第20話 何もかも失って


そうしているうちに学校から連絡が来た

欠席が多くこのままでは進級までの出席日数が足りなくなってくるとのことだった。

そして試験も受けていないので単位が取得できない。

これでは今のままだと二年生に進級できないとのことだ。


このままではいけない、となんとか学校へ行こうとした。

朝起きて、制服を着る、しかしいざ自室を出ようとすると足が震えるのだ。

もしも今更学校へ行けばクラスメイトにはどんな目で見られるだろうか。

友人からは何度か連絡が来たのは知っていたが晶子はそれらには返信をせず、無視を決め込んでしまった。

すでにあの友人達にはあきれられているかもしれない。

元々クラスメイトでよくしゃべる方ではなかった自分が今頃学校に行っても居場所はないのかもしれないという恐怖が付きまとう。

また再び一学期のようにクラスの中で孤立した時間を過ごすことになるのかもしれない。

そう思うと恐ろしくなって家を出ることすらもできなかった。


 このままいけば留年は確定である。

留年してあの華やかな女子高の学年で一人だけ年上の状態で再び一年生をするのは嫌だ。

ただでさえ居場所を作るのが難しいあの学校でもう一度同じ学年をやり直す、それは恥でしかない。

行きたくて行きたくて仕方がなかったはずの女子高であったのにそんなことになるという屈辱は晶子にとっては情けないという気持ちと自分のせいだから仕方ないという気持ちがかかった。

 頑張って勉強して志望校に合格できたのに一年足らずでこの結果だ。

 せっかくできた友達も、うまくいっていた学校生活もすべて台無しだ。

 失ったものが大きすぎて晶子にはもう希望がなかった


死にたくてたまらなかった、もう行く場所もなかった


「摂食障害になんてなってバカみたい……」

ある日、死にたくて死にたくてという想いのあまり台所から包丁を持ち出し、自室で自分の首を切ろうとした。


死にたくてたまらなかった、もう行く場所もなかった、それならもうこの世にいない方がましだ。

今後も過食嘔吐がやめられないのであればどうせ自分が生きていても無駄に金を消費するだけなのだから、いっそ死んだ方がましかもしれない。

もうこのまま生きていても、元の場所に戻ることは無理なのだから、と


しかしいざ自分の喉元に包丁を当てると、間違いなくこれをしたら痛い、という気持ちが沸いて来た。

そう思うととてもだが恐ろしくて首を切って自殺などできない。

晶子は包丁を床に置いて呆然と刃を見つめた。

包丁の側面には晶子の情けない顔が映り出していた。

「私って何の為に今まで生きていたんだろ」

子供の頃から太めの体型だった。だから中学時代は痩せたくてバスケ部に入った。

しかし部活を引退すれば体はまたリバウンドし、高校入学の頃にはまたもや太っていた。

そして高校では自分を変えようと決心して必死でダイエットをして自分は変われた、外見もイメージチェンジを果たしもう今までの自分じゃない、大人になったんだと本気で思っていた。

だけどそれはただの自分の中だけの自己満足で、結果的には精神を暴走させて拒食を繰り返した上で過食に陥り、結局は摂食障害だと診断される。

得たものは何もなく、かえってマイナスな状況を生み出しただけなのである。


こうして学校に戻ることを拒み、このまま梅沼女子高を退学することになった。


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