第5話「休み時間、瑠璃に絡まれる」

 高校二年生の新学期など、特別なことはない。

 しいて言えば、部活などの中心人物になって新入生の勧誘や、高校の中心的ポジションになるための準備が着々と進められるということぐらいか。

 何はともあれ、俺がかかわるような点は全くないために、普通に高校が始まってだるくなってきてしまったということぐらいである。

 大体、登校までにかかる必要時間が分かってきて、1年の後期ぐらいから遅刻ギリギリに着くように計算して登校している。

 教室に入ると、すでに大半の生徒がすでに登校してきており、仲のいい者と談笑している。

 その中、俺の後ろの席に座っている瑠璃は、誰にも話しかけられることなく静かに本を読んでいる。

 むかつくが、顔は良いしスタイルもいい。何も知らない人が見れば、どこの美少女かとびっくりしてすぐに好感を抱くだろう。

 ……いや、男子なら今の高校での現状の話を聞いても、嫌になるやつは一部いるかいないかぐらいか。

 そんなことを思いながら、彼女の隣を横切って自分の席に腰を下ろした。


「悠太ぁ、おはよ」


 横切る際に挨拶するかどうか考えて、スルーすることを決めたが、結局瑠璃の方から挨拶された。


「おはよう」


 挨拶を無視する必要はないので、軽く挨拶だけ返しておく。

 

「朝来るの、ギリギリなんだね」

「……早く来たってやることないし、朝はしんどいし」

「ふふっ……。朝弱いのは変わらないんだねぇ」


 挨拶だけで済まそうと思ったら、割と話しかけてくる。

 どんなに陸人や有田さんが理解があるとはいえ、あんまり話を長々としていたら不審がられそうなので、続けたくない。

 そんな思いが通じたのか、チャイムが鳴って担任が入ってくる。

 そこで話は終わり、一日がスタートする。

 朝の軽いHRを終えると、そのまま一時間目の授業に突入する。

 理系のクラスを選択したので、数学やら化学やら頭を抱えないといけない科目がパワーアップした上にとにかく苦手な英語が面倒でしかない。

 高校とかになると、小学校の時みたいに挙手して答えるとかそういうのでもなくて、指名されて答えないといけないとかも多くなってくる。

 ぼさーっと授業を受けていると、先生に怒られて恥をかくし、高校生って大変すぎる。

 これで部活を放課後や休日に頑張ってるみんな、偉大過ぎんか?


「ふぅ……」


 そのしんどさに、休み時間ごとにため息が出る。

 春休み中にだらだらしていたツケが、一気に出てきているのは言うまでもないと言ったところだ。

 三時間目の授業を終えて、昼休みまでやっとあと一つと言うところまできてぐったりと机に突っ伏した。


「なんかさぁ、毎時間ため息ついてなぁい?」

「しんどいんだよ」

「そっかそっか」


 俺自身、休み時間は陸人と話しながらトイレに行ったり、他のクラスメイトと話したりしているが、瑠璃は一貫して毎時間、一人静かに席について次の授業を待っている。


「さっきから俺にばっかり話しかけてさ、他に話する奴いねぇのかよ」

「いないねぇ。仲良くしてくれる女の子とか、全然いなくってさぁ」

「まぁそりゃそうだろうな」


 あんな話が飛び交っていて、仲良くしようとか思う女子は、なかなかに変なやつか、善良の塊みたいな人しかいない。

 男子なら話をしてくれるだろうが、休み時間と言う皆が教室にいる中で、がっつり話そうだなんて思うやつ、いないだろうしな。

 そう考えたら、一人で静かにしているしかないってことか。


「……そういえば昨日、妹のやつと話したけど随分と世話焼いてくれてるんだな」

「そんなことないけどねぇ。海咲って、もともとしっかりしてるから。あの子がちょっと困ってることで、何かサポート出来そうなことがあればやるってぐらいだから」

「成績が上がってるって話も聞いた。あいつの成績関連で、親子喧嘩とか難しい問題が起きそうな予感がしていたけど、お前のお陰で回避出来てる」


 妹から伝えておいて欲しいという件を、ようやく瑠璃に伝えた。

 

「あの子が可愛いからね。私にああして純粋に慕ってくれるのは、あの子だけだからさぁ。それに年下で私が既に経験したこととかを踏まえて、色々と教えてあげられるしね」


 妹の話をするときは、穏やかな笑顔でそんなことを口にする。


「経験したことを踏まえて、色々と教えてくれるのは良いけど、くれぐれも変なことは教えてくれるなよ」

「…そんなこと、言われなくても分かってる」


 その言葉だけは甘ったるい言い方ではなく、鋭い返答が返ってきた。


「そ、そうか。それさえ何とかなるなら、あいつと付き合ってやってくれ。男の俺じゃダメなことがあるだろうし」


 思ったよりも鋭い口調と声色で返ってきたことに戸惑いつつも、これからも支えてあげて欲しいと言うことだけは伝えた。


「へぇ、シスコンじゃん」

「うるせぇよ。親子喧嘩の頻度が増えて、しかも激化する傾向にあるから、空気が悪くなってこっちとしても困ってんだよ! ……俺があれこれ聞くことも、あんまり出来ないしな」


 むかつくことにこいつと話すときは、気を遣うとかそういうことを一切考えなくていい。

 だからこそ言葉がすらすらと口から出てきて、会話がスムーズに進む。


「ま、海咲が可愛いから言うまでもなく、出来るだけフォローするつもりだけどねぇ」

「そのことについてだけは、本当に感謝する」

「ふふっ、それ以外の事には感謝したくないんだ?」

「俺からは感謝するようなことも無いな!」

 

 俺自身のことについては、瑠璃へ別に感謝するようなことは全くない。

 俺がそう言い切ると、楽しそうにまた笑う。

 いつも他の男子と話すときの控えめに笑う笑顔と違って、堪えられないとばかりに。


「あはは、本当に面白い。悠太って何でそんなに面白い喋り方と変な顔ができるわけ?」

「話し方はともかく、顔について普通にディスってきてウザいんですけど」

「事実だから仕方ないよねぇ。顔というより、表情のバリエーション豊かすぎるって」 


 媚びた話し方をされると鳥肌が立つし、バカにされたように言われるとそれもイラッと来る。

 結論、どう関わっても絶望しかない。

 ただ、こいつも陸人同様に俺が素で喋って笑う数少ないタイプである。

 何故にこいつではなく、もっと他の女の子ではないのかとひたすら残念に感じるばかりだ。

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