第9話 女子高生の休日
そんな新しい展開が起きてからは順調な高校生活が続いていた。
金曜日の夜、さっそくグループラインで連絡が回ってきた。
晶子を新たなメンバーに迎え、この四人でいつでも話ができるようにグループラインを作成したのである。
「ねえ、明日の土曜日、このメンツで遊びに行こうよ」
「いいね、晶子ちゃんも入れて記念のプリクラ撮ろう」
「うちらのグループの晶子の新入り祝いだね」
そんな会話が飛び散り、晶子は流されるままに日曜日に梨乃達と遊びに行くことに同士してしまった。
学校以外の場所で休日に同じ学校の友達と遊びに行く。
それは願っていた理想の高校生活だった。
ようやく念願が叶ったので嬉しくてたまらないまずなのに、かえって不安もあった。
いきなり仲良くなったばかりでヘマをしないだろうか、学校以外の場所で会っても大丈夫だろうかという不安だ。
晶子は高校生になってから一度も友人と遊びに行ったことがない。
女子高生にとっての外へ遊びに行く、という感覚もドラマや漫画の世界で見ただけの範囲しか知らないのである。
不安になりつつも、学校で会う時と同じノリならなんとかあるか、とたかをくくっていた。
そして約束の日曜日が来た。
晶子の住んでいる県は首都圏から離れており、周囲には都会と呼ばれる若者が集まる場所も特にない地方都市だ。
なので高校生の遊ぶ場所というと買い物ができるショッピングセンターか地方にしては店が集まっている県庁所在地の駅周囲の繁華街になる。
駅前の繁華街で遊ぶことになり、電車で来る晶子にも待ち合わせしやすいようにと駅の構内の改札口の前で三人と待ち合わせすることになった。
待ち合わせをしていた場所に晶子は早く来た。
駅の改札口はどこかへ行く人人がたくさん出入りしている。
休日でも仕事に出かけるのかスーツを着たサラリーマン、どこかへ遊びに行こうとしている家族連れや学生の群れ、年老いた夫婦など様々な人が通り過ぎていく。
その雑踏の中で晶子は不安気に一人待っていた。
私服は中学時代に部活動をしていて痩せていた時の服を着てきた。
晶子は高校に入学してから新しい服をあまり買っておらず、今は中学時代の服を着るしかなかった。
鞄も通学以外に私服の際に使う鞄は中学生の時に部活合宿用に買ってもらった小さめのリュックしかなかった。
この服でいいかな、と学校の外で友人と会うことに、学校の制服じゃない私服姿の三人がどんなファッションなのかも想像できなかった。
中学を卒業してから友人がおらず、一人で過ごしてきた晶子には一緒に服を買いに行く相手もおらず、ただ中学時代と同じように母親が買ってきた服を着るだけだった。
つまり晶子のファッションはまだ中学時代からそんなに変わっていないのだ。
まだ高校生になってからこれまでの間にファッションを磨く時間もなかったのである。
「あ、晶子、いたいた。お待たせ―」
三人は同時に待ち合わせ場所に来た。
集合した場所で私服姿の三人を見るとなんとも女子高生らしい最先端のファッションにばっちりメイクだったのだ。
学校指定のシューズやぺったんこのローファーではなくヒールのついたサンダルやブーツを歩いてぐらつくこともなく履きこなし、学校の制服とは全然違うワンピースやロングスカートに、ブラウス、明るい色調のファッションで、それが似合っている
まさに女子高生向け雑誌にあるようなファッションだ
三人とも鞄も晶子の持ってるような背中に背負うリュックではなく、大人の女性が持つようなハンドバッグである。
顔にはファンデーションを塗っているのか輝かしい肌で目元はばっちりマスカラとアイラインがひかれていて唇もしっかりリップを塗っているのだ。
学校では校則を守って制服を着こんでいてノーメイクで校則通りのスタイルな友人達は私服では女子高生らしい、それもそれぞれ自分に似合うコーディネイトを極めているファッションだったのだ。
