第34話 ご帰還、国境の町


 バイクを走らせながら、レックは目を細めた。


「夕日が、まぶしいぜ」


 目を、細めていた。


 レックは、サングラスでも買おうかと、真剣に悩んでいた。

 風除けのためのゴーグルは購入していたが、太陽光線からは守ってくれない。いいや、ややSFの世界である。ダイアルを調整することで、サングラスになったり、暗視ゴーグルになったりする、SFよりのゴーグルがあっても、おかしくないのだ。


 夕日の逆行のせいで、目の前が、とってもまぶしかったのだ。


 レックは、少しだけスピードを落とした。

 街道には、人に馬車にと、旅人に行商人と、その他が行きかう。バイクが突撃をすれば、大変だ。

 モンスターが大量発生すれば、もっと大変だ。


 そのために、レックに急ぎで、依頼が入ったのだ。

 そうして出発したのが、今朝のこと。バイクのおかげで、数時間の距離である。運がいいのか、さっそくモンスターと遭遇したレックは、ピンチと逆転と、命の危機だった。


 スーパー・ロボットのエルフさんのおかげで、依頼は達成できた。レックが一人だけであれば、果たして生き残れただろうか………

 報告のため、レックはバイクで道を急いでいた。


「………分かってるけど、城壁がないのって、ファンタジーらしくないって言うか、むしろ、神殿の結界のほうがファンタジーらしいのか………」


 建物のシルエットが、徐々に形をくっきりとさせ始めた。田畑の合間に、町並みが見え始める。

 ただし、ファンタジー作品の雰囲気とは、少し違っている。


 城壁が、存在していないのだ。


「でも、やっぱり城壁に囲まれてこそ、異世界ファンタジーって気分だよなぁ~――っと、フラグか?」


 ロボットが、やってくるのか?

 そんな予感にバイクを止めると、ふと、後ろを振り向いた。まさか、あのスーパー・ロボットの人が飛んでくるのではないかと、確かめたくなった。


『ロボット、持ち込み禁止』


 そんな標識はないが、ここから先は、建物があふれている。田畑もあれば、あのロボットが着地すれば、大変だ。

 悪気が無くても、大変だ。


 レックは、つぶやいた。


「フラグ、大丈夫だったか………にしても、あのエルフ、何であんな警告したんだろ………いいヤツだったのに」


『スプルグの転生者を見つけたら、逃げなさい――』


『マヨネーズ伯爵』の都で、一人のエルフと出会った。第一印象が歩く90年代だったエルフが、別れ際に、確かにそう言った。

 ガラケーを自慢するエルフの、見た目が女子中学生による、警告だった。


 レックは、ぞっとした。

 ここは、夢と希望があふれる、魔法と剣のファンタジーな異世界なのだ。漠然ばくぜんと、転生者は、無条件に助け合う関係と思っていたが………


 警告を受け、自分の考えは甘かったのかと、危機感を新たにしたものだ。


「エルフ………だったよな、ロボットアニメのお約束の、美少女パイロット――っていうか、熱血だったけど」


 今となっては、ナゾだった。


 なぜ、警告をされたのだろう。レックは疑問を抱いたまま、見送ることしか出来なかった。


 なにより、かっこよかった。


 礼はいらないと、空へと飛び去ったのだ。いや、素直に魔法を使えよ、エルフだろ――と言うツッコミは、心にしまった。

 レックは、空気の読める男なのだ。


 感謝と疑問を、そっと胸にしまって、改めて走り出した。


 そろそろ、バイクを宝石に収納するか、駆け足の速度に落とすべきだろう。

 道路標識も、地面の速度表示もない。それでも、バイク乗りにとって、守るべきルールと言うか、マナーとして、教えられた。

 もう少し発展すれば、教習所や、白バイ様のような騎士様が現れるのだろうか………


「白バイに乗った、騎士様………」


 ツボったようだ。

 レックは、笑いにこらえながら、ふらふらしながら、バイクを進めた。もちろん速度は駆け足速度だ。


 とろとろと、時速10キロメートルだ。


 走ったほうが、速そうだ。


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