第6話 ピラミッドの中で

 この短時間に、二人はいったいどこに行ったんだ。俺はあわててカフラー王のピラミッドに向かった。


 一方、その頃。デニーとリーフは、カフラー王のピラミッドの前で突然の出来事に困惑している様子であった。

「なんということでしょう~。」

「あの案内人、いきなりラクダから降ろすとか信じられないのよー。」

「やばない?」

「まあでも、お金取られなったしラッキーね。」

「リーフ、次のラクダ探してきて。」

「あの人、デニーさんのかけてるペンダント見て、なんだか慌てた様子でしたよ。」

「しきりになんか言ってたし。」

「いちおう、音声録音してたから翻訳できるかなっと。」

「さすがね、とっさに録音してたとはー。」


「どれどれ」

   ”呪い、墓、入れ、サラバジャ、ヤ~マ””

「なんか不吉な言葉がならんでるや。」

「サラバジャって、アラブ人の言葉そのままだや。うまく翻訳できなかったのか。」

「あ~、サラバジャって日本人に向けて言う言葉だや。」

「日本語の”さようなら”からきてるのか~。」

「ヤ~マも”山”からきてて、これには深い意味はなさそうねっと。」


「デニーさん、やっぱり、その首のペンダント相当危ないものなんじゃ。」

「本物なら盗品だってことだし。」

「気にしすぎよ~、リーフまで心配性になったの?」

「それよりも、墓入れって、墓ってピラミッドのことかしら。」

「さっそく入るのよ。」

「せっかくピラミッドにきたのに入らずに帰れないわ。」

「あの~、”呪い”って言われてるのは?」

「”呪い”なんてものは信じてないから、呪われないのよ。」

「さあ、いざいかん、王の墓。」


 うーん、まあ翻訳も正確とはかぎらないし、せっかく来たんだしね。ピラミッドの中に入るなんて滅多にない経験よね。

「カフラー王のピラミッドの入り口、入り口っと。」

「ありゃ地図情報に入ってないや。」

「入る方法は書いてあったや。」

 ”入場料を払って入ること”、”要予約”

「ありゃ、予約いるのか~。」


「デニーさん、予約いるみたい。」

「なんということでしょう~。」

「でも、きっと話せばわかるはずよ。」

「リーフ、翻訳頼むわね。」


 カフラー王のピラミッドは、クフ王に比べて観光客が入れる範囲が限られている。現在発見されている玄室(王の棺のあった部屋)までの道が短く単純だからだ。そのせいか、クフ王に比べると人気がなく、予約なしで入れる場合もある。


 ピラミッドの入口の前にはほとんど人がおらず、入場管理人とその仲間らしき人が数人いる程度であった。

「他に観光客もいないし、すんなり入れるはずよ。」

「リーフ、翻訳頼むわね。」

「”墓に入りたい。”」

管理人は頭を叩いて、のどに親指をあて横一文字に動かした。明らかに挑発的ジェスチャーに見えた。

「ちょっと、なんて言ってんの?」

「えーと、”生きてるうちから墓に入りたいとか正気か?””地獄に落ちろ”だって。」

「むぅ。単刀直入すぎたのね。」

「”イカした髭ですね。どうかピラミッドに入れてください。”」

「これでどうなのよ。」

管理人はニンマリした表情で、

「”この髭は10年手入れしている”、”耳からも生えている”」

「”ピラミッドに入りたくば、一人50ドル払え。”だって。」

「最大限の誉め言葉なのに、50ドルとは、ぼったくりにもほどがあるわ。」

「リーフ、アオイ探してきて。その辺にいるはずよー。」

「アオイに交渉させるのよー。」


 そんなことを話していたら、何かに気づいた管理人が近寄ってきて、デニーさんの腕を掴んた。

「きゃ~、誘拐よ~。暴力反対なのよ~。」

案内人はしきりに何かを話しかけて、デニーさんのペンダントを手に取って見ていた。

「”ご無礼を”、”ピラミッド内部まで案内します”だって。」

「ほら、ペンダントつけてて正解ね。きっと優待パスなのよ。」

「リーフも一緒にいくわよ。」


 ピラミッド内部を案内といっても、1本道の狭い通路を進むだけで、しばらく進むと玄室が見えてきた。

「ここは少し広いのね~。」

「中に入ったら蒸し暑いかと思いきや、ひんやりしていて気持ちいのよー。」

「なんかあるのよー。」

「ふむふむ、どうやらこれが棺だや。」

「ふたもないし、カドもかけていて貧相ねのね~。」

「せっかくだから、リーフ入ってみなさいよ。写真とってあげるわよ。」

「呪われそうなので遠慮しておきます。」

「リーフ案外、恥ずかしがり屋なのね。」


 恥ずかしいとかそういう問題じゃないんだけど、そもそも国宝級の遺産に勝手に触れていい訳ないだろうし。国によってはポイ捨てだけで逮捕されるとこもあるっていうし。なんてことを考えていた矢先。デニーさんは、おもむろに棺に入り横たわった。


「呪いなんて存在しないのよ~。」

「ほらね。なにも起こらない。」

「棺の底もひんやりしてて気持ちいいのよー。」

「あ、天井に何か書いてあるわ。」

と、何かを堪能していた。


 その時、

デニーさんの視界にいきなり怪しい人物の顔がアップで迫ってきた。

何の気配も感じさせずに、怪しい人物は、玄室に入ってきていた。


「ぎゃ~、でたのよ、古代の魔物。」

「悪霊退散、ぎゃ~十字架わすれたー。」

「落ち着け落ち着け~。目をつぶればきっといなくなるはずね。」

どうしていいかわからない状況の中、呪いは信じないけど、魔物は信じるのかぁと、リーフが思っていたところに、怪しい人物がデニーに流暢な日本語で語り掛けてきた。


「お主、そのペンダントどこで手に入れた。」

「我が教団の手のものから連絡を受けてきてみれば、お主、空港で土産を値切った日本人か。」

「その緑の宝石は王の証。」

「我がララエフ教が守護する王子のものだ。」

「王子は今どこにおる?」

よく見ると、怪しい人物は空港で壺を売っていたララエフ教の土産物売りであった。

















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