはクーンの気配を追っていた。


「ティーデ、本当にこっちなの?」

「何だよヒセラ、違うと言いたいの?」

「そうじゃないけれど、だって戻っているよ?」

「え?じゃあ戻ろうよ!まだテイマーのマースさんが来てないし!」

「うーん、じゃあちょっとだけよ?」


 そう言いつつ凄い速度で移動している双子のティーデとヒセラ。

 2人もクーン同様魔力の総量が膨大で、騎乗している従魔はその膨大な魔力を得、あり得ない速度で駆けている。


 そんな2人のさらに後方を、多数の人が追っているが、2人は全く気が付いていない。


 尤も従魔は気が付いているのだが、何せ相手は味方だ。放っておいてもよかろうと知らせていない。


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 そしてニールス一行


「速い!ティーデとヒセラはどうして移動しているんだ?」

 天馬をもってしても追いつけない。

 そしてニールス以外の雲外蒼天のメンバーは天馬ではなくフェンリルに騎乗している。

 天馬は障害物を無視しているので絶対的に速いが、フェンリルは建物を避けねばならず、その分遅くなってしまっていた。

【だがあの2人の移動している場所は予想が付く。恐らく門の所に戻る事になるぞ。】

「何故戻るんだ?あの2人がマースを探そうと思うほど親しいとは思えないんだが。」

【分からんが、其方の弟の気配でも追っているのではないのか?】


「そうならいいのだが。」


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 再びクーン。


 クーンはクツーゴ元男爵の元へ向かった。


「おい!あんた何でこんな所に居るんだよ!」

 クーンは相手を知っているが、残念ながらクツーゴ元男爵はクーンの事を知らなかった。


 正確には追放した子供の事は覚えていたが、それが目の前のクーンだと認識できなかったのだ。

 そう、クツーゴ元男爵は領民の顔をロクに覚えていなかったのだ。


「何だガキ!儂を知っているのか?」

「知っているも何も、あんたのせいで故郷は壊滅したって言うじゃないか!しかもあんたは死んだって聞いたのに(正確には聞いていません。領地が滅んだ、そしておそらく真っ先に殺されただろうという予測のみ。)何で元気なんだよ!」

「其方にはわからんのだよ。我ほどになれば、あのような試練、何て事は無いのだ要うはは八はひょひひ・・・・・・・・・・!」


 何だ?最後の方は何言ってるのか理解できなかったぞ。


 仕方がない、他の2人も含め拘束しておこう。放っておくとろくな事にはならなさそうだな。


 だがここで不測の事態が発生した。


【ぐわあ!】


 何とシロが拘束をしている商人風のおっちゃんが、シロの拘束を解き、反撃をしたのだ。

「ふう、この私をこうもあっさりと拘束するとは、流石はフェンリルですね。ですがここまでです。」


 すると何かを口に咥え、


『ピ―――――――――――――!』


 どうやら笛を吹いたようだが、一体何?


 するとこの商人の味方?味方というよりただの知り合いに見えるが、何と騎乗している3人のほかに、既に拘束している冒険者達が急に苦しみ始めたのだ。


 別にあいつらが死のうがどうでもいいが、ここにきて何の意味があるのだ?


「くっ!残念ですが計画を変えねばなりませんね。今回は引きますが、まあ楽しんでいって下さい。では!」


 今度は煙玉か?


 辺り一面凄い煙だ。


 だが俺には通用しないぜ!


 俺は商人風のおっちゃんに【土】が通用するかどうか怪しかったので、まず地面に穴をあけてやった。


「ぎゃああ!!!!落ちるううぅ!!!!何故だああ!!!!」

 だが何らかの手段で飛ぶかもしれない。

 俺は穴の周囲をガチガチに固め、閉じ込めた。

 勿論頭上部分もしっかり塞いだ。


 何やら声が聞こえるが無視だ。


 俺はまずフロリーナとマースの所に向かった。

「おい、しっかりしろ!」

 マースが倒れている。

 フロリーナが介抱している感じだ。

「クーンさま、マースさまは怪我をして、血を失いました。そのせいで動きが鈍いのですわ。」


 確かに服が切れている。ばっさりやられたな。


「マース、今はそれどころではないんだ!暴れている従魔を何とかしてくれ!」


 煙を吸ってから、馬のような従魔が暴れ出したのだ。

 しかも騎乗している3人を振り落として暴走している。

 その3人も変だ。

 明らかに骨が折れているのに立ち上がった!

 どうなっているんだ?


 そして天馬で追いかけていたヤーナが現れ、すぐ後ろをティーデとヒセラがフェンリルの背に乗り、こちらにやってくるのが見えた。



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