第4話 球技大会当日


結局晶子は球技大会までに同じチームの誰かと仲良くしよう、という目標は達成されなかった。

チームのメンバーがやる気のないつっけんどんな態度を取っており、必要最低限な会話はするが特にそれ以上弾むこともない。


体育の授業が終わると更衣室や休み時間でそれぞれ他のチームの仲の良いクラスメイトとしゃべる。

どうやら同じチームになったからといって普段つるまない生徒としゃべろうという生徒はあまりおらず、皆授業だから仕方なく組んでる、という感じだった。





そして球技大会当日が来た。


 晶子の所属するチームは午前の部の試合に出ることになっていて球技大会開始の時点でさっそく出番が来た。

女子校らしく体育館は一面全員が女子生徒のみで構成される球技大会は参加者も応援者も全員女子だ。

体操服に身を包んだ女子生徒達がコートをかけまわり、スポーツに従事していた。

「がんばれー! ファイト―!」

バレーボールのコートの前に他の種目に参加予定の生徒は応援に徹していた。

 女子特有の黄色い声の歓声に包まれた体育館は熱気があった。


 晶子はその中で今、バレーボールのコートにいる。

 その応援は自分にも向けられているのではないかと思うと晶子の体も今はクラスメイト達の視線に入っているのだ。

ここでかっこいいところを見せればクラスの子達のみんなの前で活躍したところを残せる、そう思った晶子は気合を入れた。


試合開始の合図が出され、ボールが上に飛ぶと選手がボールに手を触れた。

ボールは晶子のチームに落ち、試合が始まる。


試合は順当に進んでいた。

前半ではこちらが優勢で点数を取っていたがローテーションで晶子は後列で真ん中の配置になった。

それぞれの場所に立った選手がボールをトスして頭上に投げていると、ボールが晶子よりも左に飛んできた。

トスしなければ!と晶子はなんとか体を左側に動かしてボールを取ろうとしたが足に痛みを感じた。

「痛っ!」

どうやら足をひねったらしくそのまま左側にいたクラスメイトの木下久美子にぶつかり二人ももろとも転倒してしまった。

晶子の太目の体が隣にいた木下をを巻き込んで派手に転んだ。

「ストップストップ!」

 審判が試合を止める声が響いた。

選手負傷による緊急事態に試合が中断する。

  バレーボールの参加者だけでなく応援していた生徒達の視線が一挙に晶子に移る。

 晶子は心の中で「まずい!」と思った。

よりにもよってみんなの前でミスをしてしまった。

 真面目にやっていたつもりがミスということでマイナスの印象になってしまう、突然そんな恐怖が心を支配していた。

しかもチームメイトを巻き込んだ。これでは木下さんに嫌われてしまう! 

その焦りが晶子を襲った。

「二人とも大丈夫?」

すぐに審判が駆け付ける。

「はい。私は大丈夫です」

晶子とぶつかった木下は転倒から立ち上がった。

晶子にぶつかられた木下はどうやら負傷することもなく無事だったようだ。

「清野さんは?」

そう言われ立ち上がろうとする。

「大丈……痛っ!」

チームメイトに怪我を負わせていないことにホッとした晶子だったがいざ自分が立とうとすると右足に激痛が走った。

「ダメかな……足、ひねったみたい」

晶子がそう告げると審判は救護チームを呼ぼうとした。

「負傷です、保健室連れてってー」

 救護チームを呼ぼうとする審判に晶子は断った。

「いいです、一人で保健室行けます」

激痛はしたがなんとか立てないほどではないのでこれなら一人で歩いて保健室へ行ける。

それよりももうこの場にいたくない、一人になりたいというのが本音だった。

ただでさえミスをしないように気を配っていたことがマイナスになることにより、周囲からどう思われるのかを考えるとすぐにこの場を立ち去りたい気分だった。

晶子は一人になるチャンスとばかりに一人で立ち上がり、体育館を出て保健室へ向かった。

とにかくあの場所から逃げ出したかった。


 保健室にたどり着くと養護教諭が応急処置を施した。

女子高の養護教諭らしく若くて綺麗な優しい女性の先生だ。

「捻挫ね。湿布貼っておくから」

養護教諭の適切な処置により、晶子の足は大したことがなかった。

「気を付けてね。今日この後も試合あるの?」

晶子はその優しい先生の言葉により、一瞬だけ安息を感じた。

「いえ、今日はもう私の種目は終わったんです」

「じゃあ午後は見学で他のチーム応援してね。無理しちゃだめよ」


 怪我による退場で自分の出る試合は終わり、午後は見学、となって晶子は自分の出る幕が終わった後でよかったと胸をなでおろした。

しかしよりにもよってあんな大勢の前でミスをしてしまうとはと後悔が出てきた、

しかもチームメイトにぶつかってしまった。大層クラスメイトの前では恥をさらしてしまった。

試合の時には活躍を見せる!と張り切っていたのに実際は大きな痴態を晒したのである。

このまま体育館に素直に戻りたくないな、と晶子は思った。どうせあとは応援だけなのならばじっくり休もうと思った。


とはいえ晶子にはこの学校で親しい友人もおらず、たった一人であの体育館に話す友人もおらず一人きりで誰かを応援することになる。

それは想像しただけでむなしい光景だ。

大抵球技大会は自分の試合がない間は生徒たちはみな親しい相手と自分の出番を待ちながら他の試合を応援する。

このまま体育館に戻っても居場所はないのだ。


「あ、更衣室に水筒置きっぱなしだ」

 そう思い、晶子は理由をつけて体育館に戻らず更衣室に行くことにした。

応援する際には水筒を横に置いて休憩時間に飲むことが許可されている。

晶子の出る試合は午前の一番最初だったのでまだ応援することを考えずに水筒を更衣室のロッカーに置いたままだった。


晶子は更衣室へ水筒を取りに行った。

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