第36話 組み立て式簡易トイレと台車

「折角ですので私にも試させて下さい。」

 ドリースさんだ。

 彼も俺が作ったトイレを実際に使用してみたくなったようだ。


 彼が用を終え、男の小便だったらウォシュレットは必要ないだろうと思ったのだが、使ってみたくなったようで時折衝立の中から、


「こ、これは!」

「うわ!ズボンにかかってしまった!」

「コツさえ掴めばなるほどなるほど。」


 何やら色々試しているようだ。


 そして最終的に、

「この便座はどうやったら取り外す事が出来るのですか?」

 と、衝立から出てきたドリースさんがそんな事を言うが、今回のは急いで作ったから組み立て式じゃないんだよな。だがどうだろう、便座だけでも一旦残そうか?


 俺は自分で一から土で作る事が出来るが、そうじゃなければ持ち込むしかない。


 俺は便座の部分だけ残して後は土に戻した。


 さて、この広い草原で男女6人が便座とにらめっこをしているという、なんともシュールな展開。

 尤もセバスチャンには周囲の警戒をしてもらっている。


 幾ら安全と言われる草原とはいえ、外だからな。何らかの理由で魔物がここに突撃してくる事があっては困るからだ。


 で、便器の座面が2つあるんだが、商人ギルドの2人に一つ渡してあって、もう一つは俺とフロリーナ、ヤーナが見ている。


「これをお前達でも簡単に設置できるように改良したいんだ。何度も使った2人だ、何かアイデアを出すんだ。それとそっちの2人、あんた達まさか俺に全て丸投げって訳じゃないよな?商人ギルドの人間だったらこれの有用性が分かるはずだ。なんかアイデア出してよ。」


 この後あーだこーだと意見が出たが、駄目だこいつら。

 柔軟性がまるでない。


 仕方がない。俺が自分で何とかするしかないのか?ただ俺の場合メインは土での作成だからな。


 場合によっては商人ギルドで、別の素材を用いて加工してもらう必要もある。

 例えばこの便座の裏。

 ここに切り込み、差込口を設けて4枚の板を、いや3枚で行けるか。3枚の板を差し込み自立させ、座っても倒れない仕様にすべきか、そもそもこの便座に板をくっつけて、折り畳みにしてしまうか。


 その場合は可動させる機構が面倒だな。


 結局2つのバージョンを作る事になった。

 そして簡易ウォシュレットの事があって、板は結局4枚で、となった。


 座った時に正面の板には丸い穴が開いており、そこにウォシュレットを突っ込んで、必要に応じて動かす事が出来る仕様にしているんだ。


 日本で生活をしている時に使用していたトイレは、尻側から機構がせり出してくるんだが、それをすると電動じゃないからどうやって水を出すのか、位置の調整はどうするのかといった問題があるので、結局正面側で調整する事になった。


 ウォッシュレットが便まみれになるのも困るから、用を足している間は引っ込めておかないとだしな。


 一応折り畳みも用意したが生産性を考慮し、結局便座の裏に板を差し込んで固定する事になった。

 この方が単純な造りなうえにコストが安くつくからだ。

 最終的には4枚の板を上手くくっつけ自立させ、その上に便座を置く感じだな。

 これはまあ、商人ギルドに改良してもらおう。


 こうして携帯トイレが出来上がった。

 流石に持ち運ぶ事が出来ると言ってもそれなりに嵩張るので、結局は台車での運搬を前提に用いる事となった。


 で、ここでやっと台車。


 あくまで荷物の運搬に特化した台車と、移動手段としての台車、まずこの2つを作った。


 荷物の運搬の場合、リヤカーをイメージして作ってみた。


 押しても引いても使えるし、一人でもかなりの荷物を運搬できる。

 うまく改良すれば馬のような生き物に曳かせる事もできる。


 タイヤを大きくした。

 まあコストをどうするかは商人ギルドでどうにか考えてもらうとして、もう一台は小型の台車だ。


 これは移動手段としても有効なキック台車。

 ハンドルがあり、ハンドルを操作しながら片足は台車に、もう片方は地面を蹴る。

 こうして推進力を得、歩くより楽に移動ができ、速い。

 そしてそれなりの積載能力がある。


 そして最終的には簡易トイレを一緒に運ぶようにすればいい。



 後でニールスにい達にもトイレを使ってもらおう。

 パーティーメンバーはニールスにい以外全員女性だしな。


 俺は自分で作る事を拒否した。作るのは試作品だけだ。

 何せ一人で作るには限界があるからだ。


 その替わり作り方を伝授し、トイレと台車が売れた場合、売り上げ金の1割を俺がもらう事になった。


 可也の金額だって?

 こういうのはアイデアを出した功績が大きいんだよ。

 一度出来上がってしまえば、それを模倣すれば後出しじゃんけんが成立してしまうからな。


 俺はそれを防ぐ為にも、これらの製作には複数の工房に関わってもらう事にした。


 で、最終的に違う工房で組み立ててもらう。


 便座と台を違う工房で作ってもらう事にした。


「よくもまあそんな事を思いつきますのね!参考になります!」


 いや当たり前だろう?


 あ、そうそう、衝立だがこれは布で囲う事になった。


 棒は土でも金属でも木でもいいが、俺は現物を作っただけだ。

 生産性、コストも考えてはいるがいわゆる試作品。量産するには商人ギルド次第だな。

 後にはもっと携帯性を重視したトイレと台車も考案した。

 冒険者ギルドから、特にダンジョンでの運用を考慮した小型版を熱望されたからだ。


 完成した頃俺はふと思った。


 何で俺ってトイレを作っているのだろう?



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