第2話 念願の高校生活は

私立梅沼女子高校の校舎は広い。


私立だけあって校内の建設にかけるお金も一般の高校よりも豪華であり、外側から見ても立派なら校舎に広い体育館、南側には音楽室から美術室などの授業の為の教室と部室錬が並ぶ、広い校舎だ。


女子高とだけあって校舎の中にもいるのは辺りを見回しても女子ばかりである。

「ねえ、お昼食べに行こう」

「今日学食行かない?」

「購買行こうよ」

華やかな女子高生たちが友人とわいわいわめき合う教室。

一クラス三十人ずつで構成さえる学級の教室はその三十人分の机が並びどこも女子だらけだ。

「午後の授業マジだるいー」

「ねえねえあの課題やってきた?」

新品の制服に身を包んだ新一年生の教室はみんなきっちりと指定の制服を着ていた。

そんな広い校舎の女子高生だらけの校内の一年C組の教室で晶子はただ一人ポツンと、自分の席で誰とも話すこともなくもそもそと母が作ったお弁当を食べていた。

入学して二週間が過ぎたこの時期、クラス内の交友グループはだんだんと固まってきた。しかし 晶子は入学式以来クラスの誰とも話せておらず、どのグループにも所属していなかった。

 梅沼女子高等学校は梅沼女子中学校からエスカレーター式で繰り上がり式の中高一貫校である。

県内でも唯一の女子校であり、中等部から中学受験で入学したものが多い。

 元々中等部からの内部進学者が七割を占めるこの学校では外部受験組が少ないこともあり、四月の入学式の時点からすでに内部組同士での友人グループができあがっていた。

中等部からの進級組の大半はすでに仲良しグループができ合っていてそこへ外部受験組が加わる、という形でクラスの中の交友グループはすでに確定していた。

そのどこにもまだ晶子は入ることができなかったのだ。

最初の頃はまだなんとか話しかけようと自分から動いていたが元から仲が良かったグループに話しかけることは困難だった。

お昼ごはんを一緒の食べようと話しかけようにもやはりお昼になれば全員がどこかへそれぞれの固定された仲間関係同士でどこかへ食べに行ってしまうので仲間に入れない。

仕方なく教室で一人で昼食をとっていると他の者から「あの子一人で食べてる」「友達いないのかな」と噂されないかと常に視線が気になり、教室にいるだけで苦痛になっていた。

休み時間ごとにクラス内の生徒はそれぞれ仲が良い者同士で固まる為に晶子は誰とも仲良くできない自分が嫌になり、授業が終わるごとの毎回の休み時間ですらも教室にいることが辛かった。

行きたかったはずの高校に進学できて嬉しかったはずなのに現実は理想とは大きく違った。

昼休みのがやがやした空気の中であるグループの話し声が聞こえる。

「昨日さーバスに乗る時、中学生の集団が乗ってきてさー。ひたすらアニメの話ばっかしてたわ」

「よくわかんないけどクリス様かっこいいとかキャラクターの話とか外ですんなっつーの。痛いわー」

「マジでアニメとか話とかやっぱガキだよねー。そんなもんとっとと卒業しろっての」

この学校は女子高ということで男子がいない為か趣味に対しても辛口な女子生徒もいる。

それらの子供っぽい趣味を持つ者をやや見下す者もいるのだ。

もちろんそうではない生徒もたくさんいるはずなのだが、残念ながら晶子と趣味の合いそうな性格の子は今のところ見つけられていない。

晶子が好きそうなアニメ関連の話題を避ける傾向がある。

そのことに晶子は万が一自分がそういったアニメなどを好いてる趣向があると知れればどんな目にあうか、と想像するだめで恐ろしかった


さらに私立ということもあり、学費が高い学校だけあってここに来る生徒は家が裕福で育ちもお嬢様らしき子が多い。

まずすでに使っている文房具など所持品が明らかにレベルが違う。

晶子はノーブランドの一般的な文房具を使用しているが周りはどこかのブランド品ばかり使っている子達ばかりだ。

すでに生活レベルが違うと嫌でも認識させられる。

晶子の家も比較的裕福な家庭ではあるがお嬢様といったほどの家庭ではなかった。

たかが一般家庭レベルの自分がなんとも場違いなところに来てしまったのではないだろうかと思った。

晶子はそう思いつつ昼食を食べながら学校で配られた指定問題集で授業の予習をしていた。


問題はもう一つあったのだ。

この学校は進学校だけあって授業の単元が進むペースもとても速く難関だ。

中学校の授業レベルでは比べ物にならないほど授業のスピードも速く難しい。

中学校では成績が良かった方の晶子にとってもこの学校の授業は難しく毎回授業についていくのが精いっぱいだった。

周囲はすでに中等部からこの学校にいた生徒ばかりで中学入学当初からこの環境にいたクラスメイト達であり、普通の中学校にいた自分と中等部からこの学校にいた者とではこんなにも差があるのかと驚いた。


入学以来、晶子にとっては日々授業についていくだけでもいっぱいいっぱいだった。

入学式の翌週からすでに最初の試験があり、その成績も順位的にはクラスの下の方で最初から圧倒的な周りとの差を見せつけられた。

晶子にとっては学校の授業だけでも厳しく、家に帰ってからは宿題をやって予習と復習をするだけの日々になっていた。

ただでさえ授業について行こうとするだけでも大変なのにこれでは部活動など放課後に時間を取る活動などできる余裕もない。

放課後に部活動をして帰る時間が遅くなったりすれば宿題をする時間も予習と復習をする勉強時間がなくなってしまう。 

中学時代のように部活動による運動を毎日することができないのだ。


「どうしよう、このままじゃますます運動できない……」

受験の際に部活動を引退して運動ができなくても高校に入学すればまた中学時代のように部活を始めてそれで運動をすれば痩せる、と思っていた晶子には思い通りにならない今の生活はまさに追い詰められた環境だった。


同じ学校に仲の良い友人ができない、勉強が厳しい、部活動ができない、それらの苦悩は晶子にとっては苦痛なものばかりだった。


新しい学校生活は晶子にとっては明るいものではなかったのだ。



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