第3話 球技大会
五月に入ると体育の授業はバレーボールや卓球の練習になる。
私立女子校で進学校とはいえ勉強以外の授業である学校行事は結構あった。
六月には球技大会があるのだ。その行事に向けて体育の授業は球技大会でやる予定である競技の練習が多くなってきたのだ。
この日体育の授業は球技大会のチームを決めることになった。
クラスメイト一同が体操着に着替え、体育館の前方は白い半そでとジャージのズボン姿の女子生徒で埋まる。
「じゃあ今日は球技大会の参加チームを決めまーす」
女性の若い体育教師の声が指揮をとる。
「前のボードに希望する種目のとこへ名前書いていってくださいねー」
そう指示されて体育館の前方に設置されていたホワイトボードにクラス一同の女子が次々と名前を書き込んでいった。
「球技大会、嫌だよねー」
「あたし一番簡単な卓球にしようかな?」
「恵理子は何の種目選ぶの?」
ボードの前には女子生徒達が群がり、ワイワイと参加種目を選ぶ会話が聞こえた。
五月の初夏ということもあり、やや蒸れるように熱い空気のこもった体育館で女子高生のキャーキャーした声が響く。
女子高だけあって体育の授業が行われる体育館も当然女子ばかりである。
体操服を着た女子生徒達が一通り参加種目を決め終ると、それぞれの生徒が参加競技の練習をするために各自卓球台やバスケコートの前に行った
晶子は中学時代の部活動の経験から参加希望競技はバスケットボールを希望したがバスケットボールは残念ながら希望者が多く、ジャンケンの結果晶子はバレーボールになった。
「バスケの方が得意なんだけどなあ」
そう思いながら惜しむようにバスケットコートを見た。
そこではクラスメイト達がバスケットボールの練習を始めていた。
得意分野ではないバレーボールになったこともあり、晶子はちょっとだけ不機嫌だった。
しかもクラスで親しい仲の友人がいない晶子にとっては特に仲が良いわけでもないクラスメイトとチームを組まされた。
そのうちの一名は野富育江という名前で少々きつい雰囲気のするショートカットの女子生徒である。
今日の体育はさっそく球技大会に決まった参加種目の競技の練習なのでその野富も含む他の女子とも合同でバレーボールのチーム練習だ。
これを機会に同じチームになった子と仲良くできないかという希望を持った晶子はなるべく積極的にチームメイトに自分から声をかけようと努力した。
「じゃあバレーの人こっち来てー練習始めるから」
その教師の呼び声の元にバレーボールを参加種目に決めた生徒達が集まる。
バレーボールのチーム集合で晶子は野富の横に立った。
「よろしく。野富さん」
晶子は愛想よく声をかけた。
「はいはい、よろしくよろしく」
そんな晶子に対して野富はややめんどくさそうに覇気のない返事をした。この球技大会の練習が面倒とばかりにやる気のない態度だ。
「同じチームになるの、初めてだよね。球技大会、楽しみだね」
そんな野富に晶子はなんとか話を取り持とうと話題を持ちかける。
「別に……。欠席すると単位もらえないから参加するだけだし」
晶子に対して野富の返答はどれもやる気のないものでどこかツンツンした態度を含んでいた。
すでに「別のチームに仲がいい子がいるのであなたとは特につるむ気もありません」といわんばかりの晶子には興味なさげな態度だった。
思った通りになかなか今までしゃべったことのない相手と交流するのは難しいものである。
もしかしたら映画やドラマのように最初は仲が良くなかった者同士でも同じチームになったことがきっかけで共に行事を過ごしたことにより話す機会が増えて仲良くなれるかもしれない、と思った晶子は必死でこの球技大会ではミスができないと自分なりの努力をしようと心に決めた。
これはもしかしたらクラスメイトと仲良くするチャンスなのかもしれないと思ったからだ。
しかし現実はやたら空回りなことばかりである。
元々バレーボールは他の種目を希望したがその希望種目が定員になって仕方なくこのチームに配属された者の集まりということもあってかみんな真剣ではなかった。
「うわ、次こっちくるわー」
やる気のない生徒達はボールが自分のところへ来るだけで面倒そうな声だった。
ボールがまわってきてそれをトスすることができなかった生徒には「ドンマイ!」と声をかけたりした。
なんとか晶子がチームメイトに話しかけようとしてもチーム一同あまりやる気のない態度だ。
仲が良い生徒と違うチームに組まされたことも不満な者もいるのか、それとも球技大会という勉強の関係ない行事にはあまり取り組みたくないのかよくわからないが、とにかく他の種目のチームほどやる気がない。
同じ体育館では卓球やバスケなど他の種目を選んだ生徒達はワイワイと盛り上がっている中、このバレーボールだけはいまいち盛り上がりにかけた。
結局この空気のまま残り日数で授業の練習も迎え、その後の体育の授業もこの調子から変わりはなかった。
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