学校での姿は校則という校内の規律を守っているだけの仮の姿といわんばかりに私服姿ではまさに「年相応の女子高生らしい」格好だった。
晶子は今まで中学時代では部活に明け暮れて全然ファッション方面には無頓着だった自分をなんて遅れているのだろう、と思った。
中学から高校生になるとここまで女子は変わるということすら知らなかった晶子にとっては今までは井の中の蛙状態だったことに恥をかいた。
中学時代の子供っぽい衣服を着てきた自分がとても恥ずかしくなったのだ。
「じゃあ行こうか、まずはどこ行くー?」
晶子のファッションは中学生の子供の洋服といったださい私服に見えたが三人とも優しさなのか晶子のファッションについては口に出さなかったことでなんとか体裁を保てた。
歩きながら梨乃が聞いてきた。
「晶子ってメイクとかしないの?目とかアイメイクすればもっと可愛くなるのにー」
メイクをしたことがない晶子にとってはいまいち共感できない台詞だったが晶子は答えた
「中学校はメイク禁止だったし、学校でも校則できないからしてないかな」
そう言った途端三人の目が輝いた。
「じゃあさ、じゃあさ、これからは遊びに行く時だけはメイクすればいいじゃん! 学校とプライベート分けるって意味で! ばっちりメイク教えてあげるよ!」
「じゃあまずはコスメから買いに行こう!」
言われるがままにその流れについていくことになった。
晶子はどこに化粧品が売っている店があるのかも知らなかったが三人はよくこの周辺も来ているのか慣れてるように店へと歩いていく。
みんな晶子に付き合ってくれてる、晶子の為に行くのだそう思うと嫌とは言えなかった。
四人で駅前のショッピングモールにあるコスメ売り場に来た。
初めて行く化粧品売り場という場所に晶子は緊張していた。
化粧品売り場は若い女性客が複数いた。
棚には色とりどりの口紅やファンデーション等がが並んでいたが今の晶子にはそられをじっくりと目で見る余裕がなかった。
今まで化粧というものは母親がするのを見ていたくらいで自分がするというイメージが沸かないのだ。
それに化粧品売り場にいる人々は店員含めお客さんもばっちりおしゃれなファッションで固めている人ばかりだ。
中には晶子達と同じ年のような女子高生らしきグループもいるがみんなメイクをばっちりきめていて大人びていた。
こんな場所に来ると自分は場違いなファッションだとますます思い知らされる。
「あたしこれ使ってるよー」
化粧品の陳列棚で富美がさしたファンデーションは三千円もするものだった。
晶子の月々の小遣いは五千円なのでこれ一つ買えばもう一カ月のお小遣いの半分以上が飛んでしまう。
「まず下地も買わないとね。それとマスカラとアイシャドーもチークもね」
「あいしゃどー?ちーく?」
高校の入学式の前に女子高生の流行を追うためにとファッション誌を読んでいた晶子だが結局入学してから数か月間その知識を使うこともなかったがためにメイク方面には疎くなってしまった。
化粧品の知識のない晶子は友人達が言葉に出す単語が理解できなかった。
「こっちのリップも晶子にいいと思う。やばい、この新色めっちゃ可愛くない!?」
「それと化粧するならお肌のケアする為の美容院も買わないとね。化粧水とか乳液とか!」
「じゃあ次はドラッグストアだ!」
晶子はメイク初心者ということで初心者向けの化粧品をいくつか購入すると、次は肌のケア用品を購入するために今度は駅構内のドラッグストアへ行くことになった。
この時点で晶子の財布に入っている所持金はすでに半分が消えていた。
今日は初めての高校の友達と遊びに行く!と楽しみにしていたのでお金も多めに持ってきたはずだったのだがそれは焼け石に水で一瞬で使ってしまうのである。
その次は服を買いに行くことになった。
来たのは駅の繁華街にあるティーンズ向けファッションの店だ。
晶子は普段は服の専門店にはいかない。いつもは主にスーパーの横にあるようなファッションセンターの衣類コーナーで服を買うような晶子にとっては初めてのことだらけだった。
