第4話 一難去らずにまた一難

 「改めて現状の問題を整理してみましょうか。」と、俺。

あまり考えたくはないんだけど、かなりマズい状況に置かれているのだけは間違いない。だがしかし、悲観的になっても目の前の問題はなくならないので、受け入れて対処するしかないか。あー、依頼人にも連絡しないとな。


「まず、スーツケース。」

「死体入りスーツケースは、昨夜何者かによって持ち去られた。」

「デニーさんのスーツケースは行方不明。」

 死体入りのは、なくなってしまったのでどうすることもできない。いつどこで入れ替わったか、あるいはどうやって飛行機に持ち込めたかは、現時点では知りようもない。これは今考えても仕方なさそう。

 デニーさんのは、取り間違えた何者かの手にあるか、処分されたか。なんにしても探し出さないとならない。そう本人からお願いもされている。

 

「次に死体。」

「持ち去られたため、これもどうすることもできない。本当にあったかどうかを立証することもできない。」

「何者であるか不明。首には由緒ありそうな宝石付きの、ララエフ教のペンダントがあった。」


 そして、その宝石はまさに今ここに、目の前の人物の首にかけられている。これこそが現状一番の問題ではないのか。つまり、これ目当てに何者かが襲ってくる可能性が絶大だ。その何者かは、すでに我々の居場所を知っている。葉山さんが日本の警察に連絡して、エジプトの警察やらその手の人たちに応援要請をかけてくれても、すぐには無理だろう。宝石が無いことに気づいたら、すぐに探しに来るにに違いない。いや、普通に考えれば、とっくに気づいていてホテル内にいると考えたほうがよい。悠長にしている場合ではない。あの怪しげな教団が関係していそうだ。


 必死に状況説明をしていたのだが、葉山さんはタブレット操作に夢中で、デニーさんも呆れた顔で俺を見ていた。

 「アオイはなんでも深刻に考えるたちなの?」とデニーさん。

 ほぼ自分自身の問題にもかかわらず、そんな事を気にする風でもなく、どこか余裕を感じる。これが自称高まった女子力のなせる業なのか。それともこの程度の状況は慣れっこなのか?命に関わるかもしれないこの状況が。


「あの、その首にかかっているペンダントを、今にも奪いにくる人に襲われないともかぎらないですよ?」

「そうしたら、その人たち捕まえて、スーツケースとペンダントを物々交換すれば問題は即解決なのよー。それだけのことよ。簡単でしょ。」

まあ確かに、そう言えばそうだけど。その人たち捕まえるってのが、命がけになるかもしれないんですけど。実はすごい特技や体術があるのだろうか。そしてスーツケースもってるとも限らないんですけどね。

「デニーさん念のため確認ですが、捕まえるのって警察の仕事ですよね?」

 

 こんなやり取りをしていた間中、タブレットを黙々と操作していた葉山さんが

「あー、問題発生だやー。」

ここに来て更に問題上乗せですか。一難去らずにまた一難とは。

「例のウィルスの変異株が久々に発見されて、日本からの出入国が禁止になったって。」

「例外なく全員だから、しばらく応援こないや。」

「それにエジプト警察は、耳を貸さないみたいだし。」

「スーツケースの取り違えに関しては、空港は我々の仕事は完璧だ、間違うはずがない、の一点張りだって。」

「つまり、助っ人なしですか?」と俺。

「うーん、しばらくは無理みたい。」


 ペンダントを狙ってくる何者かに注意をしつつ、スーツケースを何の手掛かりもなく探すって、そもそも可能なのか?と悲観的になっていたら、

「くよくよしても始まらないわ。探しに行くのよ~。」

「アオイ、ラクダ用意して。」

「えぇ、ラクダですか?ラクダにのってどこ行くんですか?」

と、つい聞き返してしまった。

「決まってるでしょ、エジプトといえばラクダでしょ。」

「まずは大ピラミッドよー。きっとピラミッドにあるわ。」

「ラクダにのってどこまでもいくのよ~。」


 ピラミッド見たいだけでは?と内心思いながらも、ここにいるよりましかと、根拠のない提案に乗ることにした。そもそもデニーさんも葉山さんも観光で来ているんだし、割り切りも大事だよな。

 ピラミッドまではここから車で約1時間。さすがにラクダは無理として、依頼人であるムハマンドに連絡とってタクシー用意してもらうしかないな。ついでにヤツなら現地に明るいし情報が得られるかもしれない。


「ラクダの最高時速は65㎞/hっと。思ったよりも早いわね。」

「でもこれは相当条件が整わないと無理そうだや。ふり落とされそうだし。」

「乗り心地もあまりいいとは言えなそうね。」

「デニーさん、ラクダは後のお楽しみにして、ここからはタクシーにしましょう。」

「アオイさん、タクシーまだですか。」

気が付いたら、すっかり二人の使用人のようになっているのは何故だろうか。そして俺は相当の心配性なのだろうか。

 結局ムハマンドとは連絡が取れず、俺たちはホテルを出たところでたむろしているタクシーの1台に乗った。ピラミッドロードをひたすら走り、ギザ地区にある3大ピラミッドを目指して。








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