第2話「説明して傷つきました」

 その後、すぐにチャイムが鳴ってHRの時間やら、始業式やらがあったが、先程の出来事で全て意識を持っていかれてどんな話があったか、何も覚えていない。

 休み時間になると、早速陸人の席に呼び出されて俺と瑠璃の関係性について色々と二人に聞かれることになった。


「まずは……廣瀬さんとお前どんな関係なわけよ?」

「下の名前を呼び捨てで呼ぶって、いくらあの人が馴れ馴れしくても、それなりに接点がないとしないもんね」


 二人に食い入るように言われたが、気にならないわけがないだろうな。

 まぁ気になるって言っても、陸人の場合は純粋な好奇心で聞いてる感じするけど、有田さんはすでにちょっと懐疑心のある顔してるんだよなぁ。

 特に隠す必要もないし、素直に二人に打ち明けた。


「あー……実を言うとだな……。あいつは俺の幼馴染になんだよ」

「マジか!」

「……へぇ」


 二人の反応もそれぞれだが、取り敢えず今話せることを続けて話していく。


「とは言っても、まともに話ししたり関わっていたのはもう二年以上前になる。それぐらい久々に今日話したって事になるな……」

「でも、この高校に居たってのはもちろん知ってたよな?」

「そりゃもちろん。美人四天王とか言って、男子ももてはやしてたし、何よりああいう噂がガンガンに広がってるから、耳塞いででも存在なんて知らされるよ」

「何だよ〜、話題になったときにその話早くしてくれたら良かったのによ〜」

「接点無かったし、したところで何にもならんやろ。それに話したら、絶対にお前誰かに言ってたろ」

「信用ねぇなぁ〜。サッカー部のやつにちょっとばかり言うぐらいだって」

「今まで黙っててよかった……」


 やはり陸人は、ただただ好奇心で聞いているという感じである。あまり深く気にされていないので、助かる。

 しかし、有田さんの方はそうもいかないらしい。


「……あの人って、ずっとあんな感じだったわけ?」

「あー……。要するにビッチみたいな感じだったかってことです?」

「そう」

「信じるか信じないかは知らないけど、俺と話してた頃はこんなんじゃなかったです。もっと普通に明るくて、女の子の友達が沢山いるって感じ。なのに、急に変わってしまったって感じです」

「……信じられないね。今の彼女は、女子から見たら本当に最悪よ?」

「どうしてあんな風に変わってしまったは分かりません。……こんなことを言われるのは心外というか、言わないで欲しいと言われても仕方ありませんけど、中学の頃は今の有田さんのように人気者でしたよ」


 有田さんが不快に感じるかもしれないが、それでもそれくらい瑠璃が変わってしまったことを伝えるべく、そのような言葉をあえて選んだ。

 そんな俺の言葉に不快な表情は見せなかったが、特に表情を変えるといった感じでもない。


「話を聞いてもよく分からない人ね。そもそも付き合う男も、短期間で捨ててるみたいだし。その過去からの豹変ぶりも合わせて、二重人格みたいなものでもあるのかしら?」

「短期間で捨ててる?」

「あれ、悠太知らなかったのか。俺もサッカー部の先輩とかも可愛いからって声かけて一時的に付き合ってたけど、すぐに別れてたぞ。話の感じからすると廣瀬さんの方から切り捨ててるみたいだけど」

「それ以外にも、あの人と噂になった人ってすぐに別れ話が出るのよね。長くても二、三ヶ月が最長。もっと短いことなんてざらにあるしね」

「てか、そんな短期間しか付き合ってないのにヤった的な話が後を絶たないって、どんだけ廣瀬さん積極的なんだよ! 一次的に夢を与えてくれる謎めいた女って感じだな~!」

「……後でお説教ね。覚悟しときな」

「すんません、マジで冗談です」


 そんな二人の話に、周りの恋愛事情やら人間関係に疎いのが少し恥ずかしくなった。

 自分自身が恋愛できてないとはいえ、周りの人間関係には常にアンテナを張っておきたいものだ。

 でもたしかに、二ヶ月という短さを知らなくても、高校一年間だけでも、瑠璃と付き合う男の噂を聞いてきた頻度を考えれば、それぐらいの短さであることも普通に予測がつくといえばつく。


「でも、びっくりしたわ〜。悠太が弘瀬さんと付き合ってヤッた経験があるとか、現在進行系で付き合っとるとか言い出すのかと思ったわ」


 さっきうかつな発言をして、有田さんを怒らせたのにすぐにまたそういう発言を陸人がしている。


「ないない!ってか、有田さんいるのにそういう話をするわけがないし、お前もするなよ……」

「いやぁ、だって今更感あるしな……。もう普通に俺たちも……」


 その時点で、有田さんが陸人の頭を叩いた。当然だろう。

 この後説教をするまでもないというところである。


「やめてよ!誰に聞かれるかわからんないだから!」

「いやもうそういう噂広められてるから、今さら誤魔化しても意味ないし……」

「それでも確証されるよりは、適当にぼやかしてる方がマシなの!……ごめんね、悠太。こんな品のない話して。とりま悠太が変なことになってなくて良かった」

「お気遣いありがとうございます。絶賛ピュアボーイでございますよ。今のやり取りのせいでちょっと傷つきましたわよ」


 元々たまーにこういう話をしてて、二人が仲良くしてるのは聞くけども、微笑ましい反面ダメージがやっぱり計り知れない。


「ふふっ……。まぁまぁ、悠太のこと興味あるって娘いるよ? また紹介してあげるから、話してみたら?」


 気を遣ってくれるのはありがたいが、明らかに俺が童貞ということを笑ったな。

 陸人に馬鹿にされるのならいいけど、女の子からシンプルに笑われるのは想像以上に辛いかもしれん。


「そうだぞ。そろそろお前も男になるべきだぞ!」

「そうだな。このままだと、俺は君たちに潰されることになりそうだわ」

「「??」」


 俺のその一言が本気で分からないといった顔をしていた。

 やはり、リア充には非リア充が抱える劣等感というやつを、微塵も理解してもらえることはないらしい。


「ちくしょう……。とっとと次のHR終わったら、帰って寝てやる……」


 心が傷んだり、焦ったり。春休み明けの怠けた体には、あまりにもハードすぎる新学期初日の午前だった。


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