第12話 やぁ、やぁ、ご依頼ですか


 冒険者ギルド


 国家の下部組織ではなく、様々な国家をまたぐ組織のひとつである。冒険者になりたいと、村を飛び出したレックにとって、唯一のよりどころでもある。

 バイクを手に入れ、武器や食料も、山積みにした。アイテムボックスがあるために、とても身軽に見える。

 便利である。


 レックは、旅に出ると決めたのだ。ついでに荷物運びの依頼でもあればと、ギルドに顔を出したのだが………


「おいおい、てめぇのようなガキが来るところじゃねぇ!」


 テンプレ冒険者が、現れた。


 どうして、突っかかってくるのだろう。二年生になったとたん、後輩に向けて『おい、一年ボウズ』――と、先輩ぶった同級生が、目に浮かんだ。

 前世の浪人生が、遠い目をしていた。

 レックもかつては、ケガをしては危険だと、愛想笑いで引き下がったものだ。ケンカをするだけ、損であるためだ。

 うまくおだてて、メシをおごらせる上級者もいるが、それほどの話術は、レックにはなかった。

 どうしようか、日を改めるのも手だと考えていると――


「おや、レックじゃないか」


 おっさんが、後ろから現れた。

 剣を背負った、おっさんだった。

 15歳のレックからすれば、世の中、おっさんだらけだ。この場において、味方になってくれる知り合いは、一人だった。


「これはこれは、ゴードンの旦那じゃ、ありませんか」


 小物パワーを全力にして、レックは微笑んだ。

 腰を低くして、お得意様を前にした商人のように、手もみをしていた。本日の御用はなんでしょう、そう言って商談を始めてもおかしくはない、そんな笑顔であった。


 そして、本当にお得意様でもある。アイテムボックスの能力を買われて、レックは何度も、おっさん剣士のパーティーに参加していたのだ。

 荷物運びは、底辺冒険者には、いい収入源なのだ。


「まったく、相変わらずだな、レック………荷運びの依頼でも探してたのか?なら、どうだ、今度モンスターの討伐に――」


「やぁ、レック~………久しぶり」


 明るいお姉さんが、現れた。

 杖でおっさん剣士を突き飛ばしたのは、見なかったことにするのが、生きる知恵である。


 レックはさらに、腰を低くした。


「やぁ、やぁ、カルミー姉さん、いつ見ても若々しい………」


 相手は、お姉さんと言うことも出来る、30を少し超えたお姉さんだ。レックが13歳で村を飛び出して、しばらくお世話になったパーティーの魔法使い様でもある。

 魔法の杖を手にしてること、紫のローブをまとっていることで、見た目にも魔法使いと分かる。

 そしてレックに、魔法の基礎を教えた人物であり、言い方は別にある。


 恩人だ。


 先ほどの、不良がそのまま大きくなったような冒険者とは異なり、次世代を育てようと手を差し伸べてくれる、尊敬すべき大人たちだった。


 よろよろと、先ほどの剣士のおっさんが復活した。


「レック………気を使わなくてもいいぞ、コイツはもう、30のレベルに――」


 おっさんは、こんどは地面のシミとなった。

 先に30台になっていた剣士ゴードンは、魔法使いのお姉さんに、おじさん呼ばわりをされていたのだ。同じ30代になったことが、うれしかったのだろう。

 レックはこの光景を懐かしく思った。小物パワーを身につけざるをえない、命のやり取りだ。

 ご機嫌を損ねれば、シミの仲間入りをするのだ。


「レックちゃん、少し魔力上がったでしょ………ううん、ちょっと見ない間に、ぐん――って、伸びてる………」


 お茶目なお姉さんから、少しだけ真顔が垣間見える。子供っぽさを残したお姉さんであるのだが、魔法に関しては、別人格が顔を現すのだ。

 魔法の専門家、魔法に生きるお姉さんの、本当の姿なのか………


 大勢の冒険者は、魔力が少なくとも攻撃力を得られる『マジカル・ウェポンシリーズ』を頼りにしている。

 それでも、魔法使いと言う職種はなくならない。小さな魔力しか持たない人々との、差別化と言うことだ。

 では、魔法の杖の攻撃力とでは、どちらが上か。


 お姉さんは杖で魔法を放つ、ホンモノの魔法使いだった。


「おや、ゴードンの旦那、また地面のシミになってる………」

「どうせ、カルミー姉さんのご機嫌でも損ねたのよ、いつものことじゃない」


 お兄さんと、お姉さんが現れた。

 ガンマンの兄さんと、ファイターの姉さんだった。

 どちらも二十歳を前後する、一人前の冒険者と呼ばれ始めているお年頃だ。そして、レックの未来の姿だ。


「いやぁ、ガルフの兄さんも、ゼファーリアの姉さんも、お久しぶりでやんす。姉さんも、ますますお美しくなられまして――」


 新たに、ゴマをする相手が現れた。女性への言葉遣いのほうに重きを置くのは、宿命である、命に関わるからだ。

 いくつになっても、大切なことだからだ。

 忘れた愚か者が、ここにもいた。


「へっ、お美しいってよ、ゼファーリアなんか、がさつ――」


 地面のシミが、二つになった。さすがはファイターである、振動が足元から伝わるまで、なにが起こったのか、分からなかった。

 こぶしが、プスプスと煙を立てていた。


「ヤーねー、ガルフったら――レックちゃんは、こんな大人になってはだめですよ」


 こぶしを振り下ろしたスタイルのまま、お姉さんが、お姉さんぶった。素直にうなずく以外に、ひ弱なレックに、なにが出来よう。


 剣士のおっさんのゴードンをリーダーに、魔法使いのカルミー、そしてガンマンのガルフ兄さんに、ファイターのゼファーリア姉さんという、4人のパーティーである。

 13歳のボウヤが、運良く出会ったパーティーでもある。当時の印象から、いまもレックちゃんと呼ばれて、おかしくない年齢の差である。


「それでね、最近、いつもより大型のモンスターが出たんだって。それで――」


 お得意様からの、お誘いである。

 底辺冒険者のレックにとっては、とてもありがたいお誘いなのだ。安全に経験をつむためにも、お金を稼ぐ意味でも、必要である。


 ピロリロリーン――と、頭の中で効果音がとどろいた。



 パーティーに参加しますか?


 YES / NO



 選択肢が、現れた。

 今までのレックには思い浮かばなかった、前世の呪いである。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る