第13話 幕は閉じ

 アレキサンドリアは地中海に面した都市で、エジプトで海が見られる唯一の場所である。ここにはカイトベイと呼ばれる要塞があり、かつてはここに大灯台があったのだという。フィロンが定めたところの世界七不思議のひとつ「アレキサンドリアの大灯台」である。「ギザの大ピラミッド」もその一つであり、エジプトには二つの七不思議がある。


 日も落ち始めたころ、アレキサンドリアに到着した俺たちは、財団が用意したホテルに宿泊した。至れり尽くせりだ。


 翌朝、俺たちは港の近くにあるレストランで、ここちよい潮風を受けながらゆったりと食事をしていた。幸いデニーさんの荷物はそのままの形で全て揃っていた。


 デニーさんはスーツケースを開けるとケチャップを取り出し、いろいろな料理にかけて美味しそうに食べていた。

「これなのよ~、国産品が一番ね~。」

「今度は忘れないように手荷物に入れておくのよ。」


「荷物が全部あってよかったですね。」

「この価値は人にはわからないのよ~。」

「一緒に来るはずだった友達が、全部デニちゃんにって用意してくれたものなのよ。」

「だからとっても大事なものなのよ~。」


「デニーさんと葉山さんは、明日の朝の便で帰国するんですか?」

葉山さんは日本の状況を確認し、航空券の手配を終えた様子であった。

「日本への入国制限も解除されたし、今のうちにデニーさんと帰国しますっと。」

「リーフ、しっかり日本まで送り届けるのよ~。」


「俺は次の目的地がイタリアで、約束までまだ少し時間があるので、あと何日かエジプトに滞在します。」

「今度の依頼人は大丈夫なんでしょうね~。」

「ちゃんと用心するのよ~。」


「アオイ、生きていたら日本でまた会うのよ~。」

「アオイさん、大変お世話になりました~。」

「お二人とも、お気をつけて。またどこかでお会いしましょう~。」


 俺たちは、お互いの連絡先を交換し、ここアレキサンドリアで行動を別にした。


カイロ空港


 あの土産物売りがデニーさんとリーフさんに近づいてきた。

「帰国されるんですか、お気をつけて。」


葉山さんをみて、

「あの時、ワシの忠告を受けて壺を買っていたら、二人に出会うこともなくトラブルには巻き込まれていなかったはずじゃ。」

「うーん、そうかもしれないけど、こんなに濃い旅の経験はできませんでしたねっと。」

「この旅の出来事は、全部自分の財産になるんですよー。」

「だから壺なんて必要ありませんでしたよねっと。」


デニーさんには、

「宝石をお守りくださりありがとうございました。教祖も大変喜んでおられます。」

「教祖からのお土産もぜひご活用ください。」

「楽勝なのよ~、もっと女子力高めて教祖と勝負するのよ~。」


そう言ってデニーさんと葉山さんは成田空港行の飛行機に乗り込んでいった。


成田空港


「リーフとはここでお別れね。」

「困ったことがあったら連絡するのよ~。」


「またどこか一緒に旅行いきましょうねっと。」

「アオイさんも誘って。」


「あー、アオイね。まあお世話係としてなら考えないでもないのよ。」


デニーさん自宅


デニーさんは一緒に行くはずだった友人へ帰国報告をしていた。

「アリーちゃん、今エジプトから帰ってきたのよ~。」

「病気は治ったのかしら。」

「お土産もあるのよ~、ラクダの置物とカバの置物。好きな方あげるのよ~。」

「それと、旅先で知りあった人から、佐渡島にオープンする何とかタワーの宿泊券もらったのよ~。」

「怪しい人からじゃないから安心よ。」

「でも、高所恐怖症だから最上階には泊まれないのよね。」

「今度こそ一緒に行くのよ、そして準備お願いなのよ。」


葉山さん勤務地


 休暇を終えた葉山さんが、久しぶりに出勤すると、上司からエジプトでの出来事を根掘り葉掘り聞かれた。


「葉山、お手柄じゃないか。」

「あの謎のLF財団と接触するとは。」

「トップとも会ったんだって。」


「いえ、トップとは会ってないや。」

「私は傍観者であまり詳しくわからないです。」

そういう葉山さんの首には、LFと刻まれたペンダントがかかっていた。


「そうか、それにしても旅行が台無しだったな。」

「事件の解決に一役買ったってことで、特別ボーナスが出るぞ。」

「といっても半分仕事だけどな。」

「秋に佐渡島でオープンする”ヘリカルタワー”の調査だ。」

「そこで何者かがタワー運営の妨害を目論んでいるとの情報が入った。」

「ガセネタかもしれないが、最上階スイートルームに泊まる機会なんでそうそう無いぞ。」

「うらやましい限りだ。」

「それって半分どころか完全に仕事ですねっと。」

リーフは旅行の疲れもとれないままに次の仕事の話をされて、エジプトに逃避行したい気持ちになっていた。


カイロ空港


 俺はミラノ行の飛行機をまちながら、次の依頼人へ連絡をとっていた。

論田眞子、依頼人の名前だ。昔からの知り合いなので、さすがにムハマンドのように命を狙われる心配はないはずだ。


イタリア・フィレンツェ


 日の出前、竜崎蒼汰は眠い目をこすりながら起床した。

「昨日あんなに寝たのにな~。」

「どうせ眠いなら、外に飲みに行けばよかったな。」

「また1週間が始まる、そういえばマコさんくるの今週だったかな。」

 彼のいつも通りの日常が始まろうとしていた。


舞台はイタリア、「花香る国の殺人」へと続く


















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砂塵まう国の殺人 小泉葵 @Zorro-Fiore

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