第3話「不器用な男、周りを見ても辛くなる」

 HRはよくある担任の話が少し続いた後、プリントなどを配って午前中には終了。

 高校2年生というまさに部活で中心になりつつある立場の人も多く、早速教室から各活動場所へと散って行く。


「悠太〜!サッカー部に入らないか〜?」

「今更入るわけ無いだろ」

「まだまだ絶賛募集中」

「早々に顔面ブロックして、前半のうちに交代枠を潰すような運動量0のDFでいいなら、考えてやるよ」

「ブロック出来るのは良いけど、交代枠早々に使われるのはな〜」


 サッカーとかバスケとか、フィールド全体でみんなが動き回るタイプのスポーツは好きではない。

 どっちかというと、バレーとか野球とかポジションとシチュエーションがしっかり把握しやすい競技の方が好き。

 要は周りを見れないし、流動的な動きについていけないゴミ野郎ということである。あるいは、視野が狭いとも言う。


「なんかここのサッカー部、ぼちぼちの戦力が揃ってるとか言う話、聞いたけど?」

「そうそう。うまく行けば、県大会ベスト4くらいは行けるかもしれないからな。気合入ってる」


 何気なく言っているが、普通にすごい。

 大きな強豪私立が少ない田舎ではあるが、そこまでのラインに到達するのは、並大抵のことではない。


「そんなチームで直々10番を背負うってわけでしょ? そりゃあモテるわな……」

「いや、俺ボランチだから10番ではないかな。多分トップ下のやつとかがなるんじゃないかな〜」

「ってことは8番か。普通にサッカーを見てる身からしたら、派手さが無いけどまさに柱って感じのとこでカッコいい」


 10番ほどの注目度はないかもしれないが、運動量と攻撃と守備の軸。

 やっぱり陸人ってすごいんだな。


「よー知っとるやん!」

「実際にプレイするのはだめだが、見るのは好きだからな」

「おいこら、陸人! 帰ろうとしてる悠太を、つまらない話で引き止めるんじゃないの!」


 そんな何の中身もない話をしていると、有田さんがやってきた。


「ひー、怒ってる」

「ってか、さっさと行かないと鬼顧問が先に到着して遅刻だって怒られるよ? 早く行かないと」

「それもそうだな。じゃあな、悠太。また明日」

「バイバイ、悠太」

「あいあい、二人とも頑張って〜」


 ちなみに有田さんもサッカー部のマネージャーで陸人の活躍を一番近いところで見ている。

 サッカー部でバリバリレギュラーイケメンと、美女四天王のマネージャーが付き合う……か。

 誰もが一度は考えたことのある数多くある理想形の中の一つであることは間違いないだろう。


「世の中なるようになってるもんだよなぁ……」


『美女と野獣』という言葉があるが、実際にそんな世界線というはなかなか存在しない。

 存在するとするならば、社会人となり経済力などの大人の事情が関わってくるだろうし。

 もちろん学生の恋愛に、そんな要素はほとんどの例であるはずもない。

 物語の世界のように、何かをきっかけに冴えない男が高嶺の花に好かれるなんてことはない。

 そんなことがもし仮に実在した方が、俺のような立場からすると我慢ならないが。


「ただ少なくとも言えることは、みんなしっかり恋愛とかしてるんだよなぁ」


 歩みを進めながら、周りの恋愛話について軽く振り返ってみる。

 一年の夏休み前ぐらいから、ぼちぼちとカップル成立という話を聞き始めて一年の後期になると一気にそんな話が増えた。

 陸人や有田さんのコミュニティが広いので、自然と把握出来る情報も増えているのもある。

 割と情報や雰囲気をオープンにしているカップルもいれば、本当にその話通りなのかというぐらいに表には出さない落ち着いたカップルもいる。

 みんながそれなりに自分たちの形で、知らないものを知る。

 今は背伸びをして、大人の真似事に近いことをやっているのかもしれないけど、段々と背伸びしたときに見える視界に慣れてきて、大人になる。


「そんな中、浮いた話というか何もないのが、この俺ってことか……」


 自分でブツブツ言っていて悲しくなる。

 そう感じていても、彼女を作りたいかと言えばはっきりとした結論が出せない。

 むしろ、迷い気味のNOかもしれない。

 これまでも今日有田さんが言ってくれたように、「私のお友達を紹介するから、友達になってみて」と紹介を何度もしてくれている。

 ただ、素の性格が普段から怒ってなくても言い方がきついことを自覚しているので、普通に話すのが怖いことから、結局最大限気を使って優しくして、最終的に気の利く男友達止まり。

 たまーに連絡が来て、何かのヘルプを求められるとかそういうラインに収まる。

 その結果に俺自身もがっかりするというよりは、紹介された女の子を傷つけないで済んだことと、有田さんの信頼を損なわなかった安堵であんまり悲しくならないというのが現状。


 要するに、恋愛を出来るほど自分に余裕が無い。


 この一言に尽きた。


「……こういうところが、ダメなんだとしか言いようが無いんだろうな」


 他人にこのことを話したことは無いが、自分で分かっているつもりだった。

 経験して分かることがある。それなりの距離感や関わり方、考え方。

 しかし、今の自分は失敗を恐れて逃げて結果を出さないまま過ごしているだけ。

 振られるなり、ダメなところをはっきりと言われることも、自分を見つめ直すいい機会になると。

 ただ普通の失敗ならともかく、陸人と彼女である有田さんの信頼を損なうようなことがあれば、あまりにもリスクが大きい失敗でとてもチャレンジする気になどならないわけで。

 結局、いつも通り何も変わらない事なかれ主義のまま無駄にこの時間を過ごしている。

 そのくせして、彼女が出来ないなどと嘆いたりして拗らせているなど、滑稽以外の何物でもない。 

 まだ裸の王様みたいに、分からずに威張り散らしているほうがマシすらにすら思えるほどだ。


「なっさけねー!」


 周りに誰もいないことをいい事に、自分の不甲斐なさへ少し声を張り上げた。

 そんな奇行に走りながら、花粉や黄砂のせいで霞んでいる山を遥かに望みながら、駅までの道のりを進んだ。


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