第30話 レッツ、ガンアクション


 時刻はお昼過ぎ、レックはバイクにまたがって、遠くを見ていた。

 スナイパー・ライフルのスコープ越しであったが、ぼんやりと、他人事のようなうつろな瞳であった。

 さて、どうしよう。夢ならいいよね………と、前世の浪人生と、脳内のちゃぶ台を挟んで、愚痴りあっていた。


 ゴブリンの兄さん達が、手を振っていた。


「倒してしまっても、いいのだろ――案件かぁ~、って、死亡フラグだよ。転生者の先輩よぉ~、なに、広めちゃってるの?」


 ゴブリンは、人の姿のモンスターである。

 1メートル少々と小柄で、ハンドガンで討伐可能なザコながら、奪った武器を、あるいは、原始的な武器を作成して、群れで襲ってくる。


 手に手に武器を持って、大きく手を降っていた。

 仲間の輪にレックを迎え入れて、手にした武器を振り下ろそう。そんな元気で、いっぱいの叫び声が、風に乗って聞こえてくる。


 レックはギルドから、モンスターが大量発生していないか、調査をするようにと依頼をされた。

 できれば、数を減らしてほしい。予想外が起こる可能性があるため、シルバー・ランクの依頼となる。


 どこかで聞いた依頼だ、そういえば、ザコの皆様も、たくさん発生していたのだ。


「さぁ、実況の田中さん、盛り上がってまいりましたねぇ~………」


 スナイパー・ライフルの人が、ちょっとうるさい。


 解除できないのか、スナイパー・ライフルの人は、今日もおしゃべりだ。

 ホーン・ラビットを探していると、ゴブリンの皆さんが、行進をしていた。おそらく、20匹はいるだろう。

 バイクから、遠めにも見えたレックは、スナイパー・ライフルを装備していた。


「ゴブリンは連携できる、近づかれるとヤバイ、できれば探知をしながら、回り込まれないように注意………か」


「へいへい、ピッチャー元気ないですよぉ~、張り切っていきましょう~っ」


 なかなか撃たないので、元気付けてくれているようだ。

 スナイパー・ライフルの人は、いったい誰の設定なのか、すごく気になる。と言うか、誰かが隣で実況をしている以外に、これほどの実況が出来るのだろうか。


 あわてずに、狙いをつける。

 外れて、ゴブリンさんが勢いづいて、クリティカルしてガッツポーズで、外して………


「さー、ピンチです。残りもわずかとなってまいりました。実況の田中さん、ビビリのピッチャーにしては、がんばっています」


 レックは、冷静に、狙い撃った………つもりだ。

 しかし、スナイパー・ライフルの人は、狙撃手を挑発するとは、いい性格をしている。いや、いい性格をしているのは、こんな設定をした転生者だ。『田中さん』などと名前を用いるなど、いったい日本人の転生者以外に、誰がいるというのか………

 ぶちのめそうと、心に決めた。


 アイテム・ボックスから、新たなライフルの弾を取り出しつつ、遠くを見つめる。スコープ越しでなくとも、武器の形が分かる距離だ。

 スナイパー・ライフルの射程は800メートルと、かなりふざけている。4発中、1発でも命中させたレックは、腕がいいのだ。


 突進してくるゴブリンさんたちは、すごい度胸だ。


「野生の生き物なら、逃げ出してるだろうけど………」


 増えていくかもしれない。ライフルによる狙撃では、あまり削れなかった。相手は動いているし、近寄ってきたらと思うと、なかなか、厳しいのだ。


 だが、こちらに向かってくれればいい。

 そして、それがモンスターと、野生の生き物との違いだ。魔力の影響を受けて巨大化、凶暴化、何らかの変化を続けていく。放置するほど、低ランクの冒険者では危険なモンスターへと成長していく。


