第16話 どうやら俺の作った【キック台車】が家族の命運を握っているようだ

 逃げるのか。しかも俺の作った乗り物に乗って?

 俺は手を上げ立ち上がり言葉を発する。


「お、親父!さっき新しい【キック台車】を作ったんだ。特に姉貴達はそれに乗って帰ってよ。姉貴達の分は子供をそれぞれ2人まで乗せられるようになっていて、特に念入りに作ったから、子供を2人乗せても今までと同じように移動できるはずだ。」


「ありがとうクーン。」

「暫く見ないうちに立派になったわね!」

 一応言っておかないとな。そして褒められた。ちょっと嬉しい。

 どうやら俺は褒めて伸びるようだ。


「それはでかした!流石だなクーンよ。という訳だ、あの台車の移動速度は尋常ではない。その気になれば2日もあれば安全圏に脱出できるだろう。だから2日分の食料と水は常に手元に置いておけ。」


 この後色々な話が出たが、つまり魔境の先にいるはずの魔物は、魔境への人の侵入を許さないだろう、人が侵入すれば近くの領地は破壊されるだろう。それを止める手段は親父達にはないらしい。

 ずいぶん親父達は領主様を諫めたらしいが、あの領主様には聞き入れられなかったようだ。


 結局魔境の向こうにいると思われる魔物は親父達では到底かなわぬ相手なので、魔物が領地に攻め入ってきたら一目散に逃げるように、と。

 そしてこれは肝心な話なのだが、3日後にクツーゴ男爵は魔境の向こうに足を運ぶらしい。

 これに関しては農民は全員、魔境へ踏み込むのを拒否したらしい。

 というより男爵が魔境を超える栄誉?を独り占めにしたいらしく、農民が踏み込むのは1週間後だとか。

 まあ親父の、そして他の農民の見立てでは恐らく領主様が魔境を超えて一両日中には魔物はこの領地に押し寄せるだろうと。

 なので領主が魔境を超えた瞬間領地の殆どの農民はそのまま逃げ出すらしい。


 兄達はリーバクーヨ男爵領とギーコア男爵領にそれぞれ移動し、姉に知らせそのまま逃げる算段のようだ。


 しかしもし魔物が襲ってこなかったらどうするんだ?

 そう思ったが親父に言わせれば、

「例外なく魔物は領地を破壊する。俺は過去に王都の反対側の魔境を超えた領主と領地のなれの果てを目にした。正確には領主の一族だな。聞けば領主は真っ先に食われたらしい。」


 とんでもない事だ。


 俺は明日があるからと、双子の弟と妹と共に先に寝室へ向かった。明日は早いからな。

 だがまだ準備は終わっていない。

 本当なら明日の準備は終わったんだが、あくまで明日出発する上での準備だ。

 このままでは親父達が危ない。できる限り準備をしておかないとな。それにしても時間が無さすぎる。

 こうして俺は寝る間を惜しんで準備をし、限界まで魔力を使い俺の考えうる限りの備えはしたつもりだが、当然ながら魔力が無くなって・・・・気を失ったまま翌朝を迎えてしまった。

 食事を終えた後、双子の弟と妹を従え集合場所に向かい、集まった子供達と共に王都に出発した。








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