第32話 ピンチ、からの~


 ピンチの連続。


 それは、読者として、視聴者としては、とってもワクワクする、息もつかせぬ展開であった。どのようにして逆転するのかと、しかも、肝心なところで、次回へとつづく――なのだ。

 あるいは、続きは、CMのあとで――なのだ。


 実際には、そんな余裕など、あるわけがないのだ――


「わわわ、こ、ころぶぅ~――これが、スリップかぁあああっ」


 街道を外れた、半分が草原で、半分が荒野と言うところ。森まで10分もしない街道沿いは、ザコの皆様の残骸で、ぬかるんでいた。


 タイヤを取られて、ギュルル――と、空回りをして、スリップ事故だ。


「つ………って、あぁ、バリアか………――っ!」


 バリアが、発動した。


 転んでしまったが、運転していたレックは、投げ出されていない。すり傷はあるかもしれないが、さすがは、ややSFなバイクである。


 そして、距離を稼ぐことが出来たはずだと、レックはマグナムを取り出す。

 5発しか撃てないが、ハンドガンの倍の威力がある。目の前ならばショットガンだが、少し距離があるなら、マグナムがいいのだ。直撃をしなくても、ダメージを与えればいい。


 少し余裕を取り戻したところで――


「――もどれ、エーセフっ!」


 転がっていた相棒の頭に、とっさに手を置いた。

 メーターの中央の宝石に、かろうじて触れることが出来た。魔力を流すことで、宝石に収納される、便利な機能である。


 次の瞬間、土煙が上がった。


「エーセフっ!」


 ケンタウロスのバイク屋さんで、とっさに命名したが、いまではすっかり相棒だ。ゴブリンなどに、やられてたまるか。

 アイテム・ボックスに収納するほどの余裕はなく、持ち運びに便利な、宝石への収納にかけたのだ。


 その瞬間、ゴブさんの一撃が、地響きを立て………


 巨体だが、案外とすばやいようだ。相棒のエーセフが、あと少しでもその場にあれば、真っ二つにされていただろう。


 宝石は、遠くへと吹き飛んでいた。


 ぞっとしたレックだが、破片になっている様子はない、どうやら、無事のようだ。ややSFの、便利なバイクなのだ。持ち運びに便利な、宝石の中へと収納する機能がある。アイテム・ボックスに収納するのと、バイクの機能と、どちらの収納が早いのだろうか。

 宝石モードで、無事という結論で、十分だ。


 レックは、自分をほめたい気持ちだった。


「さっすが、エーセフ………」


 マグナムを、ゴブさんに向けた。

 狙い撃つ余裕はない。当たってくれと祈りつつ、目の前にいるはずの巨体へと向けて、ひたすらに引き金を引いた。


 至近距離なら、確実に倒せる。それほどの腕はない、あわてて撃てば、無駄うちと分かっている。


 分かっていても、撃ちまくった。


「ガルフ兄さんだったら、一発で終わったんだろうけど――」


 さすがに、これで終わっただろう。何発撃ったのか、レックは覚えていない。数える余裕はなかったし、終わっていて、ほしかった。


 ゆらりと、影が振り向いた。

 すぐ目の前にいるというのに、レックには、はっきりと顔を認識する余裕はなかった。巨体が動いた、それだけで十分なのだ。


 あわてて半回転して、次の攻撃をよけた。


 止まったら、やられると思え―—と、レックは生き残る手段として、『爆炎の剣』で、教え込まれた。

 言われたとおりにして、おかげで弾丸を無駄にしたが、生き延びた。


 土煙が、またもレックの視界を襲った。ズシン――という、ゴブさんの攻撃を受けて、その程度の感想であった。


「だが、これで――」


 レックは、構えた。

 どのような偶然か、ともかくも、ゴブさんのどてっぱらに直撃コースだ。コロコロと転がって逃げた偶然で、踏み潰されることもなく、真下にいた。


 レックは、狙い撃つ。

 残りが何発か分からない、頭を狙う必要もない、これで、トドメだ――と、引き金を引いた。


 カシン――


「ヤベっ!」


 マグナムは、5発しかない。振り向きざまに撃って、転がりながら連射すれば、早くも弾切れである。

 次の瞬間には、ゴブさんは足を上げて、レックを踏み潰すのだろうか。あるいは、蹴飛ばすのだろうか、ゴブさんの動きが、とてもゆっくりに思えた。

 3メートルを肥える巨体だからなのか、これがラノベやアニメでよくある、死の直前に、スロー・モーションになるというやつなのか。


 レックは、叫んだ。


「レーザーッ!」


 マグナムの前に、水球が誕生していた。何度も使ううちに、水球を生み出す速度が上がっていたようだ。


 威力は考えていないが………


「………は、ははは………そうだよな、ハンドガンで、下級魔法の半分以下で、マグナムでも下級魔法………オレの魔法って、じゃぁ、ランクは?」


 風穴が、開いていた。


 ボスのゴブさんは、そのまま体を真っ二つにして、崩れ落ちた。やや手がぶれるのは、レックの悪い癖だ。直射のはずなのに、ずらりと、横に崩れた。

 おかげで、押しつぶされる悲劇は避けられた。命からがら討伐して、その亡骸に押しつぶされる終わり方など、最悪だ。


 1メートル少々のゴブリンの中で、数倍の巨体という、人間をはるかに上回る3メートルの体が、崩れ落ちた。


「はぁ………はぁ………やっぱ、ボスだけはある。距離をとったのに、一瞬で斧が届くなんて………」


 レックはため息をつく。


 何か、忘れていたようで………背後に、おかしな影があると気付く。はっきりとした影ではない、そのまま気付かなければ水の中だ。

 思い出したのは、ゴブリンとスライムの、混成軍団だったということ。そのようなルールがあるわけではないが、ボスもまた、ゴブリンとスライムだった。


 巨大なゴブリンのボスは、熱湯レーザーで倒した。そういえば、何匹いたのだろうか。とっさの連続で、レックの思考力は、とってものんびりだ。


 レックは、そのまま前のめりに、吹き飛んだ。


「ふぎゃぁ――?」


 衝撃波に、そのまま吹っ飛んだ。


 スライムの破片も、一緒に飛んでいる。横目に、あぁ、スライムのボスの人もいたっけ――と、のんびりと思い出していた。

 では、攻撃を受けたのか。


 違うと、レックは背後の輝きでわかった。何者かの攻撃を受けたのだ。それは、なんだろう。

 スライムの破片が、ちょうどよいクッションになった。地面にたたきつけられたレックは、何とか起き上がると、顔を上げた。


 いったい、なにが起こったのだろうかと………


 空から、声がした。


「やっほぉ~、ピンチにお助け、異世界から、救世主がきたんだよっ♪」


 ふざけていた。

 ふざけたお子様の声で、ふざけていた。


 レックは、叫んだ。


「ろ、ロボットぉ~っ!」


 ロボットが、目の前にいた。


 5メートルほどの、スーパー・ロボットらしき巨人が、目の前にいた。そう、スーパー・ロボットだ。現実的な考察に工夫を凝らす、近年のロボットではない。現実的な色々を無視した、80年代ロボットアニメが、仁王立ちをしていた。


 ややSFどころではない、スーパー・ロボットだった。




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