第10話 新たな目標
翌日の日曜日、晶子は大幅なイメージチェンジをはかった。
痩せてファッションも変えるなら今のままではいけない、と思い晶子は小学生時代からずっと伸ばしていた髪の毛を切った。
学校では校則違反と注意されない範囲でナチュラルメイクを施し、そして眼鏡はコンタクトレンズにして髪型も外見もスポーティーな印象の爽やか女子高生にイメージチェンジを果たしたのだ。
こうして外見を変えることで過去の自分とはお別れして一気に階段を駆け上がり新しい自分に生まれ変わった気分になれる、そう思った。
まさに女子高生としてランクアップした、この学校にふさわしい女子生徒になれた。
ようやく手に入れた理想の高校生活だった。
そして月曜日に自分のクラスの教室に入るやいなやイメージチェンジで姿を変えた晶子を見てクラスメイト達は晶子を囲み「清野さん、かっこいい」「かわいいー」「すっごくイメージ変わったね!」とちやほやした。
これまでクラスの誰からも一切相手にされなかった自分が今はその中心にいる。
痩せたことでちゃんと自分のことを見てくれる人も表れたのだ。
これまで晶子を一切眼中に入れなかったクラスメイトも痩せてイメージチェンジした晶子を褒めたたえた。
ただ、球技大会で晶子の悪口を言っていた野富のグループは相変わらずイメージチェンジをした晶子にはなんの反応も示さなかった。
それでも晶子は野富には「私、変わったでしょ?」と見せつけるばかりに少々優越感に浸っていた。
元はと言えば野富が「デブ」だとか陰口を叩いていたからダイエットをしようというきっかけにもなったわけなのであながち野富のおかげでもある。
晶子は気分が良くてたまらなかった。
二学期の体育祭に向けて最近の体育の授業は晶子のクラスである一年C組と隣のクラスのD組の合同で行われる日が増えて、体育の授業前や後の女子更衣室は二クラス分の生徒の人数で常に満室だった。
ただでさえ一クラス三十人の学級でも多いのにそれが二クラス分の生徒が一度に同じ更衣室で着替えるのだ。
梅沼女子高の更衣室はそんな学校行事の際にも二クラスの着替えも同時にできるように為に更衣室のロッカーが七十個は配置されている広々とした大きな更衣室だった。
とはいえそこそこ広い部屋を一度に六十人者の女子が着替えるとなるとやはり狭く密集していた。
密集した女子だらけの空間の中でおしゃべりが響く。
「前の身体測定どうだった?あたしちょっと体重増えて」と声が聞こえた。
どうやら始業式に行われた身体測定の結果を話している者がいるようだ。
晶子はあの時に続いてまたしても今回は心の中で内勝ち誇った気分だった。
夏休み明けに夏太りした、とか太ったとか言ってる子がちらほらいるなか自分は大幅に痩せたのだ。
しかもさらに同じクラスで馴染むことができたのだ。
「ねえねえ、みんな晶子はすごいんだよ!入学式の四月から今にかけてダイエット頑張ったんだって。めっちゃ体重落ちたんだって」
梨乃がその話題に加わり晶子のことを持ち出したのだ。
以前はダイエットのことを周囲に隠していた晶子だったがもう終わったことなのでと普通に梨乃達にはダイエット方法を話していたのだ。
「ええ!? その短期間で体重かなり落としたの!? たしかに足とか細くなってるね」
「清野さん頑張ったんだー!」
今までクラスメイトの話題にすら入れなかった自分が今はクラスの話題の中心になっている、そのことが快感でたまらなかった。
一学期は誰一人として晶子を眼中にも入れなかったクラスメイト達が今は晶子を尊敬のまなざしで見つめているのだ。
「えー、でもそれならうちのクラスの子にもっと痩せてる子いるよー」
そこへ同じ更衣室で着替えていたD組の女子が晶子のクラスの生徒達の話題へと割り込んだ。
「うちのクラスの静子はもっと痩せてるよね」
話題に入ってきたD組の女子はうちのクラスはもっとすごい、とばかりに自慢くらしく言った。
「ねえ、静子?」
その静子と呼ばれる着替えていた女子に話しかける。
「えーそんなことないよー」
静子と呼ばれた女子は謙遜のように言った。
晶子は初めて会う静子という女子の姿を見た。
静子の身長は自分と同じくらいだった。つまり身長は百五十七センチほどだろう。
着替え中の下着姿の彼女の体はたしかに全体的にほっそりしている。
ウエストもきゅっと引き締まっていてそれでいて胸はしっかり出ていて水玉のブラジャーがささえている胸はちゃんとある。
お尻は引き締まっていてブラジャーとおそろいの水玉のショーツがとても似合っている。痩せていながら出るところはちゃんと出てるというまさにモデル体型だ。
分と同じ身長でありながらもっと痩せている子がいるのか!と晶子は衝撃を感じた。
「静子は体重何キロだったっけ?」
そう聞かれると静子は照れた表情で笑った。
「えー、恥ずかしいなあ。みんなの前でいうの。別にダイエットしてるわけじゃないんだけどー」
恥ずかしい、といいつつ静子は答えた。
「あたし、四十五㎏だよー」
(私よりも……軽い!)
晶子にはその台詞を聞いた途端他の女子達の声がもはや聞こえないほどに衝撃を受けた。
視界が一瞬真っ白になるほどの衝撃だった。
あれだけ頑張ったダイエットの成果で入学当初の五十六㎏が四十八㎏になったことより、春より八㎏も体重が減ったことで。、自分はとても痩せたのだと思い込み、一人浮かれあがっていた。
成果も出て夏休み明けの身体測定には結果が出た。
数か月間空腹に耐えて苦労して減量をしたというのに身体測定でもっと軽い子は「四十五㎏」で自分より体重が少ない。というのだ。
しかも彼女は別にダイエットをしていないという。
みんなの前で見栄を張って嘘をついているのかもしれない、本当は裏で努力してダイエットをしているのかもしれないが、そんなことは今の晶子にとってはもはや考えられなかった。
自分と同じ身長でありながら自分よりもっと体重が軽い子がいる。
その事実だけでも晶子にとっては闘志を燃やすには十分だった。
晶子はただ一つの執念が燃え浮かんだ。「もっと痩せねば」そう思ったのだ。
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