 見つけ次第、討伐しなければならない理由でもある。


「さて、ツー・ハンドの時間だっ!」


 気を取り直して、叫んだ。

 レックは、うるさいスナイパー・ライフルを収納、代わりにアイテム・ボックスからハンドガンを2つ、取り出した。


 両手で撃ちまくれば、何とかなるかもしれない。経験から学んだレックは、マガジンもたっぷりと追加した。

 前回、『爆炎の剣』との討伐において、マガジンが不足だった。弾丸自体は箱であったのだが、ゆっくりと弾丸を込める時間など、戦いながらでは、ムリなのだ。


 そして、百発百中も、ムリなのだ。


「バイクに乗りながら、ハンドガンを乱れ撃ち………悪くない」


 前世と違い、誰が笑うものか。むしろカッコイイと、一流の冒険者の姿である。不治の病である『中二』は、英雄の証なのだ。


 ハンドガンを両手に持って、ガルフの兄さんを真似て、レックは格好をつけた。


「マガジンもたっぷりだ………ははは、スライムの皆さんの、ゴブリンに………きっと来る、ふふふっはははははぁああああ?」


 本当に、来やがった。

 追加のゴブさんたちが、スライムの弟さん達も引き連れて、到来しやがった。前ばかり見ていたが、周りからも、レックめがけて駆けつけてきたようだ。


 気付けば、囲みこまれていた。

 半円状と言うか、後ろに回り込まれていないだけ、マシだ。真横にこられる前に、数を減らしたいものだ。


 10メートルも、離れていなかった。


「いたよな、やっぱ、ザコがたくさんいたよな………だからこそ、これだ、ツー・ハンドだっ!」


 いったいどういう仕組みなのか、分かっていれば、もう少し対処も違ってくる。

 冒険者を事前に配置して、ガンマン大会だ。


 レックは、撃ちまくっていた。


「はは、それなりに当たるな………やっぱ、戦いは数だよ、数………って、リロード、リロード――」


 乱暴にマガジンを放り出すと、アイテム・ボックスからマガジンを取り出す。腰に装備していればいいが、レックにとっては、こちらのほうが早いのだ。

 そして、今回は、たっぷりとマガジンを用意した。ばらくように、贅沢に使うと決めていた。

 レックの持っていたハンドガンと同じタイプにした。マガジンをあわせるためだった、もちろん、マガジンはたっぷりと購入した。


 何百発でも、ばらく所存であった。


 しかし、レックには、奥の手があった


「そう、レーザーだっ!」


 まだ、距離はある。

 レックは適当にハンドガンを乱れ打ちしつつ、熱湯レーザーを準備する。集中力が雑になってしまうが、それこそ、湯柱でもいいのだ。

 暴徒に向けて放水車が放水イメージでも、近づけなければいいのだ。

 水球が目の前に現れた、両手でハンドガンを向けている、その中央に現れた。


「いっけぇえええええっ!」


 気分は、レールガンだ。


 レーザーが、横なぎにモンスターをなぎ払う。巨大なホーン・ラビットも、直撃で息絶えた威力である。ザコなど、圧縮が不十分な熱湯でも倒せるだろう。

 少なくとも、接近される前に、足止めが出来るはずだ。


 ………湯気が、周囲を満たした。


「ヤベっ――探知スキル、オンっ!」


 レックは、叫んだ。

 魔法は、決して声を発しなければ発動できないわけではない。しかし、魔法を放つトリガーとして、声をかけたほうが発動しやすいのだ。


 熱血は、正義なのだ。


「………はっはぁああっ、ほら、ほらな、ほらな………よっしゃぁあっ」


 雄たけびを、上げた。


 とりあえずハンドガンを構えていたが、探知範囲では、動くものはなかった。

 生死判定はできない、それでも、動いているのか、動いていないのか、目視で困難な確認が出来るのだ。


 やはり魔法は、すごいのだと、レックは感激に、震えていた。


「そう、オリジナルの攻撃魔法で、無双するっ!………しゃぁ、やっぱ、オレって主人公っ!」


 調子に、乗っていた。


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