中学校の部活を引退してから高校入学した今までは太目な体型だったこともありLサイズの服しか着ることができなかったために服の種類も選びようがなかった。
流行の最先端のファッションはどうしても痩せ体型向けの小さめサイズしかない。
なので今まではティーンズ向けの衣装は選びようがなかった。
こういう店に来れるようになったのも晶子がダイエットの結果痩せたので流行りの小さめの衣装も似合う体型になったからである。
「ね、ね、これ買いなよ!きっと晶子に似合うと思う!」
フレアがたっぷり入ったスカートを勧められた。
基本的におしゃれに無頓着な晶子は学校の制服以外でスカートをはくことはあんまりなかった。
「こっちのブラウスと合わせればばっちりコーデじゃない?」
「じゃあこれとこれで合わせて着てみなよ」
晶子は友人にオススメされた試着室で服を着てみた
「可愛いー! やっぱ晶子に似合うわー!」
「こういう服買ったなら、今度は靴もどうにかしないとね。せっかくこんなコーデしてるのに、シューズじゃ似合わないよ、やっぱヒールだよ!」
一通り服を買いそろえたら今度は靴屋にも行くことになった。
晶子はシューズしか持ってないのでヒールのある靴など履いたら歩けないのでは、と心配になったが「おしゃれするならやっぱ足元も美しく見せるヒールがいい」と言われ、買うことになったのだ。
「じゃあねー晶子。月曜にまた学校でねー」
夕方になり、帰る時間になったため友人達と駅で別れ、今日買った衣類や靴などの友人達のコーディネイトによる服に着替え、さらにメイク講座を受けて顔も変わった晶子は電車の中でようやく一息ついた。
女子高生らしいプライベートとはなんとも疲れるものである。
しかしようやく女子高生らしい一日というものを過ごせた。
買い物の後に撮影したプリクラを見ながら晶子は一日を振り返った。
プリクラの中には四人のきらびやかな女子高生が並んでいる。
友人のコーディネイトに身を包みメイクアップした晶子がポーズを取っている。
どこかまだ初心者丸出しだがこの中に馴染んでもいいくらいに自分の外見は今までよりファッションによる輝きが増しているように見えた。
これもダイエットしたおかげなのだ。だからこそみんなと仲良くなれた。
みんなメイクやファッションにお金をかけている。それがわかった一日だった。
化粧品はどれも高く、一通り買いそろえるだけで一万円は超えてしまった。
衣服や靴を買うのにも今日だけで三万円は飛んだのだ。
今まで同じ高校の友達と遊ぶ機会がなかったので高校入学以来使わずにため込んできたお小遣いもあっという間に一日で使い果たしてしまった。
化粧品など一つだけで軽く二千円はするものをみんなおしゃれの為に買っているのだ。
晶子の月五千円の小遣いではファッションに使えばすぐなくなってしまう。
梅沼女子高はアルバイトが禁止の高校なのでみんなバイト代などあるはずもないがやはり自分のお小遣いでやりくりしているのだろうか。
友人三人は学校に持ってくる所持品からして立派なブランドものばかりで家が裕福なことがうかがえる。
晶子のようなごく普通の一般家庭よりもやや金銭的に余裕があるのか、それとも影ながら貯金を崩しているのか。
それでもおしゃれの為に、自分を磨くためにこそ目一杯おしゃれに使うのならばお金は無駄ではなく自分磨きという有意義な使い方だ。
今の晶子にとってはノリを合わすことだけで頭がいっぱいでそこまで考えられなかった。
新しくできた同じ学校の友達はすでに金銭面などは違う部分もあるかもしれないが、一人でいるよりはマシなので自分もある程度そのノリに合わすことも大事だろうとそこは割り切った。
郷に入れば郷に従え、ということわざもある通りこちらが合わせることも大事なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます