5.




 言われるがまま手で頭を押さえて体を屈めると、なんだか分からないが、鈍いゴオッという音が聞こえ、空から降ってくるような、不気味な気配がした。何が起こるのか見ればよかったのだが、足が震え、状況反射で目を瞑ってしまった。


 「はっ! 」

 彼女の叫び声がした。もうだめだ、襲われる!


 彼女の声の後、しばらく無音になった。体感も外のひんやり冷えた空気ではなく、生暖かい部屋の温度に変わっていた。ゆっくり目を開けると、少々散らかった我が家の部屋にいて、体育座りしていた。


 「……何が起こったんだ……? 」

 さっきまで俺は公園で黒ジャージ女性と話してた、そしたら頭から何かが降ってきて、目を瞑って開けたら部屋にいた。なるほど、全く分からない。

 「要するに、目をつけられちゃったんですよ、あの人に」

 「……あのひと? 」

 「簡単に言えば、貴方はにされようとしていたんです」

 「なるほど、ますます分からな……って、な、何で俺ん家にいるんですか‼︎ 」

 「しーっ、夜中ですよ、宮川さん」

 「あ、はいすいません」


 気がつけば目の前に彼女がいた。恐らく襲われそうになったのを助けられたんだと思う、多分。ここ数分の出来事と、彼女と距離が近過ぎので、頭の処理が追いつかない。

 「あの人達の話はまた追ってするとして……まず、貴方が私を見つけてしまった、これが事の発端なのは分かりますか? 」

 「はぁ、それは何となく」

 「それはよかったです。……それでは貴方、人間が私と言う存在を知ったのが不都合に思う者がいる、これは分かりますか? 」

 「……まぁ、なんかそんな感じみたいですね……」

 つまり、彼女が何かの組織の令嬢で、一般庶民といい仲になっては困るので刺客が来たみたいな、二次元的展開って事なのか?

 「わぁ、流石二次元の知識が豊富なだけはありますね! ほぼ正解です! 」

 「褒められても、嬉しくないです……。あの、何でさっきから考えてる事分かるんですか? 名前も俺教えてないですし」

 「んー……まぁ、私達には分かるんですよ。あと、貴方に私の事を教えるほど、貴方の危険度が増していきますがいいんですか? 」

 「ゔ……い、いいです別に」

 「え? 」

 「ほら、俺って仕事ばっかりで他に何もないし、別に身の危険が起きようと困らないです。会社なんて俺がいなくてもブェッ! 」


 愚痴を話そうとしたら、彼女の平手が飛んできた。

 「……軽々しくそんな事言わないでください! 親御様やご兄弟、少なからず貴方を想う人はいます。そんな、簡単に……」

 「も、申し訳ありません」

 下を向いてシクシク泣き始めてしまった。……また詳しく聞くと危なくなるのなら、もう何も聞かないでおこう、彼女にも何かあったんだろうから。でもこれだけは……


 「あ、あの……ひとつお聞きしていいですか? 」

 「何ですか……? 」

 「貴方のお名前を聞いてなかったので、聞いていいですか? 」

 「この世では桐本きりもとミサキ、と名乗ってます」

 「桐本さんですね、分かりました。それで、今更なんですが……何で俺ん家に来てるんですか? 」

 「貴方を助けた後、家に送るように言われてお送りした次第です」

 そうか、何があったかもう分からないが、桐本さんに助けられたのか……

 「あぁ、ありがとうございました! それではもう暗いですし、タクシーでも呼びましょうか? 」

 「あ、それは結構です」

 「え……? 」

 「私、貴方を庇ったので、この世にいる際の住まいを没収されました」

 え?

 「宜しければ、こちらに住まわせていただけませんか? 」

 は?

 「あ、この肩にいる子は自分の事は自分でしますので気にしないでください」

 「キュゥ」

 「あ、え、あ……っ……」

 頭が追いつかなくて、気を失ってしまった。気が遠くなる時に桐本さんの小声が聞こえた。


 「ふふっ……。非日常にようこそ、宮川さん」


 夜道の独り言は、周りを気をつけた方がいい。


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独り言にはご用心! 里岡依蕗 @hydm62

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