第24話 新しいことに挑戦してみよう


通信高校に入っても学校は週に一回なので平日の時間を持て余すことになる。


今まで親孝行をしてこなかった分、平日はなるべく家にある間は母親の手伝いをすることにした。

掃除、洗濯、風呂の準備、と今までやったことがなかった家事をするのはまたもや斬新だった。


しかしそれでも一日中の時間を持て余していた。

今の生活は朝起床すると父親の弁当作りの手伝いをしたり朝食の皿洗いに洗濯掃除などをしても午前中は家事が終わってしまう。

午後から夕方にかけての時間が暇なのだ。

しかし晶子には過食による広大な食費の消費で貯金も少なく何もできなかった。

どこかへ遊びに行こうにも交通費もなく、何かを買うこともできないのだ。

摂食障害にそれまでの貯金を過食の際の買い出しに使ってしまったことがここに来て大きくダメージとなる。

医者にかかる前はまだ残っていた貯金はあれからも過食嘔吐に食費に使ってしまったので減る一方だった

食費に高額な大金を使ってしまいすでに貯金は雀の涙ほどだった。


月に一回の診察だが今でも心療内科に通い続けていた。

人気の医院だけあって予約客が多くなかなか先生が診れる日も少なく月に一回程度の診察だったがそれでも医者は毎回晶子のことをちゃんと見て話を聞いてくれた。

最初は晶子の太りたくないの一点張りだったが最近の晶子は高校への再入学で動き始めたことでお医者さんもいい方向に向かってると言ってくれた。

そこで晶子が新しいことに挑戦したい、と言えば「何かできることから新しいことを始めてはいかがでしょう」と言われた。

今までだったら何もできなかった晶子だが今、晶子は変わろうと強く思っていた。


 学校がない日や空いた時間帯など好美はどう過ごしているのか聞いたところ、好美は学校が終わった後の放課後や休日は常にアルバイトをしているというのだ。

好美の家は父親が死亡しており、中学時代まではなんとか母親の稼ぎだけで生活していたがまだ小学生の弟もいるので好美は最初から中学を卒業したら高校に通いつつアルバイトをするつもりだったという。

そしてアルバイトで稼いだ金額は家計の支えになっているのだ。

そのため好美は高校入学後、ろくに晶子に会う時間もないほどバイトに専念しており、学校のない時間帯はほぼバイトのシフトを入れているようだ。


晶子はそれを聞いて「自分も好美のように何かをしたい」と思い、授業がない日の時間を有効活用するためにアルバイトを探すことにした。

少し前までの晶子はもはや日常生活すら送ることもできないほど衰弱していたが最近は心療内科で出される精神安定剤のおかげなのか、そこそこ元気に生活できるくらいの活力は戻ってきたからだ。

なにより動き盛りの若い体を毎日持て余すのももったいない。

週一回の登校の日以外をただ家にいるよりは外に出た方がいいだろう。

アルバイトをすれば働いた時間の分は給料がもらえる。何より自分で働くということで社会勉強にもなる。

以前通っていた学校ではアルバイト禁止の校則があったためにクラスメイトなど周囲にアルバイトをしている人間は誰もいなかったが今の学校は好美を始めアルバイトをしている生徒が非常に多いとのことだ。

このままでは自分だけが時間の空いてる日に何もしてないのではないかという焦りもあった。

周りとの距離を埋める為には自分も何かしたかったからだ。


まずはバイトを始めるにはバイト先となる仕事を探さねばならない。

晶子はそう思い立ち、スーパーの入り口にあった求人誌を数冊持って帰った。

まだ十八歳未満の為に免許が取れなくて車が運転できず交通の便も悪いこの地方都市ではバスや電車でバイト先近くの最寄り駅に行くなんてこともできず、全て自宅から歩いていける距離かもしくは自転車で行ける範囲である近場で家から通える距離の場所で探すしかないのだ。


しかも晶子はまだ十六歳である。

求人誌に掲載している仕事のほとんどは十八歳以上から募集の求人ばかりで高校生不可の仕事が多い。

なかなか十八歳未満を募集している仕事が少なく、あったとしても家から遠い距離の場所で運転する車がない晶子にはたどり着くことすらできない場所だ。


地方で都市圏と違って高校生ができるバイトがなかなかないのだ。

マンガやアニメでは高校生の登場人物ががバイトをするシーンがあるのだがあれは東京などの話であり、地方ではまず高校に通いながらできるバイトはほとんどないのである。


晶子は学校のある日でも教室で求人誌を読んだり、スマートフォンからインターネットで近場の地元で高校生ができるアルバイトを探した。

「あれ、清野さん、バイト始めるの?」

机の上に置かれていた求人誌を見て圭が言った。

「うん。そろそろ何か始めようと思って」

「ちゃんと仕事探してるとか偉いなあ。俺はバイトなんて全然してないよ」

晶子はその発言に栗山圭は週一回の登校日の通信制で持て余している時間は何をしているのだろうか、と思った。

すると圭は言った。

「俺は普段家の手伝いあるからなあ。うち、町工業してるんだ。そこで平日はみっちり家の仕事の手伝いしなきゃいけなくて」

実家が家業をしていて家の手伝いをしているということはそれも立派な仕事をしているということだ。

なかなか高校生募集のバイトがない求人を見て、晶子は実家が家業をしている栗山圭の家を羨ましいと思った。家に仕事があるからだ。

しかしそれは圭にとっては家族はほぼ手伝いという名目で仕事をすることになるので給料はあまりもらえてないということは晶子には知る由もなかった。

圭のしていることはあくまでも「仕事」ではなく「手伝い」なのである。

しかしそれでも登校日以外は毎日自分に割り当てられた役目をしているということである。

やはり通信制高校に通う者はみんな何等かの仕事を持っているのだ。

圭は普段家の手伝いを毎日しているとのならアルバイトをしていなくても仕方がない。

自分だけが平日に何もしていない。前の女子高と同じようにまたもや自分だけが回りから遅れているという実感を持たされる。

一刻も早くバイトを探さねば、と晶子はますます求人を探した。


アルバイトとなると間違いなく接客をすることになる。

元々人嫌いでコミュニケーション能力が低い晶子にとっては接客なんて自分にはできるだろうか?と不安になった。

しかし高校生を募集している仕事の大半は接客業しかない。

それしか仕事がないのであればそれをするしかない。

もし接客をしてみてそれで人嫌いを克服できるのであればそれも晶子にとってはプラスになる。

晶子は男性が苦手だが接客のバイトをすることになれば間違いなく男性との接触は避けられない。

店員も男性であれば客も男性なのである。

いよいよ仕事をするという立場になれば今までのように男性を苦手、とは言ってられないのだ。

しかしバイトは嫌なことを我慢した分だけ給料というご褒美がある。

その為には苦手なことも無理やり克服する時なのである。

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